第12話「地下ダンジョン」(後編)

1「区画の前で」


 刑務所の側に、テントがあった。中には、トランクケースが置いてあるだけで

人の姿が無いが、実はこのトランクケースはボックスホーム付きで

中は、貴族の館の様になっていて、高級そうな調度品が置かれていた。

 

 リビングでは、ワインを手にくつろいでいるジム・ブレイドの姿があった。

そうこのボックスホームは、彼の所有物であった。

リビングには、もう一人いて、ジムとはテーブルを挟んで座っていて

テーブルにはもう一つワイングラスが置かれている。


「これから一仕事だと言うのに、飲んでて、いいのかい?」


なお、彼はワインを飲む関係で、今は仮面を外している


「大丈夫ですよ。この体、結構、酒に強いんですよ。

父方、母方がそろって酒豪なだけはある」


そう言うと、ジムはワインを飲み干す。


「まあ、それなら良いんだけど」

「それより、アナタの方こそ大丈夫ですか?随分、お怪我をされてますけど」


その人物は、機嫌を少し損ねたような感じで


「君の所為だよ。まさか、あんな仕掛けがあるとは、もう二度としないよ」

「事前に、話はしてましたけど……」

「あそこまで、強力とはね。当分治りそうにない。」


と言った後


「しかも、怪我だけじゃない。奴らに気づかれた可能性がある」

「それは大変ですね。早くお逃げになった方がよろしいのでは?」

「いや、ボックスホームの中にいる限りは大丈夫、それに」


その人物は、どこから四角い鏡の様なものを取り出すと


「この状況を、最後まで見届けたいし」


鏡を、人差し指で擦ると、第四区画を前で停車している車形態の

カオスセイバーⅡが映し出された。


「連中は、第四区画に到着したみたい」

「では、まだ一時間ほどは余裕がありますね」


グラスにワインを注ぐジム。


「ところで、私は、面白そうだから。君に手を貸して、暗黒神をおびき寄せた。

万が一、ヤツがダンジョンを破壊してしまっても、それもまた一興。」

「………」

「しかし、ダンジョン崩壊時のエネルギーは強すぎるから、

下手したら、君の計画もご破算になると思うけど……」


 するとジムは


「分かってますよ。そんな事は」


と言って、ワインを一口飲んだ。


「ではどうして、リスクを背負ってまで、ヤツを巻き込んだのかな?」


ジムは、口元に悪そうな笑みを浮かべ、答えた。

話を聞いた、その人物は


「ふーん、まあ、それも一興だね。あっ、こっちにもワイン貰えるかな」

「すいません気が利かなくて」


テーブルの上にある、もう一つのグラスにワインを注ぐジム。


「ありがとう」


 その人物は、ワイングラスを手に、再び鏡を見た。


「ほう、面白い事になってるねぇ」


と言って、ワインに口を付けた。










 さて準備を整え、外に出ると、冒険者たちが大勢いた


「えっ」


俺達が一番乗りだったはず、先行した冒険者たちは、

途中で追い抜かして、以降は見かけなかったし

そもそも、第三と第四の区画間は、歩きで二週間は掛かる距離で、

移動系のスキル、魔法は使えないはずだから、追いつけるはずもない。


(どういう事だ)


と疑問を感じつつも、車か、ボックスホームから出てくる俺たちの姿が

珍しかったのか、注目の的になっていたので


「見せもんじゃねえぞ!」


きつく言うと、みんな、目線を逸らす、その間に、車を宝物庫に戻した。


 この直後、アナウンスの様なものが響いた。内容は


「今回は、特例で、石碑による第四区画への転移と

第三区画以前で脱出した冒険者の再突入を一度だけ認めます

なお、再突入の際は撃破数が失われるので、あしからず」


との事だった。


(転移を認めるって事は、第三区画は、やっぱり問題になったのか)


実際、その通りで、後に聞いた話では、俺が区画間でドライブをしていた二日間、

外の世界での二時間の間に、第三区画から、ペンダントの力で戻って来た冒険者から

苦情が殺到した。特に素通りが出来なかったのが問題視され

急遽、救済処置がとられたと言う。


 ただ、「転移の石碑」が持つ力の関係上、区画の入り口にしか転移できないので

結果、第三区画のみならず、二週間かかる区画間も飛ばすことが出来た。


 そういう訳で、ここいるのは、転移でやって来た冒険者たちで

既に何人かは、第四区画に突入しているようで、

一番乗りと思っていたから、すこし、がっかりしたものの

後に続く形で、俺達も区画に入った。


 第四区画は、第三区画同様、森、ただ霧とかは出てなかったが

木々は、葉が無くて、幹が歪な形なので、何だか不気味、

おとぎ話に出てくる悪い魔女が居そうな森だ。


「あれ?」


入った途端、魔獣と戦闘になってないにも関わらず、

規定数に達した時の音がした。


(魔獣がいない?)


