2「争いの森」

 森の中で繰り広げられてる光景を見て


「うわぁ~~~~~」


思わず、そんな声を上げてしまった。

思った通り、区画のあちこちで、冒険者同士が、戦っていた。

お互いに理由があっての勝負なんてものじゃない。

みんな目が血走ってる上に、据わっていて、顔を歪め

殺意をむき出しにしている様な恐ろしい顔をしている。

戦っていると言うか、殺し合いをして、辺りを血の色で染めている。

 

 明らかにみんな、正気を無くしていた。

初めてじゃない、俺は、大十字絡みで、同じものを見た事が有る。

ある組織がばらまいた薬物の所為で、人々が、狂わされ殺し合い始めた。

大十字の活躍で、人々は正気に戻り、組織も壊滅したが

それでも多くの犠牲者が出た。


「ゴブリン……オーク……オーガ……」


と言う声が聞こえ、その方を向くと、何の因果か、

第一区画で再会した冒険者たちがいた。ただ皆、目が据わっていて

そしてメンバーの一人が


「倒さないと……」


と言って、全員武器を構え、俺たちに殺意を向けてきた。


 俺は、この事に少しショックを受けつつも、直ぐに


「逃げるぞ」

「えっ!」


驚いたような声を上げるミズキ、俺は、第三区画の一件以降

使うのに抵抗を感じなくなったフレイを装備し


「煙幕」


出るかどうかはわからなかったが

シリンダーが「カチッ」という音立てて動いたので行けるようで

俺は、地面に向かって弾を撃った。

すると「ボン!」と言う音を立てて、弾から、思いのほか大量の煙が出た。


「さあ、いくぞ」

「でも……」


ミズキが少し渋ったので、彼女の腕を引っ張って、その場から離れた。

戦闘は避けられたものの


「何で、逃げたんですか?私たちの力なら、勝てたはずですよ。

それに、手を出してきたのは向こうからですよ」


と不満そうだったので、「絶対命令」で


「この区画を出るまで、冒険者と戦うな」


と命令を下した。


「………!」


これで、この区画にいる間、彼女は冒険者と戦うことは出来ない。

ただし、逃げられなくて、戦わざるを得ない時の戦闘は、許容範囲である。


 「絶対命令」を使ったところで、不満が消えるわけでもないので


「どうして、戦ってはいけないのです?」


と言ってきたの


(アンチハルスで、攻撃性の方も無力化されてるはずだが、本当かな)


彼女が、攻撃的なので、そんな事を思いつつも、


「看板に、書いてあったろ『主以外の魔獣と戦うべからず』って

たぶん『魔獣』ってのは、人間の事じゃないか、ガスの所為で人が魔獣に

見えてるとか」


アイツらが、魔獣の名を呼んで、俺達に刃を向けたから、

そうなんじゃないかと思った。そして、攻撃性を高められてるが故に

必要以上に殺意を抱く。


「主以外と戦わなければ、何かもらえると」

「そうだろうな、まあ『最初の者』だから先着一名だけだけど」


彼女は、どこか呆れたよう様子で


「私たちは、宝目当てではないですから、関係ない事では」


と言ってきたので


「別にいいだろ。どうせ冒険者を倒したって、撃破数は増えないし、

一々、相手にするのは時間の無駄だろ」

「そうですけど……」


でも一番の理由は、一度きりであるが、一緒に仕事をしたし

なにより、良い奴らだったアイツらと、戦いたくなかっただけなのだが。


 ふと思い立って


「そういや、アンチハルスで冒険者たちを治すことは出来ないのか?」


直ぐに


「無理ですね。あの様子では手遅れです」


と返答があった。どうやら限度があるらしい


(俺のならどうだろうか……)


実は、魔法名を聞いた時に思い出したのだが、専用魔法にも同じのがある。

名前は長ったらしいが、頭の部分に、アンチハルスとつく。

専用魔法だけあって、効果は強力みたいだが、フルパワーでしか使えない。


(ボスを倒せば、この状況も改善されるかも……)


 とにかく、俺たちは、冒険者たちを避けながら、ボスの元に向かっていたが


「!」


思わず、俺は足を停めた


「どうしました?」


と聞くミズキ


「この先に冒険者がいる」


「周辺把握」で気づいたのだが、前方に魔獣ではなく、

冒険者が転移してきた。とりあえず、俺たちはルート変更


 以降、俺たちは転移することは無かったが、

他の冒険者たちが狙ったかのように、俺たちの周囲に転移してきた。

いや、正気な人間たちを狙うように設定されているのかも


 まあ大概は少し離れた位置なので

鉢合わせになる事は少ないが、直ぐ近くに、転移される事もあって、

襲われかけたことも何度かあった。もちろん、その都度、煙幕を張って

逃げた。


 中には二組のパーティーが戦闘状態で転移することもあった。

この二組に限らず、パーティーを組んだまま、戦ってる様子から

どうも、パーティーメンバーは、人間に見えているようだった。


 戦闘中の連中は、すぐ側に転移してきて、俺達には見向きもしなかったが

こっちは醜い争いを見る羽目になった。


(嫌な気分だ)


