2「冒険者のお仕事」

 依頼主は、中年の女性で、村長だった。到着するなり


「女性ですよね?」


と聞いてきた。

 

 確かに、この鎧は外観的が男っぽい。

正確には両性具有だが、一応女で通しているので


「はい」


と答えたものの、


「兜を脱いでくれませんか」


別に素顔を見られても問題ないので兜を脱いだ。

すると村長は、どこか安堵をしてるような表情で


「確かに……」


と言った後、頭を深々と下げて


「失礼しました」


俺に詫びた。そして俺は兜を再び被る。


 別に性別を疑われるのは、気にならないが、

村長の様子は気になった。


 村長から、確認の為と依頼内容の説明があった。内容はギルドに聞いたものと

ほぼ同じだった。依頼はゴブリンの討伐、正確には巣ごと、殲滅する。

 

 巣までは、村の女性が案内してくれた。



「ゴブリン」

洞窟を住みかとする小型の人型魔獣、群れで行動するが、

単体では強くなく一般人でも対処可能。

罠を避けたり、陽動を行うなど、それなりの知恵はある。

雑食であるが、人は食べない。

しかし農作物や、家畜への被害は甚大で、農家の敵。

基本的に憶病で、人が向かってくると、逃げていくが、

時々集団で人を襲って攫っていくことがある。


 

 この村では、まだ攫われた人はいないそうだ。

なおゴブリンの情報はクラウから聞いた。

俺的には、農作物を食い荒らす猿と言う感じか、

S市の、山間の農家じゃ、結構深刻な問題だったりする。


「あそこです」


場所は森の中にある洞窟、時間は昼過ぎ、地域によっては

昼間でも活動していることもあるらしいが、この地域のゴブリンは

夜行性なので、この時間は巣に戻っているとの事だ。


 そして俺が巣に入ろうとすると


「ご武運を……」


と女性は言った。そして俺は、身構えつつも洞窟に入った。

 

 ゴブリンは、基本臆病だが自分たちの巣に入られるのを極力嫌い、

侵入者に対しては、集団で凶暴性をむき出しにして、

襲いかかってくるという。

だから巣が分かっていても、一般人には手が出せないので、

冒険者の出番と言う事。


 洞窟に入ると、ゴブリンを逃がさないように、

直ぐに対ゴブリン用の結界を張った。

雑貨屋で買ったマジックアイテムを使った簡易的な物で

長くは持たない。


 俺も専用魔法で永続的な結界を張れるが、この時点では忘れていた。

あとゴブリンは夜目が効くから、洞窟内に灯はないが

こっちも「暗視」があるから問題は無い。


 クラウを手に装備し、洞窟を進んでいく俺


(もう直ぐだな……)


やがて俺の目の前に、小さくて、緑色をしていて、毛は生えてなくて、

不気味な顔をしてる。本当、ゲームで見たようなゴブリンがそこにいた。

腰には布を巻いている。

ただ以前、出くわしたゴブリンより体格がいいように思えた。

後に知るがゴブリンに限らず、魔獣は地域による個体差が大きいとの事。



 そして、ゴブリンは眠っているようで、

起きないように近づいたつもりだが、

目を覚まし、凶暴な顔で、襲い掛かってきた。

既に「習得」と「斬撃」を発動していた俺は、そいつを、一刀のもとに切り捨てた。


「!」


ゴブリンは、悲鳴も上げずに、絶命した。


(来る!)


ゴブリンには、声を上げずとも、仲間を呼ぶことができ、

事実、ゴブリンの群れがこっちに向かっている。

 

 なんでわかるかと言うと、鎧に「周辺把握」が付いている。

俺のより弱いが、クラウと連動することで、それなりに使えるようになる。

おかげで、範囲は狭いものの敵の位置が、手に取るようにわかる。


 やがてゴブリンたちが、俺の視界に現れた。

こん棒や、石斧など原始的な武器を手にしている。前の時もこんな感じ

こっちも武器を構え、後は、スキルに身を任せ、戦闘開始。

 