「周辺把握」で確認したが、ボスと思われる魔獣が一匹いるだけで、

それ以外、魔獣の反応が無かった。


「今、音がしましたね?」


とミズキが言ってきたので、


「ああ」


と答えつつ、ボス以外魔獣がいない事を伝えると


「どういう事でしょうか」


彼女も訳が分からないと言う様子。


 それと、もう一つ気になる事が、流れで彼女に話した。


「なんだか、冒険者同士で喧嘩してるような」

「珍しい事ではないでしょう」


とミズキは切って捨てるように言う。

確かに、ここに来るまで、直接見たわけじゃないが

「周辺把握」で、冒険者たちが、戦っている様な動きを何度か

見た事が有った。特にダンジョン内では

宝を巡ってトラブルと言うのが多いらしい。


しかし今回は、区画のあちこちで、頻発していて、

俺には、ただ事じゃないような気がしたが、

とりあえず歩みを進めた。


「なんだこれ?」


 少し先に進むと、看板があり、この世界の文字が書かれていて

「翻訳」によって


「主以外の魔獣と戦うべからず、守れし最初の者には、褒美が与えられん」


と書かれた字幕が、現れた。


(今の所、ボス以外、魔獣はいないけどな)


たぶん、転移や疑似魔獣と言う形で出現するんだろうが、

俺には、看板に書かれている事よりも、

何でここに看板があるかの方がすこし気になったくらいで

それ以上特に何も感じることなかった。


 ちなみに、看板についてはミズキが


「たまにダンジョン内にこういう案内があるそうですよ」


とどこか自慢げに言った。


 そして先に進もうとすると、クラウが


《お待ちください。マスター》


と声を掛けてきた


(どうした?)

《その先にガスが充満しています》

(え!)


看板に近づくまで気付かなかったとの事だが、看板の向こうから

出口付近まで、ガスが充満しているとの事

ちなみに、ガスは、異界、つまり俺の世界由来の言葉との事。


《毒ではないようですが……》


との事だったが、ミズキに事情を説明し、彼女は、瘴気除けの魔法を使った。

これは、ガスにも対応しているのと事。ただ第三区画では、魔法の制限で、

使えなかったとの事。


「貴方もどうです?」


彼女に、貸しを作るのも何だったが、第三区画の事もあり

面倒なのは嫌だったので、かけてもらったが、


「貸しですよ」


と相変わらず嫌味ったらしい言葉で言われた。


しかし、看板の向こう側に、入った瞬間


「!」


先ほど掛けてもらった魔法が解けたのを感じた。


「馬鹿な!」


と声を上げるミズキに対し


「これで貸し借りなしだな」


と俺は、言った。


 魔法は、無力化されたが「自動調整」が働いたので、問題はなさそうだった。


《分かりました。どうやら幻覚作用と、攻撃性を高める効果があるようです》

(攻撃性……)


その言葉が、俺の嫌な記憶を呼び出し、


「ウッ!」


吐き気の様なものを催し


《大丈夫ですか》


(冒険者が、戦ってる原因って……)


こっちも「自動調整」の所為で、関係ないようだが

自動人形であるイヴはともかく、ミズキには大有りなので、この事を話した。すると


「アンチハルス!」


と補助魔法を発動させた。



「アンチハルス」

補助魔法の一つ。幻覚症状や、混乱を治しつつ、

一定時間、その系統の魔法や、スキルを無力化する。

ただし、精神系の強化魔法も無力化されてしまう



 ガスを防ぐのではなく、効果の方を無力化すると言う方に

舵を切ったとの事。効果は、24時間。

ちなみに、この魔法も第三区画では、使えなかったとの事。

もっとも使えたとしても、フォグタートルの霧には効果はないらしい。

今回は、さっきの魔法とは違い、無力化される気配はないとの事。


 対策は取れた所で、先に進んだが、そこで、俺は、

この区画の恐ろしさを知る事になった。

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