5「最終ボス」

 ボスの部屋までは、それなりに距離があったが、

一度も魔獣とは出くわさなかった。

「周辺把握」よれば、俺たちが近づくと、避けるように魔獣たちが転移されていく、

そして疑似魔獣も転移してこない。

まるで、大きな戦いの前の、静けさを演出しているかのようだった。


 何事もなく、ボスの部屋に到着した。そこは、かなりの大広間で

地面が広く、更にその周りを溶岩が流れていて、

まるで、溶岩のなかに浮かぶ島ように思えた。


 部屋の奥の方に石椅子に、腰かけるミノタウロスの巨大な石像。

ミズキが横で


「話には聞いていましたが、本当に石像があるんですね」


俺も、雨宮から聞いていた。最終ボスの部屋には巨大な石像があると

だが、コイツは石像じゃない。雨宮の話だけでなく、

「周辺把握」でも分かっている。


(ここからが正念場だ)


そして第三区画で会ったあの人とは、また違ったダンディな声が響いた。


「よくぞ来た。我が名は、アステリオス。このダンジョンの主なり。」


雨宮の話によると、声が聞こえるときと、聞こえない時があるらしい。

なお雨宮の時は聞こえたらしいが


「数多の魔獣を倒し、この場にたどり着いた。その力、我に示せ!」


地面が大きく揺れ、巨大な石像が、全身がひび割れつつも、立ち上がり


「グオォォォォォォォォォォォォォ!」


咆哮をあげ、表面の石が剥がれ落ちた。

そう石像の中に魔獣がいたのだ。こいつこそ、第五区画のボス、

いや、このダンジョンの最終ボス、アステリオス。


 見た目は、第一区画のボスである。ミノタウロスを一回り大きくして、

身体はより筋肉質で、更に、茶色の鎧の様なものを身に着けている。

角は、大きく、どことなく凶暴さを感じさせ、

更にその顔も、凶暴さを醸し出している。

話によると、このダンジョンにしかいない魔獣との事。

あと、上級魔獣と異なり、「魔力吸収」は持っていない。


 そしてアステリオスに両手を大きく広げると、

左右それぞれの手に、光と共に、巨大な斧が出現。


(来る!)


