6「厄介な武器」

 魔獣は、日本刀を、素早く振るって、バーストブレイズを切り裂き、

打ち消した。もちろんミズキの魔法も。なおイヴの射撃は弾かれた。

魔獣は近接武器を盾にして、魔法を防ぐ、あるいは弾く事はあるらしいし、

そもそも狙いは腹部だから、足とは違って、こうなる可能性は高く、

ここまでは驚かない。


「な……!」


問題は、俺たちの攻撃を打ち消した後の一振りで

炎の刃が飛んできて、次の一振りで、氷の刃が飛んできた。

以前クラウが言っていた「風撃」に属性攻撃を組み合わせたようなものが

飛んできたのだ。

これは言うまでもなく、遠距離攻撃、しかし先の防御は、近距離的だ。


 ここでクラウが


《敵は、遠近両方に対応していると思われます》

「両方?」


直後、魔獣は、転移して、刀を振るい


「!」


俺はクラウで防ぎ、この後は、しばし剣と刀の打ち合いとなり、

魔獣が近距離戦にも対応している事、クラウの言葉を証明する形になった。


 そして、間合いを取ると、風の刃と闇の刃が飛んできた。

回避はしたが、この様に、遠近両用の武器を使って来るとは

聞いてなくて


(成長してるって事か……)


雨宮は言っていたダンジョンは成長すると、それは魔獣も同じこと

特に、ラスボスのアステリオスに関しては、最近、戦った人間が居ないらしく

雨宮が戦った頃の情報くらいしかなくて


「多分俺の知らない攻撃を、仕掛けてくるかもしれないから

気を付けた方がいい」


と雨宮も言っていた。どうやら、今がその時の様だ。


 あと全くの余談だが、ラスボスと戦ったことが無い人間が多いのは、

単純にDM目指して、途中で挫折する人間もいるが、

近年、宝目当ての冒険者が多い所為との事。

そう言う連中はDMの条件を見たしていない連中も多く

加えてラスボスはDMの条件を満たさないと、倒しても何も貰えないから

戦う意味が無いのである。


 さて遠近両対応と言う状況であるが、その攻撃も、あの刀によるもの。

つまり、あの武器をどうにかすればいい。

もちろん、通常攻撃で、対処するのは難しい。当然フルパワーなら簡単だが

ダンジョンごと、壊れかねない。

しかし対処法は、ある。もちろん雨宮から聞いた事だが、

これに関しては、当時と変わりないだろう。


 俺は、二人に作戦を伝え、協力を頼んだ。イヴは


「ご主人様の仰せの通りに……」


と承諾し、ミズキは


「……協力しますよ」


との事だが、その声から、いやいやで、仕方なくと言う感じが伝わって来た。

 

 とにかく、二人の協力は得たが、その前に、相手の動きを読まなければいけない。

取り敢えず、敵の遠距離攻撃を避けながらも、試しに近づいてみる。

そしてある程度近づくと、一旦攻撃をやめ、

巨体に似合わない素早いスピードで、接近してくる。

再度、間合いを取ると、立ち止まり、遠距離攻撃を仕掛けてくる。

 

 こちらとの距離で、攻撃を変えてくるのは、間違いない。

そして時々、転移を使う。ここで重要なのは、こっちがある程度、距離を縮めると

向こうが近づいてくると言う事。


「行くぞ……」


俺たちは、攻撃を避けつつも、ある程度の距離まで近づく、

魔獣は、接近して来て、刀を振るう。

俺たちは、こっちが望む方角へ除け、遠距離攻撃に移行しない程度の距離に移動する。

以後、この距離をできる限り保ちながら、望みの方角へと移動する

そう魔獣を誘導するのだ。もちろん注意を引くために、

軽く攻撃する事も忘れない。攻撃は、すべて刀で打ち消されたが


 なお魔獣は、動きは素早いものの、別の動作に移行する時は、少し間が開くので

刀を振るった後、間合いを取るのは容易だった。

あと、攻撃しながら移動もしない。ただし、こちらから攻撃を仕掛けると

防御の為に移動しながら刀を振るう事はする。


(よし、こっちだ)


 俺たちは、溶岩の近くまで移動した。そこに魔獣を誘導するのだ。

ただし、魔獣を溶岩に落とすわけじゃない。

そもそもアステリオスは溶岩が平気なので、落としたところで

全く意味はない。だが平気じゃない物もある。

 

 接近してきた魔獣は、左手の刀を振りかざしてきた。俺たちは素早く避け、

魔獣の背後に回りつつ、間合いを取る。そして振り返る魔獣。

右手の刀、無事だったが、左手の方は刃が溶けて、短くなっていた。

以前も述べたが、ここの溶岩は、特殊で周りにあまり熱を放出しない割には

鉄を溶かすほどの温度がある。


 そして魔獣は、無事な方も含め両手の刀を手放す。

光と共に、刀は消え、同時に其々の手に大剣が出現した。


(うまく行った)


