3「君の名はイヴ」

 さて部屋に戻り、また夕食の為、interwineに行くことにしていたが、

その前に、ふと思い立って「書き換え」を使うことにした。

彼女がオリジナルの「ハダリ―」だとしてその呪いの事が気になったからだ。

実在はともなく、危険があるなら取り除く必要があるからだ。


 クラウの時は、床だったが、流石に彼女は床と言うわけにはいかないので、

ベッドに寝かせ、彼女の体に右手を当てた。


 そして彼女の情報が、頭に入ってきた。

そこから、彼女がオリジナルである事が確定。

作った人物の詳細は判らなかったが、人間であるとの事。

更には、作成者とは別に、クラウの創造主が手を加えていた。


 あと俺の「契約」による強化は、未完成品に対しては完成品に変えてしまうと言う

効果があるのだが、それが行われたと言う情報が入ってきた。

そう「ハダリ―」は完成度が高いと言われていたが、

実際は未完成品だったのである。

もっとも未完成部分は日常的に稼働させるには関係のないもので、

更にその部分に関する気になる情報があったが、それは一旦置いておく。


 そしてこの時、俺は二つのスキルに注目した。


(これが呪いの正体か……)


 一つは、クラウにもついている「引寄せ」。

こいつが「ハダリ―」を創造主のもとに

引き寄せる過程で、恐らく主人たちが手放すように仕向けなければいけない。

その結果、不幸が起きている可能性があるとこの時は思った。


 しかし後に「引寄せ」は、最近まで機能していないことが分かるので、

この事は、否定されるのであるが、ただ今回の馬車の暴走や、

それ以前に賊がこの町に長逗留していたのは、紛れもなく、これの所為。


 そしてもう一つ


スキル「魅了」

自身に、強い好意を抱かせるスキル。このスキルがあれば、

モテる要素が皆無であっても

相手を自分に、引き付けることができる。持っている者が少ないレアスキルである。



 あと雨宮の話から「契約」の様に、見つけにくいスキルの可能性がある。

まあ「ハダリ―」を調べたやつがいい加減と言う可能性もあるが。


 「魅了」はクラウにもついていたが、「書き換え」を行った際に気になって、

他の複数のスキルと共に「生体タンク」と置き換えた。

なおクラウの、正確には七魔装の「魅了」は

武器自身が、選んだ相手を自分に引き付ける。要は使い手の勧誘用。

効果は直ぐに出るらしいが、俺には効かなかったみたいである


 「ハダリ―」の「魅了」は、対象は無差別であるが、

人を引き付けるだけではなく、

独占欲の増幅も行なわれ、加えて自身への嫉妬も増幅させ、

加えて自身への殺意などの攻撃を逸らす効果もあった。


 これがもたらす答えは、明白、色恋沙汰、そこからの殺し合い、

そこまでいかなくてもトラブルは間違いなく、

「ハダリ―」自身ををめぐって起きた不幸は、明らかにこれが原因だ。


 

 ただ、効果が出るには、長期にわたって、彼女と接触し続けなければならないので

俺や雨宮に効果が出ていないのは、幸いであった。


 そして、「魅了」は、作成者ではなく、「引寄せ」と同じく

創造主によって付けられたとの事。


(何考えてるんだ、まったく、そりゃ何かを得るためには、

犠牲が必要なのはわかるさ、けどなぁ)


クラウの時も思ったが、危険なスキルは、所有者にとって、不利になるばかりで、

全く利がない。それこそ嫌がらせ目的にしているとしか思えない。


(創造主ってやつは、絶対に性格が悪いに決まってる!)


と思いつつも、書き換えを行い、「魅了」を除去し、クラウの時とは違い、

彼女が持っているスキルの一つ「収納」がSP消費で、強化可能だったので、

それによって消費する。


 余談であるが、「契約」も創造主が後付けしたもので、ここで内容をしったが、

それは、強化がないものの、俺と同じ不死。ただ受け身型だから、

不死になるのは「ハダリ―」の方だが。


 さて今回は、クラウの時よりも楽であったが、ここで終われなかった


(こいつは……面白そう……)


基本的に、面倒なことは嫌な俺、工作とか、プラモづくりは、

もってのほかであるが、

 

 そんな俺でも、本格的なラジコンカーの組み立てキット作ったことがある。

 

 それは近所のおもちゃ屋で、衝動的に買った。誰もが投げ出すと言った。

大十字と雨宮だけは完成を信じてくれていた。理由はいつもと違うからとの事。

 

