3「最終ステージ」

 刑務所近くに設営しているテントからジムが出てきた。

その後、建物に入り、受付を済ませ、ダンジョンの入り口ではなく

転移の間に、向かった。


 転移の間には、大きな石、転移の碑石があって、

その向こう側に小さな石を並べて出来た大きな円があった。

この円の中にいる者が碑石の力でダンジョン内に転移される。

また、エスケープペンダントなどで、ダンジョンから転移してきた者は、

この部屋の、円以外の適当な場所に出現する。


 今回は、特別に碑石の使用が許されているが、操作をするのは、刑務所職員


「それでは、転移を行います」


この時、ジムを含めた大勢の冒険者が、円の中に入った。


「手間が省けた」


と言いながら、ジムは懐から、水晶のようなものを取り出した。


 そして、第四区画の入り口への転移が行われたが、

そこにジムの姿は無く、彼は、別の場所にいた。


「うまく行ったな」


水晶を見ながらほくそ笑む。この水晶のような物は

碑石に干渉するマジックアイテムである。

これによって彼だけ、別の場所に転移したのだ。





 第五区画は、火山地帯、第一区画同様、洞窟の様な場所もあるが、

溶岩が流れる広大な空間も存在する。なおここの溶岩、普通とは異なり

溶鉱炉以上の温度で、鉄を一瞬のうちにドロドロに溶かすそうだ。

その割には、周囲にあまり熱を放出しないらしい。それでも暑い。


 俺たちは、第一区画と同様に「周辺把握」を使って、魔獣の位置を確認し

片っ端から魔獣を倒し続けた

「周辺把握」で確認したところ全体の広さは、これまでの区画よりも

何倍も広く、桁違い。


 そして魔獣の数も、桁違いで、色んな魔獣の大きな群れ、

いや軍隊と言ってもいいのかも、これまで戦ってきた敵は、総登場の上、

更に、サラマンダーや身体が溶岩の様になっているラヴァスライムや

赤いリザードマン、炎を纏う鳥型魔獣のリミフェニクスなど、

炎系魔獣が追加される。


 雨宮の話、と言うかアイツ自身、他人から聞いた話らしいが、

数だけでなく強さも、桁違いとの事で、既存の魔獣たちは強化され、

新規の魔獣たちも強いとの事。


 しかし強くなったのは、奴らだけじゃない。

実感はあまりないが、こっちもレベルアップしている。加えて


「バーストブレイズ!」


第五区画に入って、魔法も完全に力を取り戻している。

更に「魔法強化」も使えるようになって、

一応、ダンジョンの事も考えつつ、強化が出来るので

この時の敵は、ゴブリンとオークの、何百体もありそうな

連合軍だったが二、三発で、全滅状態に追い込んだ。


 こんな感じで、通常の魔獣程度なら、これまでと大して変わりは無かった。

むしろ、楽なっている気もした。あと魔法だけだと疲れてくるので体力回復を兼ねて

時折クラウで敵を倒していたのだが、その時の手ごたえからも、

第三区画よりも歯ごたえは無い。


(やっぱり俺は強くなってるのかな……)


 雨宮はこうも言っていた。


「ダンジョンマスターを目指しているなら、レベル稼ぎが十分出来てると思うから

通常魔獣は苦戦しないはずだ。むしろ敵が弱くなってる気がするはずだ。

ただ……」


それでも気を付けなければいけない事が二つ有る。一つは敵の物量。

場合によっては、大人数が転移で出現することもあり、

突如、敵陣のど真ん中と言う事もある。


 もう一つ、これが一番大きい


「キシャァァァァァァァァ!」


 魔獣を倒して回っていた俺たちの元に、咆哮と共に、ソイツは飛んできた。


「ドラゴン……」


それは、赤い体躯をした、その名もレッドドラゴン。

第五区画はこのような大型の上級魔獣が出現する。

こいつ等は、疑似魔獣だが、妙に芝居がかった登場の仕方をするらしい。

実際、レッドドラゴンは、俺たちに周りを何度か、まわった後

俺たちの前方斜め上辺りで、止まって


「キシャァァァァァァァァ!」


と再度咆哮し、その後、着地した。


(ゲームのボスキャラが出てきたみたい)


そんな事を思った。


 まあ実際、中ボスみたいなもので、戦うかは自由であるが

規定数を満たすには、こいつ等も、一定数倒さなければいけないらしい。

ちなみに、上級魔獣が現れると、通常魔獣は転移等でいなくなる。


 戦う前にペンダントを見て撃破数を確認し、

いざバーストブレイズを使おうとするとクラウが


《待ってください!》

(どうした)

