4「隠しボス」

 ジェヴォダが、前足の爪で襲い掛かって来る


「!」


俺は、クラウで受け止めた。「自動調整」が作用したものの、

かなり重い一撃。普通なら、剣は折れ、そのまま即死だろ。


「グ……!」


そして、爪と鍔競り合いの様になるが、直ぐに、俺を援護する為か

イヴが銃で攻撃を仕掛け、魔獣は、転移で、それを避け

俺は、解放されたが、魔獣の注意がイヴに向き、

転移で、接近し、爪で襲い掛かるが、彼女も斬竜刀を装備し応戦していた。


 そして今度は俺が、彼女に加勢しようとした。丁度その時


「ポイズン・スレイブ!」


ミズキが、拘束魔法を使ったが


「何!」


杖から伸びたロープは、一度は魔獣に巻き付くが、直ぐに破壊された。

そう無力化されたのだ。


「そんな……」


落胆した様子のミズキを尻目に、俺は魔獣の方に向かっていく


《あの魔獣は、防御スキルは持っていないようです。

どこからでも攻撃を仕掛けることが出来ます》


との事なので、俺は、彼女と鍔競り合い状態の魔獣に、

横からこっそりと、近づき攻撃を仕掛けたが、


「えっ!」


寸前の所、転移で逃げられた。


《後ろです!》


振り返ると、魔獣は、背後の離れた位置にいた。

唐突だったから、呆気にとられ「周辺把握」による確認が遅れた。


 そして魔獣は、口を上げながら


「ウオォォォォォォォォン!」


と咆哮を上げると、魔獣を中心とした広範囲に

炎、氷、岩、光弾、黒い球、そしてうっすら透明な球が大量に出現し、

こっちに飛んできた。


「わわわわわわ!」


属性攻撃の雨あられ、取り敢えず、回避行動と言うが、

俺は逃げまどった。大丈夫と分かっていても怖いので


 魔獣は、そんな中を、素早く動き、俺に襲い掛かって来た。


「クッ……」


剣で防いだ。するとさっきとは違い、鍔競り合いをしようとはせず

魔獣は間合いを取った。どうやら一撃離脱戦法に切り替えたらしい。

俺は、フレイに切り替えて、攻撃を仕掛けようとしたが


<今は、まだダメよ、無駄撃ちになるから>


彼女の声で、攻撃を躊躇した。直後、魔獣が仰け反った。

どうやら、イヴの銃撃だったようで、魔獣は、彼女の方へ向かっていった。


 未だ、属性攻撃の雨が降り、俺は、攻撃を避け続け、

ミズキは、防御魔法で壁を作って耐えていた。

ジェヴォダも「魔力吸収」を持つうえ、

吸収されない拘束と状態異常魔法は、無力化されたので、

打つ手がないのかこの状況。まあ逃げまどっている俺も他人事言えないが。


 一方、イヴは、攻撃を避けながらも魔獣相手に、善戦しているようであった。

ちなみに、彼女の魔法石は、力を完全には取り戻していない。


(彼女に任せておけばいいかな?)


少し心苦しかったが、そんな事を思ってしまった。


 しかし、現実は甘いものではない。イヴと戦っていたジェヴォダは

間合いを取り


「ヴォン!」


と吠えたと思うと、二匹になった。


「分身!」


 片方は、青一色のシルエットみたいなもので、もろに分身と分かるものだった。

そして分身は、イヴの方に向かい。本体は俺の方に向かってきた。

相変わらず、一撃離脱戦法で、基本的に、間合いを取りつつ、

時折爪で襲い掛かって来る。俺は剣でガードし、魔獣は再び間合いをとる。

この繰り返し。防御スキルは無いとの事だが、

他の上級魔獣よりも、一味違う強さを感じ。


(ゲームの隠しボスみたいだ)


そんな事を思ったが、後に、本当に隠しボスだった事を知る。


 さてジェヴォダとの攻防が続く中、突如フレイが


<読めたわ……アタシに切り替えて>

「フレイ?」



スキル「誘導」

延距離攻撃を、確実に対象に充てるスキル

分析スキルが付与されていて、それによって相手の動きや

弱点などを、調べ上げる事で発動する。

なお弱点など分析するには時間がかかり、失敗する場合もあるが

動きだけなら早く、失敗する事もなく、当てるだけなら、動きだけでいい。



転移を使うジェヴォダ相手では、動きも分析に手間取ったそうだ。


<アンタは狙わなくてもいいけど、出来るだけ銃身を魔獣に向けて

私の合図で撃ってよね>


との事だった。少し高圧的に感じたが、丁度その時、

火炎弾がすぐ側に、着弾した。当たっても大した事ないのは分かっているけど

恐怖を感じ


(さっさと、この状況を終わらせよう)