人が戦い合う姿を見てどう思うか。ものによるとしか言いようがない

ただ俺は、この状況を見ていい気分はしない。

特に、憎しみにまみれ、醜い争いをする姿は、生理的に嫌だ。

刃条は大好きとの事だが。


「いやな気分ですね。あの様な醜態を見せられるのは」

「へぇ以外だな。俺は、お前は、こういうのが大好きなクズだと思ってたが」

「失礼な!」


腹立たしげに言った後


「まあ、それより、あれこそが人間の本性ですよ。全くもって醜いでしょう」


彼女が、何を言いたいか、手に取るようにわかる。


「それが、世界を堕落させているんです。故に……」

「粛清だろ。ほんといいからそう言うの」


また篭絡する気だ。まあ諦めないとは言ってたが


「つーか、あれだって一面でしかない。アレを持って

全体を総括するつーなら。何とも心が狭い。

俺は、寧ろ、お前の方を粛清したいよ」


更に俺は、畳みかけるように言ってやった


「いい気分はしないけど、俺は人間をどうこうしようなんて思わない

つーか、必要性も感じない。」


すると彼女は、冷静な口調で


「そうですか……」


と言った後、力強い口調で


「私は、諦めませんから」


 しかし俺に取って一番の幸運は、親しい冒険者がいないと言う事だろうか

それは、余り人付き合いをしていないと言う事なのだが。

ただ、そんな親しくないアイツらでもショックだったから、

もし雨宮くらい親しい人間が襲ってきたら、立ち直れないだろうな。


(カルト教団の時も、人間不信になりかけたし)


だからと言ってミズキの望み通りになるとは思えないが。


 この後は、冒険者たちを、避ける関係上、

遠回りしつつもボスの元にたどり着いた。場所は第三と同じく森の中央、

ボスは、ガディウッドと呼ばれ、巨大な大木の様な、見た目をした植物性魔獣。

初めて見る魔獣であったが火が弱点なのと、第四区画に入り、

だいぶ力を取り戻したバーストブレイズで、瞬殺だった。


 ボスを倒し、後は宝物を手に入れ、出ていくだけだが、

一つ気になる事が有った。


(クラウ、ガスは消えたか?)

《いいえ》


第三区画とは違い、充満しているガスは、ボスの所為ではないとの事。

俺の期待は裏切られた。


(それじゃあ、この後も殺し合いは続く)


そう思うと、このままでいいのかと言う気持ちに駆られた。

まあ知ってる人間がいた所為であるが。


 俺は少し考えた。俺のアンチハルスを使えば、解決するのは間違いない

でもフルパワーになる必要がある。

そうなればダンジョンを破壊する懸念があった。


(まあ補助魔法なんだから、壊すようなことは無いと思うけど)


でもフルパワーになった瞬間、足が地面にめり込む可能性がある。

まあ、その程度で、ダンジョンが壊れるとは思えないが、


「宝箱は、開けないのですか?」


とミズキに言われ


「静かに考え事してるから」


と返した。


 俺は更に考えて


(フルパワーになると同時に、飛行魔法を使うか、しかし、うまく……あっ)


ここで俺は、レベルアップで、現状でも飛行魔法が使える事を思い出した。

ただフルの時とは違い浮かべるだけ、しかも、そんなに高くない。

それでも、十分な気がした。一つ懸念があるとすれば

スキルを切って、フルパワーになる間、俺は無防備なるが

その際に魔法が無力化される可能性があった。


 しかし物は試しだ。早速、事を実行する事にし、先ずは魔法を使う


「何してるんです」


とミズキに言われたが無視し、限界の高さ、多分30㎝位だと思うが

そこまで浮かび、「能力調整」を切った。


 懸念していた魔法の無力化は起きず、暫しの時間の後、フルパワーになる。


「あ……これは……」


とミズキが声を上げ跪いたが、気にせず、直ぐに、俺のアンチハルスを使い、

素早く「周辺把握」で効果が出た事、アイツらを含めた冒険者たちが

正気に戻った事を確認すると「能力調整」を発動させる。


 その後、飛行魔法を解き、地面に降りると、跪いているミズキと

特に何もせず立っているイヴに


「行くぞ」


暗黒神の気配を感じ、人が集まってくる前に

急いでここを去らねばならない。


イヴは


「分かりました」


と言い、ミズキは


「あっ……はい!」


と言って立ち上がり、そしていざ立ち去ろうとすると、ミズキが


「宝箱……」

「あっ、忘れてた」


すぐ宝箱を開け、中身を回収しさっさと立ち去った。


 さて魔法は、一度発動させると、たとえ「能力調整」を発動させても

効果に変化はなく、それは一か月位続く。

つまり、開放日の間は、第四区画のガスは無力化される。

後に知るが、第四区画では、けが人は出たが死人は出なかったとの事

まあ、それは俺にとってはどうでもいい事。

ただアイツらが大丈夫ならそれでいい。そんなも親しくもない奴らだけど。


 この後は、区画を出た際に、俺が最初の一人だったようで

突如、俺だけ宝箱が置かれているだけの謎の部屋に飛ばされた。


「何が起こって?」


目の前の宝箱から、


「褒美ってやつか」


状況を理解し、宝箱を開けた。中にはもう一つ箱があった。

ただ、その箱を取り出すと、元の場所にもどった。

箱は一旦宝物庫に、保管して、取り敢えず車を取り出し、

移動を開始した


 なお全くの余談であるが、その日の晩


「ああ!何てこと!よりによって、貴方の前で跪くなんて!」


とミズキが後悔の念をむき出し、頭を抱えながら、声を上げた

何でも、暗黒神の力の前で、自然と体が動いたらしい。


「屈辱です……」


と言って睨まれたが、これは、長年の信仰心からだろうし

俺に責任はあるのだろうか。


 兎にも角にも、次は第五区画。ゲームで言うところのラストステージである。

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