 敵に攻撃を、避けつつも、切り裂いていく、そして敵は次々に襲ってくる。

さらに狭い洞窟内では、時に剣が壁に当たるも、スキルで強化された斬撃で

壁ごと、敵を切り裂く。


 怒り狂うゴブリンでも、ある程度、倒せば元の憶病な性格が出てきて、

逃げに転じるとの事だが、ここのは、そんなことは無く、

いくら敵を倒しても奴らは恐ろしい顔で、

果敢に、襲いかかってきた。


 その姿に、恐怖を感じたが、「習得」の効果の所為か、

どこか他人事というか、ゲームをしてる感覚に近い。


 次々と襲い掛かる敵を前に、自然と最適な立ち回りで倒していく

これをゲームとするならば難易度最低な上、

ワンボタンで技が出るような感じだろうか。


 そして、一匹のゴブリンを切り捨てた後、「周辺把握」で周囲を確認。


「終わった……」


今のが、最後一匹、数は数えていないが、結構な数を倒したようだった。

あとゴブリンが終始攻勢だったのも、普通だったらつらいだろうが

俺にとっては都合が良かった。

敵を求めて右往左往することが無かったのだから。


 しかし、「習得」を停止させ、ゴブリンの無数の死骸を見ると、

敵が大勢で襲ってきたと言う実感がわいてきて、少し肝が冷えた。


 この直後


《スキル収集が発動しました。スキル『燃焼』が解放されます》


スキル「収集」

戦う、場合によったら殺した相手から、スキルを収集するスキル

相手が生きていた場合、相手のスキルは消えていないので

実際はコピーに近い。なお既存のスキルを収集した場合は、

そのスキルが強化される。

なお、このスキルには、同様のスキルを防ぐ性質を持っている。



 クラウの場合は「収集」で得たスキルは、

他の付加スキルと別枠になっていて、加えて持ち主が変わると

スキルの成長が初期化され、更に封印される。

それを解くには、戦闘経験を積むか、

同じスキルを収集するかのどちらかで

今回、スキルが解放となっているのは、その所為。


 さて「周辺把握」から、ゴブリンとは別の反応を確認していた。


(村人は、誰も攫われてないって聞いてたが)


それは、人間の反応だった。


「誰だ……?」


俺がそこに着いた時の、相手の第一声


「冒険者だ」


と答えた。相手は


「助かった……」


と一言


 そこにいたのは、五人の二十代くらいの男性。

全員全裸で、蔦のような物で拘束されていた。

あと周囲には、元は男たちの服だと思われる布切れが落ちていて

拘束を解いた後、それを、とりあえず全員の腰に巻いた。


 あと長い事、暗闇にいたようだから、洞窟に出た際に外の明かりで

失明しないように、残りの布切れで目隠しをした。

なおこれはテレビからの知識だ。


 加えて、衰弱していたようなので持っていた回復薬を飲ませ、

男たちの体力を、どうにか歩けるまでに回復させた。


(『修復』があるから、必要ないと思ったけど、持ってきていて正解だったな。)


