4「ゴロツキども」

「ふぁ~~~~~~~~~~よく寝た……」


 目を覚まし、時計を見ると、昼過ぎだった。そして強い空腹感に襲われた。


「雨宮の所に行くか……」


イヴに留守を任せinterwineに向かった。


「いらっしゃい……」


と挨拶はしてくれたが、何か様子がおかしかった気がしたが、

体が脱力し足がふらふらになるほどの酷い空腹だったから、

食事を優先させ、結果、その事を聞きそびれた。


「お前、今日は随分食うな」。


 その日は、初めての町の時と同じか、それ以上、いくら食べて食い足りない。


「ふう……やっと落ち着いた……」


ようやく腹が満たされた時、漫画みたいにテーブルには皿が積みあがっていて、

時間帯的に客は少なかったものの、注目の的になっていた。


 そしてコーヒーを頼み、それを飲んでいる最中、

従業員のハルと一緒に皿を片付けに来た雨宮が、


「お前、またラジコンカー作ってたのか」

「どうして?」

「飯食う前の、お前の顏、やつれてるようで、すっきりしてる様な顔してた。

あの時と一緒だ」

「そんな顔してたの?」

「ああ……」


そして、皿の山を持っていきながら


「それと食欲、もしかして五日間、飲まず食わずだったのか?」

「えっ五日間?」

「今日を入れたら、六日になるけどな」


 雨宮は、皿の山を持ってカウンターの方へ、俺は思わずクラウに


(なあクラウ、あれから、六日経ってるのか?)

《はい、今日を入れればですが》

(何してた?俺)

《まず制作を三日間、不眠不休で行っていました。鬼気迫った顔でしたよ。

そして丸二日と本日、半日ほど、寝ておられました》

(そんなに)


俺は徹夜したくらいの感覚しかなかった。そして料金を払う際に


「何してたんだ、この五日間?」


と聞かれたが、本当のことは言いづらいので


「ゲームしてた……」

「ゲーム?」


俺は、財布からお金を取り出すのをいったんやめて、懐に手を入れると、

そこに宝物庫からゲーム機を出現させて、そこに仕舞っていたと見せかけつつ、

取り出す。


「それって……」


雨宮は、俺たちが高校の持っていた有名な携帯ゲーム機の名前を言った。


「これ、この町に来る前に、露天で買ったんだ、マジックアイテムなんだけど、

電池切れがないのと無駄に丈夫な事以外、後は普通のゲーム機。

ソフトは本体にたっぷり入ってる」

「それで、ずっと遊んでいたと……」

「ああ……」


 露天の話は嘘であるが、マジックアイテム以降の話は本当。

それで、ずっと遊んでいたと言う事にした。しかし、これはこれで、問題なようで


「いい大人が五日間もゲームに入り浸るのは、どうかと思うぞ」


と雨宮に軽く注意された。


 さて財布からお金を出していたのだが


「あれ、たりない?」


それもそうだろう、あんなにいっぱい食べたんだから。


「俺とお前の仲だから、残りは後でいいぞ。どうせ夜も食べにくるだろ」


と言われたが、迷惑はかけたくない。だから


「大丈夫、彼女に持ってきてもらう。ちょっと待ってろ」


俺は、イヴに部屋から、足りない分のお金を持ってくるように連絡した。

正確には、頭で念じただけであるが


スキル「通信」

同じスキルを持つもの、又はスキルが付与しているマジックアイテムを使う事で

離れた距離で、更に声を出さずに、お互いに連絡を取り合える。

ただし、マジックアイテムの場合、物によっては、発音が必要な場合がある。


俺、クラウ、イヴは持っている。全員共通して、相手がスキルを持ってなくても、

意思疎通が取れる。ただし、俺はフルパワーでしか使えない。クラウは近距離のみ、

イヴは、遠距離でも使えるが、主人、つまり俺と、あともう一人の二人限定。

なおこのもう一人とは百年間、連絡が途切れていて、情報も入ってこなかった。


 待っている間、雨宮は


「そういや、ジャンヌ・クルセイドって人、知ってるよな」

「ああ、この町に来る前に会ったけど、お前、知り合いなのか?」

「古い知り合いで、この町で花屋をやっていて、たまに店にも来てくれる」

「この町に店があったのか……それで、その人がどうかしたのか」

「五日前の晩に、店に来て、お前の事を話していた。

随分と、お前の事、気にかけてたよ」

「そうなんだ」


あのジャンヌって人と雨宮が知り合いと言う事で世間の狭さに内心驚いていると


「お待たせしました」


とイヴがお金を持ってやって来た。そして残りの料金を支払い終えると、

腹の皮張れば目の皮たるむって感じで、眠くなってきたので、二人で店を後に。


 その帰り道、クラウの刃を僅かに鞘から出した状態にした後、聞いた。


(護衛がついているって聞いてたけど、それらしい奴いるか?)


