第7話「呪われた自動人形」(後編)

1「戦闘モード」

 翌日、俺は早速行動に出た。朝、interwineで朝食を食べたあと、

冒険者ギルドに向かった。なお今日は、鎧は着ていない。


 そして馴染みの、受付嬢に


「自動人形の冒険者登録って可能かな?」


と聞くと


「ええ、戦闘用なら可能ですが、それは、あなたのですか?」

「そうだけど」

「だったら、あなたの従者と言う扱いになります」

「わかった」


そして俺は、イヴを呼んだ。





 通信を受けて、スリープ状態を解除したイヴは

命令に従ってきちんと戸締りをして、部屋を出て、建物から出ると

丁度、「ハダリ―」目当ての商人がいた。


「ちょっと……」


と声をかけたが、それを無視し、両足に、アンクレットの様なものを装着すると

物凄い速さで、走り出した。


 速いだけじゃない、速さを維持しつつも人や障害物を、上手く、

時には、宙に舞う事で、華麗に避けていく。その為、速さの割には、

事故等は一切なかったが、そのアクロバティックな動き故に

町の人々の注目の的となり、イヴはものすごい動きをするメイドとして

有名となった。


 そして冒険者ギルドの建物前に来ると、両足のアンクレットを外し建物に入った。



 連絡してから、早い時間で、イヴはやって来た。

そして、冒険者登録の手続きをとった。俺の従者という扱いなので、

仕事には俺が同行する必要があった。


 そして俺は仕事を探した。いつもだったら簡単な仕事を探すが

今日は、逆に難しい仕事を探した。


「ディドラゴンの群れの討伐か」


「ディドラゴン」

空を飛ばないドラゴンの総称


 話は、聞いていたものの、どんなものかは見たことがなかった。

仕事の難度予測もほどほどだし、丁度いいと思い、後は人手、

普段仕事は、一人だが、今回は目撃者が欲しかったから

パーティーを組むことにした。

 

 護衛連中は、この前、チョビ髭の男の件で、秘密厳守が徹底されたとの事で

見たことを外に漏らさない可能性があった。それでは困る。

 

 丁度、同じ仕事に目を付けた女三人、男二人、

計五人のチームの冒険者たちがいて、

しかも向こうも人手が欲しそうだったので、

これ幸いにと一緒に仕事を受ける事にした。


 今回の仕事は、最小限の武装だけで、鎧は着ていない。いつもの鎧姿では、

イヴの主人が俺であると言う印象を残せないから、周りの冒険者には、

戦闘はすべてイヴに任せて、自分は彼女の指示役と伝えた。


 そして現場は町から馬車で半日かかるくらいの森であったが、

ドラゴンによって木々が倒されていて、酷い状況であった。そして、そこにいたのは


「恐竜……」


 ディドラゴンは、まんま恐竜であった。違いと言えば、

口から火とかを噴くことくらい。

それが、大勢いるもんだから、まるで白亜紀にでもタイムスリップした気分だった


 種類も色々で、大きさも巨大な奴から、人間の大人くらいの奴もいたが、

全体的にティラノサウルスみたいな肉食恐竜みたいなやつばっかりだった。


 そして、冒険者たちは武器を構えた。攻撃準備に入った、俺も命令を下す


「イヴ……戦闘モード」


 彼女には、実は動力源として二つの魔法石、使っている。

正確には、俺との「契約」で未完成部分、

すなわち、もう一つの魔法石が出現したわけであるが、

二つの石は同時に使ってなくて、状況に応じて切り替えて使っている。

戦闘用に石に切り替える事を「戦闘モード」と呼ばれている。


 二つの違いは、石の力の差、そこから来る身体能力の差である。

家庭用は、能力が人並みで、武器をまともに扱えない。

戦闘用は高い身体能力を誇るが強すぎて、家事には不向き。

 

 後に知るが、家庭、戦闘の両対応の自動人形は他にもいるが、

それらは動力の出力を抑える事で、家事に対応するのであって、

魔法石を二つも使うのは、珍しいと言う。


 さて俺の命令を受けたイヴは


「了解」


動力を、戦闘用の方に切り替えた。見た目的にはないも変わっていない。

そして彼女は収納空間から、青白く光る刀「村雨」取り出した。

それは俺が「創造」で作ったオプションパーツの一つ、

そう俺が三日かけて作っていたのは、彼女の武器と、

戦闘モードでしか使えない特殊な装置であった。


 そして冒険者のリーダー格が、攻撃の合図を出した。俺は再度、命令を下す。


「ディドラゴンを、殲滅しろ」


イヴは、駆け出し、他の冒険者より、前に出て、最初の一体、

ラプトルみたいなやつを一撃で、その首を落とした。

それを皮切り、彼女は次々と恐竜を倒していた。

更に同じ武器ばかり使ってはいない。

状況に応じて、槍、大剣と武器を切り替えていく、

時には、グローブを身に着けての、格闘戦。

更には、両手に、それぞれ異なる系統の武器を装備し、ふるう事も、

そして敵からの攻撃は、アクロバティックな動きで、上手い具合に避けていく。


(アクション映画みたいだな。)


