第6話「呪われた自動人形」(中編)

1「着換え」

 翌日になって、動きがあった。朝食を食べにinterwineに行ったら

審問官たちが来ていた。

俺は朝食のハムエッグを食べつつ、審問官たちの話を聞く、

それによると、盗品が見つかったことを報告しに行った際に

「ハダリー」の事を話すと、

俺への譲渡を快諾してくれたとの事、しかも無償で。

まあお金には困ってなく高値でも、ポンと出せるが、

そうなると雨宮に怪しまれそうで、避けたかったので正直助かった。


 ただ、証明書を書くと言うので、取りに行かなければならなくなった。

この世界にも郵便があるから、郵送にして欲しかったのだが、


「公爵婦人は人柄がよく人望もあるし、あと俺も世話になってる。ついでに貴族だ。

直接会って、挨拶しておいた方がいい。それに近場だからな」


と雨宮から言われ、あの二人の審問官からも同じような事を言われた。

 

 そんな訳で、審問官が早速今日の午後、盗品の返却に行くのだが、

俺も行く羽目になった。


「えっ!今日」


突然の事で、思わず声を上げてしまったが、ジェニファーは


「今日はお暇ですよね。調べました」


審問官の調査力は高い。だがプライバシーを探られて、あまりいい気分はしないけど


「俺も立会人としていくことになってる」

「良いのか、お前、仕事は?」

「大丈夫だ。それに、公爵婦人から指名でもある」


そんなわけで雨宮も一緒に来てくれる。もちろん正装の必要はわかっていた。

しかし宝物庫にはいい服はない。


その為、貸衣装を用意する事になるが、店を知らなかったので、食事を平らげ、

雨宮に代金を支払いながら


「この町に、貸衣装屋ってあるか?」


と尋ねると、でルイズが、


「それでしたら、こちらで手配しておきます」


そして昼、interwineで昼食を食べ終わり、料金を払ったところで、審問官たちと

「ハダリ―」がやって来た。審問官たちは朝とは異なり、

修道女の様な服装をしていた。これが、彼女たちの正装らしい。


 審問官たちに連れられてスタッフルームに、部屋に入る時、雨宮が


「俺も着替えてくるから」


と一言


そして、ルイズが


「これに着替えてください」


と、俺に服を渡してきたのだが


「あのさ、タキシードとかじゃないの?」

「そういうのを、ご消耗でしたが、残念ですが、

この国では異性装は良くは思われませんよ」


 渡してきたのはドレス、青を基調に金の刺繍が施された綺麗な物であった。

更に化粧品に、アクセサリー、更には女性用の下着まで用意されていた。

俺が事前に指定しなかったのが悪いとは思うが


「………」


俺の個人的な事であるが、ドレスを着る事に抵抗があって

着替えるのを躊躇しているとルイズが


「異性装に抵抗があるのはわかりますが、ここはクロニクル卿の為にも」

「なんで、あいつの?」

「公爵婦人には、あなたがクロニクル卿のお友達と話しています。

もし気分を害されれば、連帯責任でクロニクル卿が不利益を被るかもしれませんね」


 雨宮の話を出されちゃ、従わざるをえない。さんざん世話になってるんだ。

俺の所為で、あいつの立場が悪くなるようなことはあってはいけないからだ。


(つーか卑怯だぞ。コイツ絶対楽しんでるだろ)


そんな事を思いながら、観念して、ドレスを着る事に


「あの恥ずかしいから、向こう向いてて」

「はいはい」


と言って背を向けるルイズ


 一方、同じく部屋にいたジェニファーは、どことなく様子がおかしかった。

僅かに険しい顔をしているように見えた。


「あなたも……」


と俺が言うと、ハッとなったような素振りを見せつつ


「ごめんなさい」


と言って、俺に背を向けた。


 用意されていた服は、下着を含め、そでを通すだけで自動的に装着され、

ある程度ならサイズ調整もする魔法の服、確か、かなり高価で、

庶民には手の届かないものと聞くが、

そのおかげで苦労なくドレスを着ることができた。


 そして


「お化粧は、お任せください」


とルイズは言って、俺に化粧を施した。

これまで俺は化粧なんかしたことないから

任せるしかなかった。


 化粧が終わると、彼女は鏡を持ってきた


「!」


 中々の美人がそこにいた。思わず見とれてしまうほど、

まるで絵本の中から飛び出てきたお姫様の様


(俺が王子様なら声をかけているかも)


そんな事を思ってしまったが


「どうです、綺麗でしょ」


 ルイズが声をかけてきて、それに返事をしようとした瞬間現実に戻された。

そして直ぐに、ある考えに脳裏に支配し血の気が引くような感覚がして、

思わず部屋を飛び出した。


「どうした和樹!」


 外では、タキシード姿に着替えた雨宮がいたが俺が部屋を飛び出したせいか、

驚いた顔をしている。この後の記憶ははっきりしていないが

後に聞いた話で、俺は、雨宮の両肩をつかみ、揺さぶりながら


「俺さ……ナルシストじゃないよな……マザコンじゃないよな……」


と言っていたらしい。


 なんせ思わず見とれてしまったのは、鏡に映る自分だ。

しかも今の俺の顏は母親そっくりと来てる。

それに気づいた俺は、すごくショックだったが、

これは俺特有の事なのだろうか?


 気持ちが落ち着いた後、化粧が崩れたので、ルイズに直してもらい、

更にアクセサリーを着けると、出発することになった。


 審問官が手配していた辻馬車で、interwineから出発。

途中、返却品を乗せた貨物用の馬車と合流し、二台で向かう。

更に衛兵の護衛までついていたので、物々しさを感じた。


 やがて、屋敷の近くまで来ると、ルイズから


「剣はここに置いておいてくださいね」


と言われた。実はなんかあった時の為、クラウを持ってきていた。

言われなくても、屋敷に持っていくつもりはなかったが。

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