俺の見る限り、護衛らしき奴の姿はいないように思えたから、

彼女に感知スキルでの確認を頼んだ。


スキル「感知」

周りにいる生物の位置や、状況、気配を把握する。レーダーの様な物。

あと魔法的な物と動いている非生物も察知可能。

「周辺把握」の簡易版と言うべきスキル。


《マスターを隠れて見ている人間が6人ほどいます。敵意は感じませんが》


この六人が、護衛の様だ。後に聞いた話では、

衛兵所から教会に出向している兵士との事。


(そうか)


 俺は、僅かに出した刃を鞘に納めた。感知スキルは、

少しでも刃が外に出れば完全に抜いた状態よりかは弱いかもしれないが、

それでも実用に足るくらいにはなる。

あと街中で意味なく剣を抜くと、問題と言う事もある。


 部屋に戻ってからイヴに


「客は来てなかったか?」


来るわけないとは思っていたが、一応聞いてみた。すると


「一人、来ていました」


どうも来客があったらしい。その人物は、チョビ髭で、イヴの説明する身なりから、

見た目だけなら、典型的な紳士みたいな格好のようだ。


「その方は、私の姿を見た途端、お帰りになりました」

「何か、言ってたか」

「いいえ」

「何しに来たんだ、その人……」


たぶん部屋を間違えたのだと、俺は思い、特に気にすることはなかった。


 あと部屋に戻ると、イヴのオプションパーツの事を思い出し


(そういや、フルパワーなら、直ぐに作れたんじゃないか)


と思い、この五日間を無駄に使った気もしたが、


(でもフルパワーだったら、うっかり部屋が壊しかねないか)


結局、能力制限の中で「創造」が正しかったという結論に達した。


 翌日、前日に、雨宮の所でかなり金を使ったので、

形だけではあるが働いておかなければと思い、

仕事を探すため冒険者ギルドに向かう途中の事であった。


 家を出るときは普段の、あの下級の魔法使いみたいな格好で出て、

途中で、宝物庫にあった、例の鎧に着替える。特撮の変身みたいに、

一瞬で終わるが、人前だと目立つので、いつも路地裏で着替えるのであるが、

その路地裏に入る直前に、クラウの感知スキルで、

周辺の確認を頼んだ。護衛に装着の瞬間を見られたくなかったからであるが

 

《マスター……周囲8人ほど、こちらに敵意を向けています》

(えっ)

《あと意識を無くしている者が六人います。おそらく護衛の方たちかと》


予想外の返答が来た。こっちに来て、間もないし恨みを買った覚えもない。

物取りの可能性もあるが、賊の仲間とも考えられる。


《今、4人、路地裏に移動しました。マスターの後方に4人。全員男》


待ち伏せと奴らと、退路を塞ぐ奴らと言うところだろう。


《どうします?》


普段なら、面倒だから避けて通るところであるが


(もしかしたら、賊の仲間かもしれない)


 この状況を、さっさと終わらせないと、落ち着かない。大十字じゃないが、

今回は、あえて面倒ごとに挑むことにした。

まあ賊の一件から日が経ってないせいか体の事を意識していた故に、

気が大きくなっていたのかもしれない。


 俺は、クラウを鞘から完全に抜いた。同時に自動調整が働き、攻撃力が増加。

 

(スキル『斬撃』0)


スキル「斬撃」

剣による攻撃を、強化するスキルであるが、

他にも打撃を斬撃に変えるという効果もある。


 このスキルには、ちょっとした裏技がある。強化の度合いは、自由に変えることができるのであるが、それをゼロにすると、切れ味が完全になくなり、

斬撃が打撃に変わるのである。

これを利用し両刃であるにも関わらず峰打ちに近いことができる。


(生かして捕まえないとな)