と思った瞬間、目の前にいて、斧を振るってきた。


「!」


咄嗟に避けた。


《大丈夫ですか》

「ああ……」

《今のは転移ですね》


転移を使ってくるのは、聞いてはいた。ただ乱用はせず、

時々、不意打ち狙いで使ってくると言う。

まさか、最初からいきなり使って来るとは思わなかったが。


 とにかく俺たちは、間合いを取り、


「バーストブレイズ!」


俺は、魔法を使い、イヴは、銃器で攻撃を始める。ミズキは、


「アキュムレイト……」


と言ってたような気がする。彼女は、杖を構え、


「ファイヤーシュート、ウォーティショット、ウィンドカッター……」


と呪文を唱えていた。


 とにかく俺たちは、何度も、巨体の割には素早く近づいてくる魔獣から、

間合いを取りつつ攻撃を続けた。

なお、遠距離戦だが、転移による突然、近距離戦に備え、

武器はクラウに変更している。

あとミノタウロスの時もそうだが、魔獣は素早く動ける割に回避行動はしない。


 転移には、気を付ける必要はあるが、基本は、ミノタウロスと同じ、

特定の場所を順々に、攻撃していく。最初も同じく足。

ただミノタウロスよりも、肉体的に強い上、鎧の様なものまで着ていて、

破壊しないと攻撃が通らない。しかも鎧が結構丈夫な上、「透過」を無力化する。

こっちも、制限がなくなって、レベルアップしているとはいえ

手ごたえから言って、楽は出来そうになかった。


 ここまで、呪文を唱えていたミズキが


「リべレーション!」


と叫ぶと、彼女の周囲に、複数の魔法陣が一瞬、現れたかと思うと、

炎やら、氷やら、光弾が大量に出現、

俺やイヴが攻撃を仕掛けていた魔獣の足に向かっていった。


「これって……」


ミズキは、


「ジェヴォダが使っていたのと同じ、メキドレインですよ」




「アキュムレイト」

攻撃魔法を、あえて発動させず、溜めた状態にする呪文。

「リべレーション」と言う掛け声で、魔法を解き放つ。

この状態にすると、時間経過で威力倍増するほか、

複数の魔法を組み合わせる際にも、重宝する。

ただし、魔法の暴走を起こしやすいと言う短所がある。


「メキドレイン」

アキュムレイトで、複数の魔法を組み合わせる事で、発動する

複数の属性攻撃の雨、あるいは嵐と呼べるもので

魔法と言うより、現象に近く、発動させるには

組み合わせ時の、魔法の順番、間隔、発動までの時間など

色々条件があり、発動させたとしても、コントロールが難しく

腕のいい魔法使いじゃないと、扱えない。

なお魔法ではないが、スキルの組み合わせでも、同様の事が可能

こっちの方は、魔法よりも楽である。



 ジェヴォダは、無差別に撃ってきたが、

彼女の場合は、魔獣の足に向かって一極集中で放った。


「最後ですから、出し惜しみは無しにしないと」


彼女の放った一撃で、鎧は破壊され、本体に見るから、大ダメージを与えていて、


「グォォォォォォォォォン!」


と魔獣は、一段と大きな咆哮を上げた。

あとミノタウロスの事があったから、次に移るかと思ったら、その通りで


《次に移りましょう。場所は……》


クラウが言う前に、ミズキが、言った


「次は、腰でしょう?」


ミズキは、サーチで、次の攻撃に移るタイミングが分かったらしい。


「フフッ」


と笑い声をだした。クラウによると確かに腰ではあったが、

しかし、兜で表情は分からないが、

意地の悪そうな笑みを浮かべている様な気がした。


 さて、DMになれるかは、この戦いに掛かっている。アステリオスを倒した際

パーティーメンバーの中で、撃破に一番貢献した人間がDMとなる。

貢献と言うのは、はっきり言えば、ダメージの事。

なお止めを誰が刺すかは関係ないとの事。


 そしてミズキは、自分がDMになる為、出し惜しみなしで行くみたいだった。

当初、俺は、誰がDMなってもいいと思っていた。

誰が成っても同じだと思っていたからだ。

ミズキから「隷属契約」の話を聞くまでは。


 まあ彼女がDMに成ったって、「絶対命令」もある訳だから、

以前に、彼女の言った通り、結果は変わらないが、

俺やイヴが、DMになった時に比べ、彼女にとって、

いい結果になる事は違いない。


 故にミズキへの憎しみを捨てきれない俺は、彼女が喜ぶ結果にはしたくなかった。


(絶対、ミズキをDMにさせない)


と強く思い、攻撃に力を入れた。


 少しすると、敵の動きに変化が起きた。両手の斧が消えると、

今度は杖が出現した。


「グォォォォォン!」


と、咆哮を上げると、魔獣に周囲に、フォグタートルと同じく

火球が出現し、思った通り飛んできた。


「………!」


俺とイヴは、回避し、ミズキは防御魔法で防ぐ。


(遠距離に切り替えたか)


アステリオスは、ミノタウロスと異なり、武器を切り替える事で

近距離から、遠距離に攻撃を切り替えてくる。

雨宮の話では、この時の魔獣の攻撃は、こっちの遠距離攻撃を

確実につぶしてくるとの事、実際、敵の攻撃を避けながら、

バーストブレイズを使ったが、魔獣が放ってきた火炎弾に、すべて潰された。


 この時の対処は、攻撃を潜り抜け、接近戦に持ち込む事、

雨宮もそうやって対処した。

なお遠距離攻撃を行ってる際は、同時に行えそうな格闘などの

近距離攻撃を一切しないそうだ。


 そして俺は、武器をクラウにした状態で、イヴは村雨を装備し、

敵の火炎弾を潜り抜け、接近して攻撃を仕掛けた。

更にミズキも、打撃力を上げる魔法で杖を強化し、杖を魔獣に叩きつける、


 アステリオスは、武器自体に何かあると、武器を切り替えるが

大体は、同系統の武器で、遠距離、又は近距離への切り替えは、

こっちの状況に考慮せず、間を開けて行うとの事。


 攻撃を、続けていると、丁度、鎧を破壊した辺りで

突然魔獣の体が光りだす。


(まずい、離れないと)


ミズキは、状況を察したのか、既に離れだしていて


「イヴ、魔獣から離れろ!」


と命令しつつ、俺も離れる。次の瞬間、魔獣が周囲に衝撃波を放つ


「うわ!」


二人は、逃げ切れたようだが、俺は、ギリギリのところで喰らってしまった。

「自動調整」でダメージはないが、それでも体は、吹っ飛び、

宙を舞ったようだった。


 そして、「習得」のお陰で、上手く受け身を取り、綺麗に、着地は出来たが

溶岩に落ちる寸前の位置だったので、大丈夫と分かっていても、ゾッとした。

そして俺は、アステリオスを見た


(今のは『気力放出』だな。近距離でくらっていたら、壁まで吹っ飛ぶんだったな)


壁の下は、溶岩だから、普通の人間なら、おしまい。


 この様に魔獣が近距離攻撃の時は、遠くにいるから安全かと言うと

不意打ちの転移があるから、そうでないように

接近攻撃をしてこないから、近くにいると言って、安心はできない。

 

 魔獣は、両手の杖を、掲げた。片方は緑色に光り、

もう片方はそして、青くに光った。すると竜巻が幾つも発生し、

更に大きな氷塊が大量に出現し、俺達に向かって飛んできた。


 俺たちは、氷塊を回避しつつ、時には破壊し、

そして、あちこちに発生し、適当なようで、

俺達を、邪魔するように、動き回る竜巻を潜り抜け、

魔獣に、接近し、攻撃を再開したが、

ただ一番遠くに、飛ばされた関係上、イヴが、最初にたどり着いたものの

次はミズキで、俺は、更にその次なので、彼女に遅れを取ってしまった。

しかも、俺が攻撃を開始すると


「お先に~」


と人を馬鹿にしたような口調で、ミズキは言ったので、苛立ちを感じつつ

あまりいい事ではないが、その怒りをぶつけるように

攻撃に力が入った。


 そして、アステリオスが


「グォォォォォォォォォン!」


と一段と大きな咆哮を上げ、


《次は、お腹です》


とクラウが言い、次の部位に移行しようとすると、両手の杖が消えたので

近距離戦に移ると思い、一旦間合いを取った。

直後、魔獣の両手に日本刀が出現した。その姿に


(宮本武蔵……)


と思ってしまったが、とにかく予想通り、近距離攻撃に移ったと思ったので

こっちは遠距離で対応した。


 しかし、この後、予想外の状況が起きた。

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