5「『ハダリ―』目当ての客」

 翌日、interwineで夕食をとっていると、ルイズがやってきて

依頼人が捕まった事を教えてくれた。案の定、チョビ髭の男だったが


「関係がない?」

「もう少し調べてみますが、暗黒教団との関係が無いようなんです」


 チョビ髭の男は、商人で、マジックドールのマニアだそうだ。

そして夫人の屋敷を訪ねたあの日の夜、俺が、「ハダリ―」を引き取った事を

教会の人間が酒の席でうっかり漏らし、それをチョビ髭の男が聞きつけた。

本人証言では、その時は「クロニクル卿の知り合い」と言う話までだったが、

五日掛けて、それが俺である事を突き止めたそうだ。そして、俺の家を訪ね、

この時は、金で彼女を買う気だったそうだが、

彼女が起動状態である事を知って、「契約」の解除、即ち俺の殺害を決めたそうだ。

 

 人殺しを即決したり、直ぐに札付きのワルを手配できるなど、チョビ髭の男は、

まともな人間とも思えなかった。後で知るが、この件以外にも、

かなりの余罪があったらしい。


「そう言えば、路地裏の事は?」

「それは、酒場で会った冒険者から聞いたそうです。

その冒険者と言うのが、鎧を着てたんで顔が分からなかったと」


 それと、護衛を眠らせた魔法や結界の事は知らないの一点張りで、

そもそも護衛がいたこと自体知らなかったそうだ。


「はぁ……」


 ここまで聞いて、思わずため息をついた。

結局、俺のやったことは無駄だった事になる。


 賊が捕まらない以上、どうも落ち着かなかったが、

しかし、大変なのは、この後だった。


 部屋に戻ってくると、来客があった。クラウの感知スキルによると、

3人組の少女で敵意はないらしい。


 最初は、相手が女性とわかって、緊張するからイヴに応対させようとしたが、

いやな予感がして、結局、俺が応対する事にした。


 扉を開けると、進学校の学生服っぽい格好の三人組がいて、その一人が


「カズキさんですよね。クロニクル卿のお友達の……」

「ああ……」

「私たち、マジックドール愛好会の者です。

突然ですが、『ハダリ―』を一目見せてほしいんです!」

「………」


 この時、夫人のもとに「ハダリ―」の購入希望者が次から次へとやって来たと

言う事を思い出し、咄嗟に


「確か、うちには、『ハダリ―顔』の自動人形がいるけど、あれはイヴ、

『ハダリ―』じゃない!」


と言ってごまかした。


「イヴ?聞いたことないですね。そんなオートマトン」


と言われたが


「とにかく『ハダリ―』じゃないんだ」


と言って押し切った。そして


「どこで聞いたんだ?ここに『ハダリ―』がいるって……」


と聞くと


「一昨日、『ロバタヤキ』でチョビ髭の男が……」


 ロバタヤキと言うのは、この町の酒場で、

語源は俺たちの世界の炉端焼きであるが、

そこで、酒を飲んで酔っ払ったチョビ髭の男が、

「ハダリ―」や俺の事をベラベラと話したと言う。


 その後、三人には半ば追い返す形で帰ってもらったが、同時に不安を感じた。

それは翌日から現実となった。


「あ~~~~~疲れた」


 数日後、いつもの様にinterwineでの夕食、料理が出されるの待つ間、

今日の疲れから、思わずそんな事を口走っていた。

「修復」は、疲れは治してくれない。

回復薬、回復魔法は怪我やら毒やらを簡単に治すけど、

疲れに関しては個人差が大きく、俺に関しては、あまり効果が無いようだった。


(クラウの『体力吸収』も低級魔獣相手じゃ、あんまり効果ないし)