 俺が路地裏に入ると、クラウの言う通り4人の男がいた。見るからにゴロツキって感じ、そいつらは俺の姿を見るなり物凄く胸ぐその悪い笑みを浮かべて、

立ちふさがった。


《マスター、後ろにも》

(わかった)

《あと結界も張られました》


前方にいる男たちの背後に、青くて透明な壁の様なものができていた。


前方にいる男の一人が、剣を抜いて、こっちに向かってくる。

自分一人で十分だと言わんばかりだ。

 

 こっちも、剣を構えたが、相手は怯まない。それどころか、あざ笑っているように思えた。相手には、俺が弱そうに見えているのだろう。


イラっとした。


昔絡んできた不良たちを思い出した。あの時は、大十字に助けてもらったが、

何もできなかった俺は悔しい思いだけが残った。


 男が襲い掛かってくる。俺は、「習得」に身を任せ


「!」

 

気づくと、相手を倒していた。「習得」でアーツを使うと、

時々、自分でも何をしたのかわからないことがある。

わかっているのは、相手の鳩尾に一撃、喰らわせた事だけ。

男は、倒れ腹を押さえながら、震えている。

 

 最初の男を倒したせいか、連中の顏から余裕がなくなり、前にいる三人が、

剣を抜いた。


《後ろの奴らも剣を抜きました》


どうやら総攻撃を仕掛けるようだった。

連中のリーダー格の様な、下っ端のような奴が声を上げた


「やっちまえ!」


 全員、返り討ちにした。先と同じく、具体的に何をしたのかわからないが、

4人は鳩尾に一撃。結果、腹を押さえ倒れている。残りは、下半身の急所に一撃。

急所を押さえながらのた打ち回っていた。


「和樹さん……」


声の方を向くとルイズがいた。


「大丈夫……ですね」

「どうしてここに?」

「偶然通りかかったんです。助けられなくて、すいません。

結界を破るには力不足で……」


と言って、頭を下げた。


「良いんだよ、俺は無事だし、それに結界を破るのは容易じゃないのは

知ってるから」


それは、大十字絡みの経験からである。

なお結界は、男たちを倒すと同時に消えていた。


「ところで、護衛は?」


 この直後、その護衛と思われる魔法使いや、剣士、商人風の格好をした人々が、

慌てた様子でやって来た。


 この後、状況が状況なので、衛兵所で事情聴取を受ける羽目に、

そしてルイズが見ていた事と、

相手が、この町で、ちょっと有名な札付きのワルである事、

当の本人達が、事情聴取を受け、素直に白状した事もあって、

俺は、正当防衛が認められ、直ぐに解放された。


 なお男たちは、金で雇われ、俺を殺す気だったそうだ。

雇い主と賊との関係は不明、故に暗黒教団との繋がりが分からないので、

身柄は、衛兵所預かり。

 

 それと、護衛達は、全員、突然の睡魔に襲われて意識を失ったそうで、

睡眠促進の魔法の所為らしいが、

男たちは関与を否定してる。結界の事もわからないとの事だ


 あと衛兵からは、あの路地裏を、いつも通っている事を、

誰かに話したか聞かれた。

なんでも連中は依頼主から、俺があの路地裏を通る事を教えられていたそうだ。


 一応、雨宮に話したことがある。それはinterwineにて、客が少ない時間帯で手が空いていた雨宮との雑談の仲での事だったが、少ないものの客はいたわけだから、

そこで第三者に話を聞かれた可能性はあった。

 

 その事を伝えた。その時には、もちろん雨宮ではなく、

クロニクル卿と言っておいた。

あと、状況から不特定の人間が知っている可能性も話した。


 実は、もう一人話したことがある人間がいたのだが、

この時はすっかり忘れていた。

ただこの人物の時も、周りに人がいる状況だった。


 あと依頼主に、ついては、奴らの証言から、どんな容貌かはわかっていて、

その人物に身に覚えはないかも、衛兵から聞かれたのであるが


「そういや、俺が留守の時、訪ねてきた奴、そんな感じだったらしいですけど」


と話した。そう衛兵から、聞いた依頼主の容貌が、イヴから聞いた、チョビ髭の男と

似ている気がした。ただ実際に会ったことがないので、

確信は持てないのであるが。

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