2「不審な者たち」

 更に、数日後、その日もinterwineで、食事。注文を聞き終えた雨宮が


「なんか、元に戻った感じがするな」。


 あれから、仕事量も減らし、雨宮の言う通り、

これまで通りの生活に戻りつつあった。


「やっぱり、イヴちゃんが『ハダリ―』じゃなかったからか」


 あの日、冒険者たちに、イヴが戦闘用の自動人形である事を、

周りに広めてほしいのと、その際に、今回の活躍の事は伏せて欲しいと。


 「ハダリ―」は、あくまで家庭用とされ、戦闘モードの存在は知られていない。

まあ俺の「契約」によって、初めて完成したのだから当然だが。


だから戦闘用だと分かれば、本人ではなく、

イヴは「ハダリ―顔」の自動人形と言う事になる


 あと、活躍を口外しないように頼んだのは、その強さが知れ渡れば、

今度はその強さを求めて、冒険者たちが殺到しかねないからだ。

まあ自分達の無力さを口外するとは思えないが

一緒に行った冒険者たちは、自分たちが活躍できなかったからという理由で、

報酬を辞退するくらい人が好さそうだったから、一応口止めしておいた。


 もう一つ冒険者の話題が連中の耳に入るか分からないので、念のため、

冒険者ギルドに来てもらうときに、戦闘モード、

更には高速移動装置「韋駄天」を使ってもらった。身体能力の高さ、

即ち戦闘用と言う印象を町にいるであろう商人やら、マニアに直接与える為だ。


 これら結果は今のところうまく言っているようで、「ハダリ―」目当ての客は、

すっかり無くなった。


 それと、「ハダリ―」でなかった事が広く知られた事で、

賊も戻ってこないとの判断で護衛は打ち切られた。




 昨晩、路地裏でフード付きのローブを着てフードを深々とかぶった人物が

酔いつぶれていた。酔いで呂律が回っておらず、

時折、訳の分からない事を口にしている。


「随分と荒れているな」


 声をかけたのは同じくフードをかぶり、仮面をつけた男だった。

男は呪文を唱えるとローブの人物の酔いがさめた。

だが立ち上がろうとはしない


「また飲んでたな?」


ローブの人物は


「馬車は事故るし、『ハダリー』は偽物。飲まずにいられるか」


仮面の男は


「馬車は、お前がモタモタしてた所為だろ。それと、

なんだ、あの美術品や貴金属は?

『ハダリ―』だけ、盗んで来いと言ったはずだろ」

「でも……」


とローブの人物が何か言おうとしておるのを、遮るように男は言った


「『ハダリ―』は本物だ」

「はぁ……?」


 男は、鞘に入った短剣の様な物を取り出し、ローブの人物の側に投げ捨てた。


「お前にもう一度チャンスをやろう」


と言った後、


「それは、『契約』を切る剣だ」

「『契約』を切る?」

「そうだ、鞘を抜き、30秒以内に、奴か、『ハダリ―』どちらかを刺せ。

いや刺さずとも服の上から触れるだけでも効果がある」。


ローブの人物は、短剣を手にした。


「ただし、失敗したら、二日間は使えなくなるぞ」


と警告したのち


「奴の護衛は解かれた。今度こそ『ハダリ―』を手に入れてこい」


 翌日、ローブの人物は、和樹の住むアパートの前にいた。

和樹が外出している事は確認済みである。そして転移防止されている上、

様子見を兼ねて、歩いてここまでやって来た。


 ここで、あの時の出来事を思い出しながら和樹の部屋に向かった。

朝市での、馬車の暴走の後、発信器で『ハダリ―』の居所を掴んだその人物は、

和樹の部屋までやって来た。


 部屋に入る前に、抵抗の可能性があったので、

手のひらサイズの円盤状のマジックアイテム、

「マジックドール・スリーパー」を使った。


「マジックドール・スリーパー」

周囲にいる自動人形を含むマジックドールを強制的にスリープ状態に、既にその状態なら解けないようにするマジックアイテム。基本的に家事用のマジックドールにしか使えないが、戦闘用でも、出力を抑えている場合は効果がある。


