5「呪われた自動人形」

その後、二人は、後日連絡する旨を伝え、

一応、遺留品なので「ハダリー」をいったん連れて帰った。

二人が来たことで衛兵所行きはなくなった。


二人が去った後、俺は雨宮に尋ねた


「なあ、『呪われた』って、どういう事だ?」


すると雨宮はすまなそうに、両手を合わせ、頭を下げて


「ごめん、つい言いそびれてた。」


俺に詫びた後、説明を始めた


「『ハダリー』は持ち主を次々と不幸にする呪われた存在って言われてるんだ」


なお実際に不幸になったという持ち主の記録もあるという。

しかし話を聞いてみるとよくあるパターンだ。

彼女が来た途端、不幸が起きるって感じ。掻い摘んで五つほど記す


不幸の事例1

とある貴族が、彼女を家事手伝いの為、彼女を購入するも、

直ぐに妻との関係が悪くなり、その妻に殺された。


不幸の事例2

とある商人、同じ理由で購入するも、その後、急に金遣いが荒くなった。

商売はうまくいっていたものの、出ていく金が多く、結果破産


不幸の事例3

同じく商人、購入直後、馬車で遠出をしていたところ、落石事故で死亡


不幸の事例4

国王の家臣、購入して一年後、国王が退位し、新たな国王が即位すると、

新国王主導の内部監査が行われ公金横領がばれて、失脚


不幸の事例5

とある貴族が、購入するも、一年もたたずに病死、その後、家族が受け継ぐも

息子は、事故死、孫は、友人によって殺害と三世代にわたっての不幸。


とこんな感じ、話を聞いた俺は


「なんだか、典型的な呪われた○○って感じだな」


と俺が言うと


「まあ不幸は、ただの偶然と片づけられるものも多いし、

それに、話を盛っているものも多い。」


事例1は、「ハダリー」に貴族が入れ込んだ結果の色恋沙汰可能性があるらしいが、

事例2に関しては、確かに「ハダリー」購入した後、破産したのは事実だが、

実際はその前から、商売は傾きかけていて、金遣いが荒くなったのは嘘で、

商売の失敗で破産したらしい。

事例3に関して、事故死は確かだが、購入してから何年か経ってかららしい

事4に関しては以前から噂があったらしく、遅かれ早かれ、

こうなった可能性がある。

事例5に関して、貴族は、もともと病気持ち、息子、孫の不幸は、

それぞれ十年近く間が空いているし、その間も「ハダリ―」は稼働していた。

ただ孫に関しては「ハダリ―」をめぐっての事であったらしいが。


他にも事例があるが、いくつかは事例1や事例5の様に「ハダリ―」自体が関わる

ケースもあるが、大半は、雨宮の言う通り、偶然や、話を盛ったものが多いように

思えた。


「それに、『ハダリー』に関する調査記録では、不幸を誘発させるような魔法及び

スキルは確認されなかった。だから『呪われた』と言っても、

噂の域を出ないんだけどな」

「じゃあ、公爵夫人が返してくれるなって言ったのも」

「それが原因かもな。実際、公爵はなくなる一年位前から急におかしくなったって

聞くし」

「もしかして、呪いの所為?」

「いや歳も歳だったから、認知症だったのかもな。

でも夫人はどう思ってるか分からないけど」。


 悪評は立っているものの、

「ハダリー」は高い完成度と同時に美貌も悪くないせいか

マニアの間では根強い人気がある。ただ


「でも、マジモンを見た俺としては、呪われたって感じはしなかったけどな」

「俺も、実物に見て、そう思った。危ないっていう感じがないと言うか」


と雨宮も同意する。


 俺達は、大十字絡みで、呪われた人形を何体か見たことがあり、

もちろん酷い目にも会ってる。それらは、千差万別だったが共通して、見た目、

写真や映像で見た程度じゃ、分からない。

直に見て初めて感じる怖さと妖艶さというか、

そういったものがあって、しかも第一印象から、それを感じる。

当時、一般人だった俺達でもだ。


 「ハダリー」はどうかと言うと、確かに悲鳴を上げるほど、怖い目には遭ったが、

第一印象は、かわいい少女、そもそも人形と言う感じはない。

それに怖かったのは、あの時の、目をかっと見開いた時の仕草であって、

今の彼女には、そういうものを感じない。

表情に乏しいだけの少女と言う感じだろうか。


「でも呪いが嘘であったとしても、バカに出来ないしな」


と雨宮が言うと、


「そうだよな……」


俺は思わずうなづきながら同意していた。


「久美も言ってたな『嘘の呪いは、時に本物の呪い以上になる』って」


 その日は、一旦部屋に戻り、転移防止の魔法をかけた。

最初は、雨宮がしてくれると言ってくれたが、あいつは仕事があるから、

やり方だけ聞いて、俺が自分で、やる事にした。


 ただ実際に使ったのは、教えてもらった方ではなく、俺の専用魔法の方だ。

もちろん最初は、雨宮から聞いた方を使うつもりだった。ただ部屋に戻る途中、

ふと専用魔法の方にも、同じものはないかと思ったら、頭に浮かんできた。


 雨宮が教えてくれた方は簡単な魔法で、魔法使いでなくとも使える代物

しかし、定期的に掛けなおさなければならない。

後に知るが今回泥棒に入られた公爵邸は、それを怠っていたらしい。


 専用魔法の方も、低レベルと言う扱いで、能力限定化でも使えるが、効果は永続。

何度もかけなおす面倒を考えれば、教えてもらっといて悪いが、

こっちを選ぶことにした。


 その日は、妙に疲れて仕事に行く気なれず、

まあ普段からあまり行くこともないが、

ともかく食事の為、二度出かけたくらいで、後は部屋で、

宝物庫にあった携帯ゲーム機型のマジックアイテムで遊びながら、

だらだらして過ごした。

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