 その洗練されたかのような無駄のない動きに思わず、

見とれてしまいそうになった。

この動きは、百年間、音沙汰のないもう一人のから送られてきた

戦闘データを反映したものらしい。

 

 一方、他の冒険者たちは、彼女の強さに驚いているのか、

みんなポカーンとしていた。

かくいう俺も、「書き換え」際に情報を得ていたものの、

見るのは初めてなので、少し驚いていた。


 イヴが多くの敵を倒したのか、恐竜たちの矛先は、完全に彼女に向いた。

結果、俺を含め冒険者たちは、完全に蚊帳の外に。


 恐竜たちの攻撃がイヴに、集中する。恐竜たちは各々に口から、炎や、雷、毒霧、

光系スキル、要はレーザー光線みたいなものを放つ。彼女は、多くを回避、時には、攻撃で打ち消しつつも、敵を倒していく。

それこそ、寄ってくるたびに屍が増えていく。


 そしてついに、この群れの主、巨大なティラノサウルス、

正式名はレックスドラゴンっていうらしいが、敵は、そいつだけなった。


「グオォォォォォォォォォォォォン!」


感じの咆哮を上げると同時に、突風の様なものが、俺たちを襲った。


「ちょっとこのレックスドラゴン、変よ」


と冒険者の一人が言ったが俺は、このティラノサウルスと会うのは

初めてだったから、何が変なのか分からなかった。


 敵の猛攻が始まった。口からは、炎、雷、毒霧と、さっきの恐竜たち、

各々が出していたものを一遍に吐き出してきた。


「おいおいおいおいおい!」


 冒険者の誰かが声を上げ、逃げまどう冒険者と俺、

まあ俺は、当たって大したことないんだろうが、

それでも、体が勝手に逃げてしまう。


 そして、足の爪からは、地面を這う形で火弾、尾を振るたびに、

透明な砲弾の様なものを飛ばしてきて、更には両腕からレーザー光線


「難度予測、外れてるぞ!なんで上級魔獣がいるんだよ!」


と怒号を上げる冒険者。この状況をゲームに例えるなら、物語の中盤あたりで、

終盤の敵が現れたようなもの。しかも勝ち負け関係なしイベント戦闘じゃない上、

逃げられない。バグが起きているか、もし仕様だったらクソゲーの烙印は確実。

 

 敵の猛攻に、手も足も出ない俺達、まあ俺の場合は、その気になれば、

簡単にどうにかできるわけだが、今回は、俺はあくまでもイヴの指示役、

と言っても彼女がうまい具合に立ち回ってくれるので、

役目はあまり、果たせていないのであるが。


ともかく今回、俺は指示に徹して戦わない。あえて手を出さないのだ。

と言いたいところであるが、

正直な話、ここまで強力な魔獣と戦うのは初めてと言う事もあってか、

気持ち的に、怖くて手も足も出ない状態。


 そんな俺達とは、果敢に敵に向かっていくイヴ、

そして敵に最接近した彼女は大剣「斬竜刀」を手にし、最初に尾を切り落とした。


「キシャァァァァァァァァァァァァァ!」


と言うような鳴き声を上げた。


 続いて、足を、恐らくは筋だろうが、切り裂き、

ティラノサウルスはバランスを崩し、

更に火炎弾が出なくなった。そして次に、跳躍して、両手を切り落とし、

そして、跳躍では届かないのか、

イヴはバランスを崩し斜めになったティラノサウルスの体を上っていく。


 そして頭の当たりまで登ったところで、跳躍し、彼女は斬竜刀を下に向け、

そのまま頭部に向かって落下し、思いっきり突き刺さった。


「!」


 ティラノサウルスは倒れ、動かなくなった。

そしてイヴは、その前にそこからを離れ、

倒れた後、斬竜刀を回収すると、俺の側にやってきて


「終わりました」


との一言、そう勝ったのだ。冒険者の一人が、魔法で周囲を確認して


「もう魔獣はいません」


と言ったのを聞いて俺は


「戦闘モード、解除」


と言った。この瞬間、仕事が終わったんだなと思った。


 ちなみに、これは帰りに冒険者たちの話題の中で聞いたのだが上級魔獣の多くは

防御スキルを持っているが、力を急所に集中させている。

だからいきなり急所を狙ってもダメージは与えられない。

その他の部位を、破壊することで、スキルの効果が薄れ、

攻撃が通じるようになる。


 なんだか、ゲームのボス戦みたいだが、イヴが行った倒し方は、

かなりベストな物だそうだ。



 後始末は、依頼人である近隣の村の村長が別に手配しているので、

俺たちの仕事はここまで。報酬はもらったが、冒険者たちは、馬車代等の一部経費を除いて、残り全額、俺に渡してきた。

自分たちが何もしていないので貰うのは気が引けるそうだ。


 まあ何もしていないと言うのは俺も一緒なので、

同じく気が引けた俺は、報酬を分割して


「それじゃ、俺からの依頼の報酬の先渡しと口止め料と言う事で」


 ある事を依頼して、いや依頼と言うのは大げさだな、

どちらかと言えばお願いと言う感じだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る