《この魔獣から、スキル『魔力吸収』を感知しました。攻撃系魔法が吸収されます》


吸収されると、体力が回復したり、一時的に強化されたりする

従ってバーストブレイズは使えない。


 更にミズキも、


「バーストブレイズは使わない方が良いですよ」

「分かってる。『魔力吸収』だろ。クラウから聞いた」

「そうですか……では私は、吸収されない魔法を使わせていただきます」


そう言うと杖をドラゴンに向け


「ポイズン・スレイブ!」


杖から、毒々しい色をしたロープのようなものが飛び出すと、ドラゴンを拘束した。

これは状態異常付き拘束魔法で、この手の魔法は吸収されないとの事。


「今のうちに、どうぞ~」


と嫌味ったらしい言い方をするが、とにかく、俺とイヴは攻撃を開始した。

倒し方は、ミノタウロスと同じく、特定の場所を順番に攻撃していき

防御スキルを弱らせ、とどめを刺す。

 

 動きを押さえていたから、火は吹かれたものの、

こっちに向けることは出来ないし、それ以外の攻撃をされる心配は無く、

毒で多少弱体化しているようであったが、それでも丈夫なので

骨が折れた。あと必殺技は、ボスに取っておきたいので使わない。


 防御スキルを弱らせ、ドラゴンの脳天に剣を叩き込む


「シャァァァァァァァァァァァァ!」


と言う断末魔を上げてドラゴンは、沈黙し、死骸は消え、宝箱が残った。

ボスとは違い、戦利品を回収しなくても、撃破数はカウントされる。


「300か……」


確認してみると撃破数が、確認前に比べ、それだけ増えていた。

上級魔獣を倒すと、カウントは1ではなく、百単位で増える。


 ドラゴンの撃破を確認した俺たちは、戦利品を回収したのち、

急ぎ足で先に進む。なんせ食糧がもうないので、

今日中に終わらせなければならないからだ。


 この後は、ひたすら魔獣退治。大群にこっちから向かっていくこともあれば

転移されて向こうからやって来ることも、敵陣のど真ん中も

体験したが、イヴやミズキがいることもあって大して苦戦はしない。


(なんだかRPGと言うより、大勢の敵を相手にするアクションゲームみたいだな)


バーストブレイズで大人数を倒しつつも、クラウの剣戟で敵を切り裂き

時にはフレイの射撃で、撃ち殺していく、特に疑似魔獣は血を流さないし

死骸は瞬時に消えるから、よりゲーム的で、俺は、爽快感を覚えていた。

まあ、普通の魔獣も消えるが、少し時間がかかる。


 ただ爽快感も、長くは続かない。時間が経つにつれて作業的になっていく。

特に上級魔獣、レッドドラゴン、キマイラ、バジリクス、

あの巨大蜘蛛の親玉っぽい超巨大蜘蛛、何だか分からない一つ目の魔獣など、

どれも、「魔力吸収」を持つが、影響を受けないミズキの拘束魔法が

悔しいが優秀なので、敵の攻撃を押さえつつ、こっちが一方的に、

攻撃できるので、楽ではあったが、作業的でもあった。


 作業的になると、どんどん億劫になっていく。


「はあ~~~~~」


魔獣を倒した後は、気持ち的な疲れを感じ、ため息が出る

まあ作業的になるのは、このダンジョンに限った事じゃなくて

普段の仕事でも、そうなる事が多い


あと、戦利品は回収していたが、途中からは、それさえも億劫に感じて、

回収をやめ、ひたすら作業的に魔獣を倒し続けた。

そして、とある上級魔獣を倒した直後、バッジを確認すると、

結構な数字になっていたが、ふと思い立って、

この区画の分だけを算出した。なお区画に入る前の数値は

覚えやすかったので覚えている。


「3000か」


まあ上級魔獣の事が有るから、

俺たちは、実際にこれだけの数を倒したわけではないのだが

これでもまだ、規定数に達してないようだ。 


 さて魔獣を倒したが、今回、戦利品は現れない。しかしその代わりに


《大変です、結界を張られました》


よく見ると、周囲に透明な壁の様なものが見えた


(あの時と、同じだ)


以前ゴロツキに襲われたことを思い出す。


「どうやら閉じ込められたようですね」


とミズキは警戒しているのか、声が震えているようだった。


《何かが転移してきました》


俺の方も、確認していた。確かに魔獣が一匹、結界内の少し離れた場所に現れ、

こっちに向かって来る。そして姿を見せたソイツは、高く飛び上がり、

空中で一回転してから、俺たちの近くに着地した


(狼……結界もコイツの仕業か?)


現れたのは、狼型の魔獣で、黒い毛並み、牛くらいの大きさ

目つきは鋭く、額にも第三の目の様なものが付いている

そして獰猛さをアピールするように、牙を剥き出しにして

唸り声をあげた。結界の所為で逃げられない。


《何でしょうか、この魔獣は》


クラウは、知らないようだったが、ミズキは


「ジェヴォダ……」


とその名を呼んだ


「知ってるのか?」

「ええ、かなり珍しい上級魔獣ですよ」

「上級魔獣?さっき倒したばかりじゃ?」


上級魔獣は、通常魔獣を、正式な数は不明だが一定数倒す事に

出現する。この様に連続で出現する事はない。


 疑問を抱いたが、それを深く考える暇は無かった。

なぜなら魔獣が、俺の目の前に転移し、前足の爪で襲ってきたからだ。

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