6「移動中」

 とにかく、彼女とは行動を共にした。と言っても今日は車で移動するだけなので

彼女を助手席に乗せて、ドライブである。

なお彼女を乗せると手狭になったので、鎧は着ずに、普段の格好、

俺は下級魔法使い、ミズキはメイド服である。

それと、彼女と二人きりは、昨夜と朝の事もあって、なんか気まずいので、

イヴを後部座席に、乗せた。


 その後は、何もなく、夕方の六時くらいまで昼食も含め、休憩を挟みながら、

車で移動した。イヴは夕食の準備の為、途中からボックスホームに移動した。

ちなみにこれだけ長時間運転したのは初めてだ。


 夕食後、昨日と同じく、ミズキと風呂を共にした。

もちろん彼女に背を向け、離れた位置で、脱衣し、

風呂場でに、同様にして体を洗う。


彼女は美人で、プロポーションもいい。こんな女性と一緒に

お風呂なんだから、うれしい事かもしれないが

彼女への憎しみを、捨てきれない俺としては、複雑な気分。


 ミズキがまた変な事をしないうちに、俺はさっさと、風呂から出た。

その夜も、一緒に寝たが、おかしな事はしていない。

彼女には背を向け、離れて寝た。


 翌日も、同じで、早朝出発の一日中ドライブ。特に変わった事は無い。

昨日は、道中、森で会ったあの人を含め、

区画間を移動する数人の冒険者を見かけたが、今日は誰も見かけなくて、

夕方には、第四区画の前に到達した。どうやら俺たちが一番乗りの様だった。


 その日の夜も、昨夜と同じ、ミズキとは、一緒に風呂に入り

ベッドも共にしたわけだが、床に就く前の時点で、

彼女は未だパーティー入りはならずと言う状況。


 あと昨日は、すこしドキッとしたがすんなり眠ることが出来た。

しかし今日はなかなか寝付けなくて、何を血迷ったか、俺は背を向けたまま


「なあ、まだ起きてるか?」


と彼女に声を掛けてしまった。


「ええ、どうも眠れなくて」


と返事が来て


「なあ、お前、妙にパーティー入りに積極的だけど

よっぽどリリアを奴隷にしたいんだな?」

「そうですよ」


と「絶対命令」の所為か、あっさりと躊躇なく答える。


(でも無理なんだよな)


と俺が思うと、


「私が、彼女を奴隷にするのは無理だと思ってませんか」

「!」


まるで、心を読んだ如く言って、続けた


「確かに、『契約』と『奴隷の印』では『契約』の方が優先されます」




「奴隷の印」

ルーン魔法の一種で、身体に刻むことで発動する。

奴隷の売買に関わっている者のみに使用が認められている魔法

「契約」と同じく主従関係を結ばせる魔法で、

身体に刻まれると、主人と設定された者に、絶対に逆らえなくなる。

この魔法で、主従関係になる事を「隷属契約」と呼ぶ。

ただ、契約とは異なり、従者は得るものは何もない。

なお、稀に特に何もないのに効果が無い人間もいる。



「従者には、印を刻んでも消えてしまう。

ただ奴隷の主人が、『契約』の主人だった場合と、同じ人物を

主人とする『契約』の従者同士は印を刻むことは出来るようですが」


この話は、雨宮からも聞いていた。確かに「印」は刻めるが


「でも効果はなくなると聞いている」


「奴隷」としての、効果はなくとも、「契約」があるから関係ない。

印が刻めればいい。刻めなければ隷属契約不可と言う事で

彼女を引き取ることが出来ないのだから。


「ただ例外があります」

「えっ?」


思わず彼女の方を向いた。


「その様子だと、ショウ・クロニクルから聞いてませんか?」


すると彼女は意地の悪そうな笑みを浮かべ


「この事は、教団内でも、知られてない事ですから、

ヤツも知らないのかもしれませんねぇ~」


何処か彼女は、優越感に浸ってるようにも見えた。


 実際、これから彼女の話すことは、雨宮の知らない事でもあったが


「暗黒神の『契約』の従者同士なら、隷属契約は可能です」


何でも、教団に伝わる古い書物に、そう言う記載があったそうだ

ちなみに、その本は、書庫のかなり奥にあって、百年単位で

人が読んだ気配がないようだ。


 そして彼女は、胸に手を当てながら、どこか自慢げに


「つまり、私は彼女の主人になれる」


と言った。だが一つ問題点がある。


「でも、その為には、お前がダンジョンマスターにならないと」

 

