5「休息」

 夕食後、俺は風呂に入った


「ふぅ~~~~~~~~~~~」


大浴場の、広い湯船につかると、何とも言えない開放感がした。

あと露天風呂も併設されている。正確にはダンジョンと同じ、

屋内というか、ボックスホーム内の疑似的な物だが、

気分は十分味わえる。あとサウナもついてるが、これは余計だな。

俺は、サウナはあまり好きじゃない。


 ボックスホームの内装は、洋風で、居間には高級そうなアンティーク調の家具に、

絵画に、小さいが彫刻に、飾り気が半端ない、金の置時計。

複数ある寝室には、どこもデカい、高級そうなベッドが置いている。

寝心地は悪くないけど、とにかくセレブの家と言うか、

作ったのは刃条なんだから、アイツの趣味丸出しって感じだろう。

正直、気に入らない。


(機会があればリフォームでもするか)


 でも、風呂は気に入っている。俺は大浴場とか露天風呂が大好きなのだ

何というか、開放感があるからな。


(サウナは別として、風呂の趣味だけは、アイツと同じって事か)


なんだか複雑な気分だ。


 湯船から上がり、頭と体を洗った後、お湯で石鹸を流した。

ふと自分の体を、じっと見た。別に、いやらしい事を考えてるわけじゃない。


(レベルアップか)


雨宮の話、正確には、ジャンヌさんから聞いた話との事だが

俺の体は、フルパワー時の力は強くなることは無いが

能力調整下の力は、鍛えたりすると強くなっていくそうだ。


 そして何度も、レベルアップの音は聞いたけど、強くなったような感じはしない。

まあ能力調整下で使えなかった専用魔法が使えるようになってるけど。

余談だが、クラウは武器だからレベルアップはしないけど

「収集」で様々なスキルが解放されたり、強化されたりして、

強くなっていくのを感じている。


 ちなみに、魔獣を倒して、強化、つまりレベルアップが起きるのは

年に一度、時間の流れが変わる、つまり一般開放の日。

本来なら、週に一度らしいが、魔法で抑え込んで、どうにか

年一回だけにしたらしい。

そもそも、何故かは、ダンジョンの不思議としか言いようがない。


 あと、雨宮の話では、一般開放の、理由の一つとして

レベルアップによる受刑者の強化を防ぐため、

その日は刑務作業をさせられないから、代わりと言う事もあるらしい。


 なお俺の鎧にも「生喰」と言うスキルが付いていて

鎧を着て、魔獣を倒せば倒すほど、俺の体は強くなってるらしい。

ちなみに、このスキルはダンジョン内で無力化されている。


(やっぱり、実感がわかないな)


ダンジョンだけじゃなく、普段から魔獣を倒すたびに強くなってるそうだが

普段は、低級魔獣ばかりだけど、

デモスゴードやあの爺さんの魔獣の事も、あるから多少は、

というか雨宮の見立てでは、俺は強くなってるとの事だが、実感はわかない。


(まあ、いっか)


これ以上、考える事をやめ、再び湯船に浸かった。


「ふぅ……」


と一息つき、ふと思った


(本当だったら、もっと余裕を持って攻略してるんだけど)


 当初は一区画に、二、三日くらい、ゆっくりと、休み休みしながら

攻略するつもりだった。一応、DMになるには時間制限的な物があるが、

守れなくてもいいらしい。ただ何もない訳じゃないから

大切な事には違いなく、特に第三、第四区画間の事もあって

時間を重視してる連中も多いから、睨まれる事が有ったわけだが。


 第三、第四区画間の話を聞いた後も、予定の変更は無かった。

まあ、そもそも、俺は不精であるから、

楽がしたくて予定を組んていた。車を使うのも、その一環。

区画間の移動を、短縮できれば、余裕を持つことが出来て、

楽できるのと、泊りがけで、ちょっとでも楽がしたいからだ。


 しかし、世の中上手くは行かないわけで、

食糧を奪われ、七日間での攻略を余儀なくされてしまったから

余裕を持ってとはいかなくなった。


(しかし、雨宮の配分表には感謝だな)


 アイツが考えてくれた時間配分は、車の使用を考慮してなかったものの

車を使えば、丁度、七日間で攻略できる配分となっていた。

あれが無ければ、時間配分に失敗していたかもしれない。

なんせそう言うの考えるの苦手だから。

まあ、それ以前に食糧が盗まれたと知った時、諦めてたかもしれない。


(リリアは、俺以外に引き取る事は出来ないから、

次の機会にって、なってただろうな)


 色々思いを巡らしながら、湯船に浸かっていると、扉の開く音と


「ご一緒、させてもらいますよ。何だったらお背中、流しましょうか?」


と言ってミズキの声がして


「〇▽□×△!」


と自分でも訳の分からない声を上げていた。


「初めて会った時みたいですね」

「なんで?」


俺は、彼女の方を向かず言った。


「ダンジョンに、貴方たちとパーティーと認めてもらう為に

出来る限り、貴方と行動を共にしようかと」


まだ彼女はパーティーとしては認められていなかった。

そこで、ダンジョンだけではなく、それ以外でもと言う事らしいが


「だからって、お風呂にまで……」

「私は、気にしてませんよ」


とは言うが、俺は気になる訳で


「それより、お背中」


と言ってきたので


「もう体は洗ったから必要ない」

「そうですか……」


お風呂で、女性と二人きり、ドキドキして仕方ないから

取り敢えず落ち着こうと


(水着だ、彼女は水着をきている)