 火がつくと言うべきか、その時の俺は、店で商品を見た瞬間から、

体が熱くなるのを感じていた。そしてちょうど大型連休だったので、

一日部屋にこもって、熱に浮かされ、飯も食わずに見事完成させた。

その様子を見ていた家族曰く、俺はかなり鬼気迫る様子で作っていたという。


 しかし、その後は、何度か走らせただけで、後は一気に熱が引いてしまい。

ラジコンカーは、今も実家の押し入れで眠っている。


 今の俺はその時の同じものを感じていた、彼女の情報の中には

オプションパーツと呼べるものの存在があった。

なくても完成とみなされるものであるが、それを知った瞬間、

火がついてしまった。何故かは、俺でさえ分からない。

とにかく体が熱くなってきた俺は、客への応対、

まあ客はあまり来ることないのだが、それを「ハダリ―」に任し、

俺は部屋に籠った。


 そして俺は、「創造」を使い、オプションパーツの作成にかかった。

今回は、彼女の情報から得た設計図の様なもの使うので、

宝の補充と同じ要領で作れると思ったが、

それは、他人が作ったものだからか、それとも宝とは違って複雑だからか、

普段とは違っていた。


 スキルを発動させ、設計図を頭に浮かべると、

その後どうすべきか、頭に浮かんできた。それは自分の手で作っているという

イメージを浮かべる事、あくまでイメージであるから

正確じゃなくても良いが、かけ離れすぎていては、いけない。


 ちなみに、俺は、昔見ていたドラマやアニメ、漫画を参考にイメージを構築した。

そしてイメージを浮かべると自分が実際にそれをやっている様な感覚に陥った。


 最初に、抱いていたのは、熱い鉄をたたく、鍛造のイメージ、

俺の抱いている勝手なものであるが、それでも、ハンマーの重さ、熱さ、

動作から来る疲れを感じていた。


 ずっと同じイメージを浮かべていればいい訳じゃない。工程に合わせて、

変えていかなければいけない。疑似体験とは言え、

いろんな事をしなきゃいけないし、

疲労も覚えるのでかなり面倒に感じた。


 普段の俺なら、投げ出しているだろう。しかし熱に浮かされた俺は、面倒さえも、

お構いなしに、ひたすら作り続けた。


 ある程度の数を作り、部屋が手狭になってくると彼女を呼び出し、

彼女の収納空間に、それを仕舞ってもらう。

それを何度か繰り返し、そして最後の一つとなったが、これが、かなり大きくて、

作ったものを宝物庫の方に出現させた。


 こいつの作るのは、大変だった。巨大工場で、制作するイメージ。

これまでとは違い、頻繁にイメージを変えないと、工程が進まない。実際に、

全く異なる作業を頻繁に切り替えながら行っている感覚。

その作業量は途方もなく多く、本来なら大人数じゃないとできない事を、

無理やり一人でやってるって感じだ。


 その大変さ、そこから来る途方もなく強い疲労を感じながらも、

熱に浮かされた俺は、作業を辞めず、そして


「出来た……」


 最後の一つが完成した。後はこれを、宝物庫から、

彼女の収納空間に移すわけだが、ここで一つ問題があった。

宝物庫に入っている物は、普段は俺の手元に出現させているが

「転移」の様に自分が行った事のある場所ならどこにでも出現させる事ができる。

ちなみにフルパワーならどこにでも出せる。


 しかし、収納空間は当然行った事のない場所だし、そもそも彼女の収納空間は、

生物を入れることができない。「書き換え」による強化で、広くはなったが、

その点は変化がない。


 この時、ちょっとした思い付きがあった。頭に情報が入ってきたのとは違う、

本当の思い付きである。俺は、彼女を呼び寄せ、彼女の収納空間に、

アレを転送するよう念じた。失敗しても、次の手は考えていたので、

軽い気持ちだったが、結果は成功であった。


「おわった~~~~~~~~~~~~~」


と思わず声を上げた。でも実際は終わってなかった。

もう一つ彼女にすることがあった。


「『ハダリ―』、君に新しい名前を付ける。今から君はイヴだ」


 本当に俺の個人的な事であるが、彼女にはこの名前が合うような気がしたからだ。


「わかりました。ご主人様」


 彼女が、淡々と口調で答えた後、急激な眠気に襲われた。

俺は、イヴに再度、来客等の対応を任せ、着替える事もなく、

ベッドに横になり寝た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る