その後、鍵をこじ開け、部屋の中に入った


 戦闘用とは聞いていたが、前回効果があったので、今回も同じ、ただ鍵は強化されていて、こじ開けるのが難しくなっていたので、ローブの人物は、

ディスクシリンダー錠の鍵の形をしたマジックアイテム

「ピッキング・キー」をとりだした。


「ピッキング・キー」

あらゆる鍵が開けられるマジックアイテムで、この世に一つしかない

希少なマジックアイテム。ただし魔法ではない、物理的な鍵のみに効果があり

更に開けて閉める、又はその逆がワンセットであり、

これを行わないと次に使えない上

一度使うと、一か月は使えなくなる。


 ここで使うのは、もったいない気もしたが、それを使って、中に入った。

あの時と同じように、リビングには「ハダリ―」がスリープ状態でソファーに

座っていた。


 あの時は、大きさ的に転移に邪魔だったので、死装束を脱がした。

そしてローブの人物は「契約」の事を知っていたから、

一旦彼女を、ソファーに寝かし、

和樹を襲った。結果は失敗、尻尾を巻いて逃げる羽目になり、

その後、和樹に護衛が付いた事を聞き、以後、この町で機会をうかがっていた。


 ローブの人物は、「ハダリ―」の前に立ち、短剣を取り出し、鞘から抜く。

すると刃は、紫色に、禍々しく輝きを見せた。何だかの力がある事を誇示している。


 そして、ローブの人物は素早く、刃で彼女を刺した。




  雨宮が、俺からの食事の注文を聞き立ち去った直後、


「!」


 体が、温かいものに包まれるような、何かと混ざり合うようなものを感じた

そう誰かと「契約」が完了したのだ。


(誰が?)


 俺は、居ても立っても居られなくて


「すまん、注文キャンセル!」


叫んでから、店を出た。


 ただ店を出た所で、どうすればいいか分からなかったので、

一旦部屋に戻ろうとすると


「うわっ!」


 いきなり人が目の前に現れたので、避ける事も出来ず。思いっきりぶつかり、

二人そろって尻もちをついた。相手が人間だからか、「自動調整」は働かず、

大した怪我じゃないから「修復」も働かなかった。


「イテテテテテ……」


と相手は聞き覚えのある声を出す、俺は一旦


「すいません……」


後ろからは、


「大丈夫か!」


と雨宮の声、どうやら俺が突然、飛び出していったんで後を追ってきたようだった。

更にクラウが


《大丈夫ですか?マスター》


と言ってきたので二人に向かって、大丈夫と言おうとしたらクラウが


《マスター!この人、あの時の賊です!》

「えっ?」


 そう言えば、前にいる奴は、小柄で、フードを深々とかぶっている。

声も聞き覚えがある。しかも突然現れた。「転移」とも考えられる。


 そして、次の瞬間、フードが取れた


「女の子……?」


栗色の髪に、幼さが残る可愛らしい顔、十代半ばくらいに見える少女だった。


 相手は、俺の事に気づいたのか、急に大きく目を見開き、

驚いたような表情を見せると、すぐに消えた。


「転移……」


と雨宮の声。


 相手も驚いていたようであるが、俺も驚いていた。

相手が賊だったとか、少女だったとかじゃない。彼女にぶつかった直後に、

気づいたと言うか感じたのであるが、どういう訳か、

俺と「契約」していたのだ。そうさっきのは彼女と契約した時のものだった。


 そんな驚きを抱えながらも、俺が立ち上がると、雨宮が


「和樹……」


と声をかけてきて、雨宮の方を向くと


「今の子、まさか……」

「多分、俺を襲った賊かもな」


 多分じゃなくて、確実なのだが、この後、話は続かなかった。

突如、俺の腹が空気を読むことなく、「グ―」と聞こえる典型的で尚且つ大きな音を出したからである。


「店、戻るか?」


と雨宮は一言。俺は恥ずかしくなって、頷くだけ


「注文は、変更なしでいいか?」


俺は頷いた。この後、店に戻った。



 「転移」で、町はずれの人気のない路地裏に逃げてきた少女。


(何がどうなって……)


混乱の渦中にいる彼女、確かに、「ハダリ―」にナイフは突き立てた。

だが次の瞬間、ナイフは火花の様なものを発したかと思うと、輝きは消え、

突如、胸に何かが刺さったような痛み、話には聞いていた。

強制契約が行われた時の感触。しかも、誰と契約したか分からない。

 

 しかも、刺された「ハダリ―」は寝息を立てていた。

もし契約が、解除されていれば、完全停止、即ち死人の様に息をしないのである。


 この状況に、混乱し始めた彼女は、とりあえず短剣を鞘に納め、

部屋を出たもちろん施錠もした。

 

 その後、転移を使ったがどうゆうわけだか、和樹の前に転移してしまった。

それ自体にも驚いたが、なにより彼女を驚かしたのは、

和樹と契約したことを感じた事であった。


 直ぐに彼女は転移し、今に至る。


「しくじったか……」


仮面の男が現れた。この場所は、男との待ち合わせ場所だった。


「どういう事だ、何で、アイツと契約なんか」

「あの剣は、切る事に失敗した場合。相手の『契約』に飲み込まれる」

「待て、それじゃ、『ハダリ―』と『契約』してるはずじゃ」

「『ハダリ―』の『契約』は、既に『契約返し』で

ヤツの『契約』に飲み込まれている。

つまりお前が、切ろうとしたのはヤツの『契約』、そして失敗した」


 ここで仮面の男は笑い声で


「まあ、失敗することはわかっていたがな」

「えっ?」

「神の『契約』を切ることなどできない」。


すると、男は手をかざす。すると少女の体は金縛りにあったかの如く、身動きが取れなくなった。


「何を……」

「チャンスなどなかったと言う事だ」


次の瞬間、少女は、体のあちこちが引っ張られている様な感じがした。


「ペナルティーだ。まずはバラバラになってもらおうか!」


そして悲鳴が響いた。

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