と考える事にした。

そう、いくら風呂に入って来たからと言って、

俺の思っている格好をしているとは限らない。

だから、そう考える事で、気持ちを落ち着かせようとした


 やがて、彼女が湯船に入って来たような音がした。


(どうして、ミズキ相手にドキドキしなきゃいけないんだ!)


と思いつつも、俺は必死に、落ち着かせようとした。そんな俺に彼女は


「それに、私がパーティーとして認められることは、

貴方にとっても利がある事ですよ。

そもそも数稼ぎのための人員として、私を誘ったのでしょう。

特に主との戦いでの、手助けが欲しいんじゃありませんか?」

「そうだけど……」

「特に、ここでは、本気になれませんしねぇ、本気になってうっかり

ダンジョンを壊したりしたら、大爆発の上、広範囲の汚染ですもんね」


過去に他国で、同様のダンジョンを初めて破壊した時の記録では、

半径60kmが消滅、更に周囲、200kmが瘴気で汚染され人が

住めなくなると言う。

だから破壊は厳禁、これが、ダンジョンでフルパワーになれない理由。


 フルパワーを使えない上に、魔法制限もある訳だから、イヴや

悔しいが、彼女の力が必要な訳だが


「今のままでは、撃破数を別に稼がないといけませんからね。

余計な時間がかかるでしょうし、」


そして彼女は一番の問題点を口にした。


「あと、私がうっかり、主の横取りをしてしまっても困るでしょう」

「横取り?あっ……」


彼女に言われて思い出したが、ダンジョンにおける撃破数のカウントは

倒した人間ではなく、倒すのに最も貢献した人間に与えられるらしい。


 低級魔獣なら、一人で倒せるから、関係ないが、上級魔獣や

特にボスの様に、複数人で戦わなければならない時、

それでもパーティーなら撃破数は共有だから関係ないが、違う場合は、

倒した本人ではなく、別人の方にカウントされる事もある。


 DMを目指すには、ボスを倒すことは必須、手伝ってもらったとしても

彼女の言う通り、横取りさせては、困る。まあ、残りのボスは、二体だが。


 今日、言われるまで、彼女のパーティー入りに対し、

あまり気にはしてなかったが、確かに重要だ。

だからと言ってこの状況はどうかと思ったが、更に彼女は


「!」


俺に近づき、背後から、ある事をしてきた。その事によって、

彼女が、俺が最初に考えてた格好をしている事に気づいた。


「お前、何してんだよ」

「こういう事した方が、パーティーと認められやすいもので、

別にいいじゃないですか、同性同士なんですから」

「俺は、両性具有だ。知ってるくせに……」

「そうでしたね……」


この時、俺は彼女の顔は見えなかったが、

意地の悪そうな笑み浮かべているに違いない。


「それに、俺の心は男のままだ。」


と言うと、嫌味な言い方で


「だったら~うれしいんじゃ、ありませんか?」

「!」


そう言われると、否定しづらいが、ただイラっとはしたので、

もう少し湯船に入っていたかったが


「お先に」


と言って、俺は彼女から離れ、湯船から出て、そのまま風呂を後にし

パジャマを着た。ちなみにパジャマは、異界人が持ち込んだもので、

それまでは、と言うか今でもネグリジェが主流との事。


 そして、寝室に行って、無駄に広いベッドに横になり、

昨日からの抜けきらない疲れと、今日の疲れもあって、

直ぐに、眠気が襲ってきた。


(明日と明後日は、一日……ドライブ……だな……)


俺は意識を手放した。


 そして翌朝、心地の良い目覚めだった


「よく寝た」


窓が無いから、灯りをつけて、起きようとすると、俺の横の方から


「お目覚めですか」

「!」


横を向くと、パジャマ姿のミズキが


「おはようございます」

「おはよう……」


と返事をするも、直ぐに


「お前、何やってるの?」


彼女は、俺のベッドの中にいた。つまり俺の横で寝ていたのだ。

しかも、彼女の寝室が別にあるにも、関わらずだ。


「ですから、パーティーと認めてもらう為です。」


と言った後、意味ありげな笑みを浮かべながら


「大丈夫です、おかしい事はしていませんから」


と言われて、正直、本当なのか疑ってしまったが


「本当か?」

「はい」


と答えたと言う事は本当だろう。

「絶対命令」で俺の質問に対し嘘はつけないのだから。


 先に述べたが彼女のパーティー入りが重要なのはわかる

風呂の件と言い、寝室の件と言い、何と言っていいんだが

何とも言えない複雑な思いを抱いてしまった。

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