第8話「確定の時」

1「お仕事準備」

 俺が働こうと決めたきっかけは、雨宮の


「いつも店に来てくれるのは、ありがたいけど、お金、大丈夫か?

仕事してないんだろ」


との一言にあった。

 

お金に関しては、問題ない事を説明できればよかったのだが

その為には、俺の力の事を話す必要があるから、出来なかった。

なぜなら勇気が無かったから。


  暗黒神がどうかは、置いておいて、俺自身とてつもない存在には違いない。

そして雨宮が、事実を知って俺を受け入れてくれるかどうか、

正直自信がなかった。


 かつて俺たちは途轍もない存在だった大十字を受け入れた。

でもそれは俺たちが子供で、純粋だったから、

そして大人になった今でも彼女を受け入れらえるのは、長い付き合いもあるが、

やっぱり、一番最初の時点で、彼女の力を

受け入れられたことが大きいと思う。


 でも大人になってから、知ったとしたら、それを受け入れられるかは、

少なくとも、俺は正直自信がない。


 雨宮は受け入れてくれる気がしなくもない。

でも、雨宮が受け入れてくれなかったら、それを思うと怖くて

俺の力の事は話せずにいた。


 雨宮の事を気にして、形だけでも仕事をしようと思った俺が

冒険者になるきっかけはクラウの


《たまには、私の事を使ってくれませんか。》


の一言であった。


 最初、少し引いた。やっぱり血が恋しいのかと思った。

俺の考え話を察したのか


《いやならいいんですよ。私は、血が恋しい訳でもありませんから、

ただ、私、武器じゃないですか、使ってくれないと存在意義が……》


との事だった。


 丁度、仕事の事を考えていた時だったので、


(剣を使う仕事とか……)


と考えてしまい、そこから連鎖的に


(冒険者だ!)


と言う考えに至った。



「冒険者」

依頼を受けて、魔獣退治を行う人々、即ち魔獣専門の猟師。

なお雇用形態は、国によって異なるが、個人事業主となる場合が多い。


 魔獣退治は危険が多いから、冒険と呼ばれ、それを行う者だから

冒険者だそうだ。


 ちなみに、冒険者関係の話はクラウと出会う前、旅の途中で出会った

おしゃべりな自称冒険者から聞いた話だ。

まあ聞いてもいないのに、勝手にベラベラ話してきた。

ただ最初に聞いた時は、


(随分危ない仕事だな、まあ俺には無理)


と思ったが、状況は変わった。俺は早速、冒険者登録をする為、

冒険者ギルドに向かった。


「冒険者登録」

冒険者支援と管理を目的とした国の制度。登録は任意であるが、

登録すれば、主に税金面で優遇措置がある。

同様の制度が各国に存在する


「冒険者ギルド」

依頼の斡旋など、冒険者へのサポートを行う団体。

こちらも同様の団体が各国に存在する。


 登録とギルドは、話を聞くと其々、俺たちの世界における

狩猟免許、猟友会に相当するように思えた。

ギルドには、冒険者登録をしたうえで入会する必要があり、

こっちも義務ではないが、入会していた方が何かと便利

ただし猟友会と違ってギルドに入会しても、会費はない。


 さて、その冒険者ギルド、正確には、この町の支部であるが、

石造りの立派な建物で

内装は、真面目と言うか、なんとなくだが市役所と言う感じがした。

あと当然ながら冒険者が大勢いて、彼らは、壁に掲示物、鵜の目鷹の目で見ていたり

受付で、紹介してもらったりして、仕事を求めていた。


(なんか職安に来たみたいだな……)


あと冒険者登録は、役所でもできるらしいが、ここでも受け付けているし、

ここでした方が、ギルドへの入会も一緒にしてくれる。


 俺は、さっそく登録と入会を行う為、受付へと向かった。


「これに必要事項を記入してくださいね」


ブロンドでウェイブがかかったポニーテールの髪型をした美人の受付嬢が

俺に2枚の用紙を渡してきた。一つは登録用、もう一つは入会用

どちらも、名前と住所、性別、あと自分の戦闘スタイルを書く。

ちなみに名前は通り名でもいいし、決まった住所を持たない場合は

確実に連絡が付く場所を書けばいいとの事。


 随分と、いい加減だなと思いつつも、同時に、


(何で二回も、同じことを書かなきゃいけないんだ)