そして俺は、彼らを連れて、洞窟を出た。


 洞窟の外では、村の女性が待っていた。彼女に頼んで、

村から応援を呼んでもらった。いくら体力が回復してるとは言え

村まではさすがに厳しそうだったから。


 応援を持っている間、男たちからは、口々に


「ありがとう……」


と礼を言われ、更に素性も聞くことが出来た。

彼らは、通りすがりの旅人で、野営していて、ゴブリンに襲われたそうだ。


 村人の応援が来て、男たちは、医者へと運ばれていった。

その後、死骸の処理等は、村人がすることになっているので

仕事は、ここまで。村人たちが、ゴブリンの全滅を確認後、

俺は村長に会った、彼女は


「ありがとうございました」


と俺に再び深々と、頭を下げた後、報酬と、依頼完了の書類をくれた。

礼を言われると悪い気はしない。

そして俺は村長に別れを告げ、村を後にした。


 帰りの馬車でクラウが


《そう言えば、あの人たち何でつかまってたんでしょう?》


クラウの話では、ゴブリンは雄しかいなくて、奴らが人を攫うのは

繫殖が目的、雄しかいないんだから、攫われるのは当然女性と言う事になる。

言われてみれば、以前、ゴブリンに襲われた時も、ミズキを狙っていたようだった。

とは言え詳しい事情を知らない俺は


「何でだろうな?」


と言うしかなかった。



 街に戻ってきた俺は、依頼完了の書類をギルドに提出した。

これをもって、お仕事終了。そしてギルドには俺に実績が記録される。


 その後、雨宮を脅かそうと、鎧姿のまま、店に行ったんだけど

一発で見破られた。その際、鎧はどうしたのか聞かれたが、

露天商で買ったと言って、押し切った。


 冒険者になった事、一仕事終えた事を話したら


「お前も、冒険者か……」


と一言、何でも異界人で冒険者になる確率は高いとの事

冒険者は、命の危険はあるものの、手っ取り早くなれる仕事だからだろう。

それと、俺は「翻訳」があるから気づかなかったけど、

ギルドには、「翻訳」入りのマジックアイテムを

置いてある場合が多く、この世界の文字が分からなくても

手続きの不便が無いと言うのも大きい。


 ちなみに雨宮も冒険者の経験があるらしいが、これは修行の一環との事。


「あんまり、驚いてないな」


 自分で言うのもなんだけど、俺は強くない。

昔、大十字がバケモノと戦う中、俺は逃げまどっていた。

そう俺は助けられる側なのだ。それは雨宮も知ってるはず

だから俺が、魔獣退治とくれば、驚かれそうと思ったのだが


「いや、今のお前は、なんとなくだけど、大十字並みに強くなってる気がして

年月の所為なのか、それともその姿の所為なのか、分かんないけど」


「能力調整」で、力は人並みのはずなんだけど、

雨宮は、本能的に俺の力の事を見抜いていたのかもしれない。


「実際の所、この剣のお陰なんだよ。こいつには『習得』が付いていて、

手にするだけで、俺は剣の達人になれるんだ」


と正直に話した。ただこれ以上の事、クラウの詳細については話さなかったが

雨宮は怪訝そうな様子で


「その剣、大丈夫か?」


と聞いてきた。

雨宮曰く『習得』を持った武器にろくなものが無いから。


「まあ、勇者の聖剣にも付いてるけど……」


「勇者」っているんだと思いつつも、剣に関しては大丈夫だと言って

これも押し切った。


 そして話題はゴブリンの事になり、捕まっていた男たちの事を話すと


「この辺のゴブリンは雌だからな」


実は、クラウも、と言うか一般的にも知られてないのだが、

ゴブリンにも、雄雌があるという、ただし同種族で子供を作ることは出来ず

異種族、主に人間を使って繁殖する。

加えて同姓でしか、群れを作らない上、住む地域も異なる。

 

 それに、見た目的にも差がなく、と言うか、

見た感じ男にしか見えなかった。一応下半身を見たらわかるらしいが。


「依頼が女性推奨だったのは……」

「万が一、負けた時の事を考えてだろうな」


 繁殖に利用させないため、

村長が、安堵していたのもそういう理由だったんだろう

なお、ゴブリンの性別に関する話は、

この辺の農家の間では結構知られているとの事。


 店を出て部屋に戻り、鎧を脱ぐと、疲れがどっと出た。

いくら「習得」とはいえ、俺の体が動いているわけだから、疲れはする。

一応、クラウには「体力吸収」と言うスキルがある。


「体力吸収」

敵を倒すごとに、相手から体力を奪い、自身のを回復させる。


 ゴブリンの様な、低級の魔獣相手では回復量が低く

疲れが勝ってしまい意味がないようだ。


 初めての仕事を終え、思った事は、


(疲れはするけど、思った通り楽な仕事だな)


 普通の人間には、少し前の俺でさえ、冒険者は大変な仕事だ。

しかし、今の俺には、クラウがいる。あと例の鎧もある。


 特に「習得」、コイツのお陰で、余計な事を考えることなく

魔獣を的確に倒せていけるのだから、これほど楽なことは無い。


「ホント、お前のお陰だよクラウ」

《それほどでも……》


と謙遜しつつ


《それより私は、マスターと一緒に戦えて嬉しいんです。

やっぱり、武器は使われてこそ、存在意義がありますね》


と、本当に嬉しそうに言った。


 この後、俺はベッドに横になり、仕事終わりを感じつつ眠りについた。

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