 やがて雨宮が料理を持ってきた。今日は日替わりメニューのカツカレーだ。


「最近、頑張ってるらしいな。黒騎士様」

「様付け辞めてくれよ。仕事量は増やしたけど、仕事自体は楽だよ。

あいては低級魔獣だし」


簡単ではあるが量が多い、朝から晩まで働き詰め、だから疲れるわけで


「低級魔獣でも、ゴブリン退治は立派な事だ。あと、この辺のゴブリンは牝だから、

お前が討伐に行くと喜ばれるだろう?」

「まあ一応女性だからな……」


俺は両性具有で、正確には女性ではないのだが、


「でも実際は、家にいたくないだけ、『ハダリ―』目当ての客が多くてさ」


 翌日から、夫人の所と同じく商人や、先日来た三人組の様な、

マジックドールの愛好家が次々と、俺のもとに殺到した。

部屋いるとき、外出時問わずにだ。


 多くは三人組同様チョビ髭の男から話を聞いて、あるいは話を聞いた人間からの

また聞きと言う形で知ったと言う。俺は最初こそ応対していたものの、

途中から、面倒になって居留守や無視を決め込むようになったのだが。


「相手がしつこいんだよな。ストーカー並みっていうか」


居留守を使えば、部屋の外に居座って、なかなか帰らない。

無視しても付きまとってくる。

ただ、interwineの建物内までは来ない。そこは、雨宮の人望ゆえだろう。

あと、当然ながら、魔獣退治の現場まではついてこない。

流石に、一日中interwineにいるわけにはいかないし


「それで、朝から晩まで、魔獣退治か」

「そっちの方が楽だからな」

「いや、客応対の方が楽な気がするが……」


 言われてみれば、そうなんだが、魔獣退治の方はクラウのおかげで簡単だが、

人間相手、こないだの様に俺を殺しにかかるなら別として、

クラウの力ではどうにもできないし、


 まあ、この状況を一発で解決するマジックアイテムが

宝物庫にある事はあるのだが、使うのは抵抗がある。


 料理を置いて、雨宮は去り、俺は、飯を食べながら考えた。


(どうすれば……待てよ)


ここで、夫人の言葉を思い出す、外観からは「ハダリ―」であるかは、

判断できない。稼働させて、その行動を確認しない限りは。


 俺が出かけている間、家にいるときも、あまり彼女を稼働させる機会がないので、

ほとんどの時間、家でスリープ状態にしている。

故に彼女を意識せずに暮らしていけるのであるが


 この状態は、侵入者や災害等の危機的状況が起きた時はもちろん、

ちょっとした急用の時でも直ぐに解除されるが、行動確認する機会は少ないだろう、

したがって現状は、連中はイヴがオリジナルの「ハダリ―」である事を

確認する事を出来ないはずだ。もちろん犯罪まがいの事をしなければであるが


 そこで、イヴに「ハダリー」らしからぬ行動をさせ、

それを公衆の面前を見せつければ

彼女は、「ハダリー」じゃないと言う話になって、彼女目当ての客は、

来なくなるだろうし、賊の心配もなくなる、という考えに至った。


 その後、雨宮から、これまで聞きそびれていた

「ハダリ―」の特徴について聞いた。

もちろん書き換えの時、すべてを知っていたが、

それが一般的にどこまで知られているか確認する必要があった。


 一般的に知られている「ハダリ―」の特徴は


特徴1「契約」スキルを持つ

特徴2 料理が得意、更に珍しい料理を作る。

特徴3 「収納」スキルを持ち、そこに専用のメイド服を三着入れている

特徴4 「通信」スキルを持つ

特徴5 掃除が壊滅的に下手

特徴6 男女共用のナニカ


 この中で俺は1と2と5は体験している。なお2の珍しい料理と言うのは、

異界料理つまり俺達の世界の料理だった。


 そして起動前にわかるのは、確認に手間はかかるが契約スキルの有無のみ、

後は稼働状態じゃなきゃわからない、ただし特徴6に関しては、共用であるかのみ、

起動後でなければわからない。


 特に、スキルと言うのは、自然発生的な物で、基本的に、どんなものが付くかは、

制作者にもわからない。既にスキルが発現している部品を使う事で

意図的なスキル付与は出来るけど、そういう部品を探すことが大変。


 だから、持っているスキルの組み合わせだけでも、大きな判断基準となる。


 まあ「創造」で物を作る場合は、意図的にスキルを付与することは可能だが


「俺が分かってるのはこれくらい。図書館で本を確認するか、夫人から話を聞くか、あの人詳しいみたいだし」


 夫人に話を聞きに行くのはハードルが高いので、翌日、図書館に、

場所は雨宮に聞いた。

途中「ハダリー」目当ての奴とあったが、無視した。


 その後、図書館の資料を読んでわかったことは、

雨宮に聞いていない特徴が一つあった事、


特徴7 6に関連して、反応が皆無


 あと彼女の呪いについては、製作者がかけたとか、

歴代持ち主の一人がかけたとか、暗黒神官の仕業とか、突拍子ない事として、

暗黒神の所為だと言う話まであった。

 

 それと資料には歴代の主人を襲った数々の不幸についてに書いてあったが、

雨宮から聞いた内容にいくつかエピソードを加えただけで、

目新しいものは殆どない。

 

 しかし、気になったのは「書き換え」の際に得た、

ある情報が、一切書いてなかった。


 図書館を出ると、あの三人組と出会った。


「こんにちは」


なお、俺を探してではなく、図書館に用があるとの事、要は偶然である。

二度目だったから緊張が和らいでいた。

俺は、愛好会と言うだけに詳しそうなので、


「なあ、『ハダリ―』って……」


ある情報に関わる質問をした。すると相手は、目を丸くして


「聞いたことないですよ。『ハダリ―』は、あくまで家事用です」


との事だった。その後、雨宮にも同じことを聞くと、返事は一緒だった。


 俺は、部屋に戻ると、クラウから


《うれしそうですね、何かいい事でも》


と言われた。


「まあ……ちょっとな」


 「ハダリ―」の件で、もしかしたら、また「書き換え」の必要、場合のよっては、

「創造」で何かを作らなければならないか思っていた。でも、もうその必要はない。

俺は、既に行っていたのだ。あの三日日間で。

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