と思った。提出先が違うのはわかっていたけど、煩わしかった。


 書類を書いて、渡したら、受付嬢は奥の部屋に行って、少ししてから、

書類とペンダントの様な物を持って戻ってきて、俺に渡した。

それは冒険者登録の証書と、ギルド会員の証であるペンダント、

見た目は、映画で見た事のある軍の認識票、

俺の名前と会員番号みたいなものが書かれている。

なお後にイヴの登録を行った時も同じものを貰っている。

ちなみに、その時も同じ受付嬢であった


 そして受付嬢の説明では証書は、持ち歩く必要はないが、

きちんと保管して置く必要がある。ただ認識票は身分証みたいな物だから

仕事の際は身に着けておくようにとの事。

ちなみにこの認識票は異界人のアイデアと言う話で、あと無駄に丈夫。


 一通り説明が終わると、受付嬢が


「これで、今日からアナタも冒険者ですよ」。


これでもかってくらいの満面の笑みを浮かべながら言い、更に


「早速ですけど、丁度、初心者向けのいい仕事があるんですが、いかかです?」


と仕事を薦めてきた。


 内容は、近隣の村に出没するゴブリンの討伐、受付嬢曰く、


「予測難度も低く、丁度いいと思うのですが」



「予測難度」

持ち込まれた依頼内容を冒険者ギルドで分析し、依頼達成の難しさを予測したもの

あくまで予測なので、外れることもある。


 仕事探しが、面倒だと感じていた俺は、勧められるまま、その仕事を受けた。

あと依頼は、女性推奨となっていた。受付嬢が進めてきたのは、

この点もあるらしい。表向き俺は女性なのだから。


 ギルドの建物を出た俺は、準備を始めた。

雑貨屋、RPGで言うところのアイテム屋で買い物をした。

武器防具は間に合ってるので、怪我の事を考え回復薬と、

弁当代わりの保存食と、ゴブリン退治に必要な道具を買って、

その後、宝物庫に放り込んだ。


 なお、「修復」があるから、回復薬は必要なかったことに気づくのは

現場に向かう途中だった。


 買い物を終え、部屋に戻った俺は、

思い立って「漆黒騎士の鎧」を着てみた。冒険者になろうと思った時から

これを着て仕事に行くつもりだった。

ただ一つ、うっかりして、危険な部分を書き換える前に着てしまった。

着ると強制契約が発生するらしく、おかげで契約返しが発生。

その為、危険性を取り除くのに、少し手間取った。


 名前の通り黒い全身装備の鎧である。それと、これは後に知るが

この手の、特殊な鎧には、アクセサリーの様な小物に変化し、

そこから、持ち主の意思に応じて元の鎧に戻りつつ

自動的に装着する機能があるという、この鎧にもブレスレットに変化する。

更に、この様に装着した場合のみ、いかなる服の上からも装着できるという。


 例えるならヒーローが来ている様な特殊スーツみたいな物。

ただこの鎧、全体的な見た目も、特撮ヒーローっぽい。

俺的には、かっこいいと思う。着心地も悪くない


《漆黒騎士の鎧、七魔装すべてを手にしたものに与えられる大いなる力》

「そうなのか」


鎧の情報に、そんなのは無かった。

ただクラウのスキルに『召喚』と呼ばれるものがあった


スキル「召喚」

別の場所に置いてある特定の物を呼び出すスキル。

なお呼ぶだけじゃなく還す効果もある。


 クラウの持つ「召喚」は、普段は機能しておらず、

七魔装がそろった場合のみ、機能する。

ただ何を呼び出すかまでは分からなかったが

クラウの様子だと、この鎧みたいだ。


 創造主の特権なのだろうが、得したと言う思いもあったが、

ズルしたみたいで複雑な気分


《マスター、どうかしましたか?》


心配そうに声をかけてきたので


「いや、何でもない。それより……」


七魔装の名前が出たので、ふと思い立ってクラウに色々聞いたのち


「それじゃ、明日はよろしく頼む」


 そして早朝、ギルドで手配してもらった辻馬車で村へと向かった。

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