取り敢えずフレイに切り替え、銃身を相手に向けつつ

雨あられの属性攻撃を避け続け、そして


<撃って!>


俺は引き金を引く。すると、発射された弾丸、ホローポイント弾は

最初、魔獣が転移を使ったから、避けられたと思ったが、


「ギャワン!」


と魔獣は悲鳴を上げ、仰け反った。どうやら命中したようだ。

あとイヴとの戦いでは、彼女の攻撃が当たっていたが

声を上げることは無かったが、今回は悲鳴を上げた。


<うまく、急所に当たったみたいね>


フレイによると、適当に撃っても、誘導スキルで、当てることは出来るが、

弱点も分析済みなので、彼女の言う通りに、撃てば急所を当てれるらしい。


「最初から説明しとけよ」


と思わず言ってしまった。まあ彼女に限らず説明不足の奴は多い


 急所に当てたとは言っては、向こうは健在なようで、動きを停めることなく

こっちに、勢いよく向かってきた。


<撃って!撃って!撃ちまくって!>


とフレイが言ってきたが、それよりも向かって来るジェヴォダが

恐ろしくて、俺は、引き金を引き続けた。

しかし弾は命中しているのに、全く、怯む様子はなく突っ込んでくる。

俺もひたすら撃ち続ける。


そして魔獣は突如として、失速し、俺の目の前で倒れた。

同時に、属性攻撃の雨も止んだ。イヴもこっちにやって来たので、

分身も消えたようだった


「やったか?」


その時、ジェヴォダは体を、僅かに起こし、前足を伸ばしてきた


「!」


思わず警戒したが、そのまま力尽き、消滅した。

そしてファンファーレが鳴った。


「勝った……」


レベルアップの音もして、結界も消えた。


(そう言えば、途中から転移は使ってこなかったな)


ふとそんな事を思うと、伝わっていたのか


<急所を撃たれて、心を乱されたんじゃない>


「転移」は心が乱れると使えなくなる事があるらしい

この事について、これ以上考えることは無かった。

なぜなら、目覚まし時計の様な音がしたからだ。


「どうやら規定数に達したようですね」


とミズキが言い、


「いよいよだな」


ついに最終ボスとの戦いが待っている。一休みしたいところであったが、

さっさと、終わらせたいと言う思いもあって、

俺たちは、先に進もうして、少し歩いたところで


「ちょっと、アンタ達、忘れものよ!」


と呼び止められた。


 振り返るとポニーテールの髪型に、髪の色は黒で、顔立ちも日本人的で

凛とした顔立ちで、美しいと言うよりは、格好いい系の美人がいた


(確かこの人は……)


冒険者ギルドを含め町で、何度か見かけた事が有る冒険者だ。

確か、雨宮の知り合いで、シズって呼ばれていたはず。


「ジェヴォダの『ラック』よ、今度こそ忘れずもってきなさい、

じゃないと、後悔するわよ」


彼女の、足元には、宝箱があった。倒してから、直ぐ現れなかったようだから

「ラック」なのだろう。


戦利品には、興味はない、むしろ回収すること自体、面倒に思っていたが

ここで断ると、それはそれで、面倒な事になりそうな気がしたのと、

「ラック」と分かった以上、最初の一件の様に、置いていった事で

ひと騒動になったら、心苦しいので、彼女の言う通りにすることに。


 宝箱を、開けると中にはコインは無く、代わりに


(水筒?)


中に入っていたのは、黒くて500mlくらい入りそうな

俺には見慣れているが、この世界じゃ、見たことが無い金属製の水筒だった。


「それは、『ドリームボトル』よ。レアアイテムなんだから」


俺は、何の気なしに、瓶を手にした。


「アタシも、持ってるわ。アンタたちと同じ様にジェヴォダを倒してね」


そう言うと、彼女は、どこからともなく、同じ型の水筒を取り出した。


「この中に、水を入れて、少し置いとくとね。

自分が飲みたいって思ったものに変化するの」


この後、残念そうな顔で


「お酒には、ならないんだけどね」


と言った。

まあ、お酒の事はともかく、それはそれで、便利そうであったが、


「それだけって、思ってるでしょ?」


と俺の心を読んだかのように言い、


「もちろん、違うわよ。これには、もっとすごい力が……」


言いかけた時、電話の呼び出し音の様なものが聞こえた。


「ちょっとゴメン」


と言って、懐から、雨宮が持っていたのと、似ている携帯電話の形をした

通信スキル付きの、マジックアイテムを取り出し、大声で、


「どうしたの、アキラ!……分かった!今から、そっちに行くから!」


話を終えると、


「ごめんね、大声じゃないと伝わらなくて」


と軽く詫びた後、


「探索ルートにいる弟子が道に迷ってみたいで、ちょっと、

迎えに行かなきゃいけないから、それじゃ」


と言って彼女は去っていった。




「探索ルート」

第五区画にある魔獣たちと戦わずに、宝が置いてある部屋を回れる道の事、

宝目当ての冒険者用の道で、疑似魔獣さえ出現しないが、ただし道は悪く、

その上、罠が仕掛けられている。





 そしてシズが去ったあと、ミズキが、


「あの人って、町でよく見かける飲んだくれですよね。

この前も、通りで酔いつぶれてましたよ」


確かに、ギルド以外で見た時は大抵、酔ってて、

あと酔った状態でinterwineにやって来て、

ラーメンを注文していたのをよく覚えている。


「信頼できるんですか?」


と言ったので


「助けたふりして、人を、生贄にしようとする奴よりかは、信頼できる」


と言ってやった。返答は無かったが


 とりあえず、試してみようと水筒に「創造」で作った水を入れて


(飲みたいと思ったものか、そういや、ぶどうジュースが飲みたいな)


そんな事を思いながら、蓋をして、水筒を一旦、宝物庫に仕舞った。


 そして俺たちは、再び、移動を開始した。

目指すはこの区画の奥にある大広間、そこには、この区画の、

いや、このダンジョンの最終ボスが待ち受けている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る