 既に述べているが、ダンジョンマスターの条件は、

各区間定められた数以上の魔獣を倒し、各区画の主、つまりボスを倒す事。

一応時間も、関わってるらしいが、守れなくてもいい。

実際、24日ギリギリで、DMになった奴もいるとの事。


 ただし遅れた分、第五区画における規定数が増えて、

あと区画間、特に第二、第三の事もあるので、遅れれば不利になるのは確かなので、

先に述べた通り時間を重視する連中も多い。

ただ制限時間は分からないから、守れているかも不明である。


 そしてパーティーを組んだ場合、規定数は、合算でもいい。

故にパーティーを組んだ方が楽ではあるのだが

最終的にDMになれるのは、一人だけと言う事。

なので、揉め事を避けるためにも、パーティーは二人から三人程度で

事前に、だれがDMなるか、相談しておく必要がある。

雨宮の時は、二人で、パーティーを組み。

じゃんけんで、事前に、雨宮がDMになることを決めたと言う。



「ええ、私もダンジョンマスターを目指してますよ」


 イヴがDMになった場合、自動人形を主人に隷属契約は出来ないので

その時は、主人である俺に、副賞の権利が譲渡されると言う。

しかし、ミズキがDMになった場合は、当然権利は彼女に、あるわけで。


「別にいいでしょう。結果は変わらないのですから、私は彼女を指名します

心配なら『絶対命令』でも使ったらいかがです」


質問への返答じゃないから、本当かは分からないが

嘘を、付いているように思えなかった。


 ここでミズキは、考え込むような仕草をして


「でも、五日経っても、状況が変わらないとなると、

最後の手段しかないようですね」


そう言って、彼女は、パジャマのボタンを、外し始めたので


「おい、お前、何する気だ!」


ミズキは、胸元をはだけさせながら俺の方を向き


「私を抱いてくれませんか?」

「!」


とんでもない事を言い出した。


「確実に、パーティーになれますよ。我々の同胞で、実証済みです」

「だからって」


思わず俺は目を背けていた。


「気を使わなくても良いですよ。私は処女では、ありませんし、

男でも、女でも関係ありません。」

「毒婦め」


と思わず口にしていた。

この女は教団の為に、これまで悪事を重ねているが、

時に、色で男女問わず誑かし、金を巻き上げ、命まで奪ってる。

正に、毒婦と言える。


 俺の言葉に、


「何とでも……もう気になりませんから……」


言葉だけでは、意に介さずと言う感じだが、苛立っている様な

不本意だと言わんばかりの口調だ。


 そして彼女は、俺の耳元で、先ほどとは、打って変わって色っぽい声で


「何でしたら、私が抱いてあげましょうか……」


彼女の誘惑に


「断る!」


と言って彼女に背を向けて横になった。


「まあ、嫌ならいいんですよ。互いの合意が無ければ意味はありませんから」


そう言って、彼女は何もしてこなかった。


 彼女のような美人に迫られて、まんざらでもないのは事実だ

でも、今は彼女への嫌悪が上回った。いや違う度胸が無いだけだ。

まあ有ったら有ったで、トラブルの元だろうが。


 この事で、余計に寝付けなくなったが、更におかしなことを考えてしまった


「もしかして、雨宮も……」


かつて、雨宮がダンジョンに挑んだ時のパーティーメンバーは

同門の女性であった。しかも、後に雨宮の奥さんとなる人物。

この頃の二人の関係は、どうだったかは、聞いていないが

もし既に恋仲だったとしたら。


「………」


余計な事を考えて、ますます眠れない俺であったが、どうにか三時間ほどは眠れた。


 翌朝、


「朗報ですよ」


と言ってミズキは、自分のエスケープペンダントを見せてきた。

そこには、星のマークが表示され、撃破数も増えていた。

俺も、自分のを確認すると、こっちも増えていて、彼女と同じ数字

つまり、彼女の分の合算されていた、


 それは、彼女と晴れてパーティーになれたことを意味する。

ただ、この二日間のおかげなのか、関係なく今日までかかったのかは不明である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る