 俺の狙いは、武器破損に伴う、強制的な武装切り替え、雨宮は言っていた


「アステリオスは、様々な武器を使う。面倒くさい武器を使ってきた時は

溶岩を使って、両手の武器を、片方だけでも破損させればいい

そうしたら、武器を切り替えるから」


ちなみに、直接的な武器の破損は、相当強力な攻撃でないとだめらしい。

後、こうも言っていた。


「ただ、楽になることもあるが、余計に面倒くさくなることもあるからな、

要は、賭けだな」


との事。


 魔獣が、装備した大剣は、見るからにリーチがあり、

攻撃力もありそう。あとかなりの重量がありそうで、

普通なら、重さで動きが緩慢になりそうで、

確かに刀に比べれば、動きが鈍くなってるが、

それでも軽々と振り回している。

でも、一番の問題は大きさ、リーチのこともあるが、それだけではなく


「また防がれた」


俺が撃ったバーストブレイズが、大剣で、防がれた。

大剣であるがゆえに、盾代わりになっていた。まあ刀の時とは違い、

何発かは、上手くすり抜けて命中している。

それでも、効率は悪い。そこで


「レーザプレイヤ!」


貫通性が高い魔法を使ってみたが結果は同じ、レーザー光線みたいで

細いから、すり抜けやすくはあった。だから以降は、これを主力とした。

ちなみにフレイの「透過弾」も試したが、剣はすり抜けても

大したダメージは、与えられなかった。

ついでにあの剣は誘導を無力化するらしい。


 攻撃は防がれやすいが、刀ほどじゃないし、

それに、あの大剣は遠距離攻撃をしてこないから、武器の切り替えは成功と言える


 さてイヴ、魔獣の、防御の隙をうまく突いているのか、

俺よりも効率的に攻撃を仕掛けている。一方、ミズキは攻撃をせず

ブツブツと何か言っている。


(また、途轍もない魔法を使う気だな……)


彼女が口にしているのは、魔法の詠唱である事は何となくわかった。

それが、強力なものである事も。


 雨宮曰く、魔法使いは、ある程度になると、俺の専用魔法の様に

詠唱せずに魔法名を口にするだけで発動させられる。

正確には頭の中で詠唱しているそうだ。そしてミズキも腕はいいので

多くの魔法は、無詠唱みたいだが、一部の強力な魔法は

詠唱を必要とする。

ちなみにミズキに関しては、「借用の儀」からの情報。


 まあ、彼女にDMになってほしくないからって、「絶対命令」で

攻撃の邪魔をするほど、俺は大人げなくはない。

先を越されないように、ひたすら攻撃を仕掛けるだけだ。

まあ、対抗意識を持っている時点で、大人げないのかもしれないが。


 これまでと同じく、接近してくる魔獣を避け、間合いを取りつつも

攻撃を仕掛け、そして


「やった!」


鎧の腹部の、破壊を確認し、思わず声を上げてしまう。しかし、タイミングが良いと言うか

悪いと言うか、ミズキが


「エレクパリクカノン!」


と叫び、杖を振り下ろす、そう魔法を発動させたのだ

すると彼女の目の前に、巨大な魔法陣が出現したかと思うと

そこから、眩い光が放出された。あとで知るが、

コイツは、かなり強力な光属性の魔法、上位魔法とかいう奴の一つとの事、

俺にはSFに出てくるようなビーム砲に見えた。


 そのビーム砲を、魔獣は大剣で受け止めた。俺は人が出来てるわけじゃないから

一瞬だが


(耐えてくれ)


と思ってしまった。しかし現実はと言うと、耐えきれず

二本の大剣は、どちらも魔獣の手を離れ、吹き飛び、

それぞれ壁に突き刺さった。


 そしてビーム砲は、魔獣に直撃、


「グォォォォォ!」


と咆哮をあげながら、押されていき、魔獣のいた場所が、

丁度、溶岩の近くだったこともあり、そのまま溶岩に落ちで沈んだ。

だが魔獣は、溶岩に落ちても平気だから、直ぐに上がって来るだろうと思いつつ

ミズキに


「いくら、出し惜しみなしだからって、こんな大技を、大丈夫なのか……」


強力な魔法を使えば、使用者への負担もデカいはず


「心配してくれてるんですか?」

「別に、ただ、途中で倒れられたら困るのはコッチだからな」

「大丈夫ですよ。私の杖には『生体タンク』が付いていまして

事前に上位魔法、三回分の魔力をためておきましたから、

あと一回は、負担なしで使えるんですよ」



『生体タンク』

魔力など、気力など生命エネルギーを事前に溜めておけるスキル



ちなみに、メキドレインは上位魔法ではないが、威力、魔力消費が

上位魔法なみで、一回分となったそうだ。



 そうこうしていると、魔獣が溶岩から上がって来て、


「グォォォォン!」


咆哮を上げたが


「なに!」


俺の方も、思わず声を上げた。魔獣の鎧の、残りの部位が完全に破壊されていた。


「これは、上手く、行ったようですね」

「どういう事だ?」


すると彼女は、


「別に、狙ったわけじゃないんですけど」


と前置きしつつも、どこか自慢げな言い方で


「アステリオスは、ある程度、鎧を壊して、溶岩に落とすと

残りの鎧がすべて壊れるそうですよ」

「初耳だぞ」

「私も、同胞の一人からしか聞いたことが無いので、

多分、ほとんど知られてないのかもしれませんね。」


この事も、雨宮の知らない事であった。


「まあ、これで少し、楽になったはずですよ。私に感謝してくださいね」


ほんと、最後の一言が余計だ。


 さて、鎧を失ったアステリオスはゆっくりと両手を広げた。


(遠距離攻撃に切り替えるのか?)


と考えてたが、この後、再び予想外の出来事が起きた。


「浮いた……」


魔獣は空中に浮かびあがり、天井の当たりで止まると

バリアーみたいなものが、その身を包んだ。

その直後眩い光に包まれ、光が消え、元の状態になると


「えっ!」


思わず声を上げてしまった。

俺たちの周囲に、ミノタウロスをはじめ、これまで倒してきたボスたちが

勢ぞろいしていたからだ。







 ここまでのボスが、勢ぞろいする中、三人の背後、出入り口付近で

なにかが割れるような音がしたが、三人はおろか、七魔装も、

再出現したボスたちに、気を取られ、その事に気づかなかった。

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