3「寝込みを襲われる」

 そして今後の事について、雨宮が


「俺は彼女をいったん衛兵所に連れてこうと思う」


「衛兵所」

衛兵たちの拠点、元の世界における警察署に相当する。


要するに、彼女の事に関しては、後は警察に任せようということである。


「いいと思うぜ」


その考えに異論はない。ただ


「それと和樹、お前も来てくれ」

「俺も行かなきゃダメ?」

「ああ、お前と彼女が契約状態であること説明する必要があるし、

それを証明するにはお前がいなきゃいけない」

「面倒だな……」


 悪いことは一切していないが、昔、特に中学、高校の頃は事件の証人になることが多くて、その度に面倒な、取り調べを受けたりした。

なお、これらは大十字絡みの出来事からの派生である。

ともかく、その所為で警察署に行くのは苦手だ。面倒くさいから。


 もちろん、衛兵が、元居た世界の警察に相当するからと言って、

同じとは限らないのであるが。


「面倒なことは、俺がするから、お前は一緒にいてくれればいい」。


 とはいえ、早朝なのと、雨宮自身、料理の仕込みがあるんで、

衛兵所には朝の十時過ぎに行くことに決め、

その前に朝食の為、店に九時に行くことにして、

俺は一旦、家に戻った。そして「ハダリー」は連れてきた。雨宮は


「彼女は、うちで預かっておくよ」


と言ってくれたし、俺もその好意に甘えようと思ったが、

市場の件で、すでに迷惑をかけてるし、この後の衛兵所での事もあるから、

結局、俺が彼女を預かる事とした。

 

 そしてアパートに戻った俺は、部屋に入った途端、急激な眠気に襲われた。

俺は彼女に


「とりあえず、俺が起きるまで、部屋で適当に過ごしていてくれ」


と言って、そのまま寝室に向かい、着替えることもなく、ベッドのわきに、クラウを置くと、ベッドに倒れこんだ。

普段なら女の子とひとつ屋根の下となると緊張するものだが、

眠気のおかげで、そういう事もなく、

そしてクラウに八時くらいに起こしてくれるように頼み、そのまま眠りに落ちた。


 目を覚ますと、「自動調整」が働き防御力が上がっていて、

あと体がつつかれていた。


「?」


最初は、何が起きてるのかわからなかった。


「くそ!なんで!なんで!」


と言う声が聞こえて、やがて意識がはっきりしてくると


「!」



部屋の中、ベッドの横に誰かがいて、そいつは何かで俺の体をつついていた。


「お前、何してる!」


と声を出すと、そいつは


「うわぁぁぁぁぁ」


と声を上げて、後ずさる。


 一見しただけで、そいつが不審者であることはわかったから、

俺は、素早く起き上がり、クラウを手にして、鞘から抜いた。

同時に自動調整が働き、攻撃力が上がる。


(スキル『斬撃』0)


 後は身を任せるだけ


《えっ、あっ、〇△◇×!》


クラウが訳の分からない声を上げたので、気になったが、それよりも不審者だった。

そいつは小柄でフード付きのローブを着ていて、

フードを深々と被っていたから顔は見えない上、

声も少年とも少女とも取れ性別もわからない。


「くそぉぉぉぉぉ!」


 そいつは、ナイフを手に襲い掛かってきた。


(動き早いし、手際も良い。武器のリーチの差など、意味を持たないか。)


と俺は分析をし、そして相手の攻撃を見極めつつ、こっちも手際よく剣をふるい、

相手の攻撃をふさぎ、最終的にはナイフを落とし、

更にそいつの腹に「峰打ち」を叩き込んだ。


「グッ」


そいつは再び、後ずさり。


「なんなんだよ、お前……なんつー体してんだよ」


そして


「ちくしょう!覚えてろ」


かなり、ベタな捨て台詞を残して出て行った。


「待て!」


後を追って、寝室を出たが


「えっ?」


最初は、相手の背中は見えていたが、すぐに消えてしまった。

正にすうっとっていう感じだ。


《転移スキルです、逃げられました》


スキル「転移」、

一度行った事のある場所に自由に移動できる。逆に言えば一度も行った事のない場所には転移できない。


この時はまだ知らないが、賊は、ドアをこじ開けて、この部屋に入っていた。

なお「転移」は俺やクラウも使えるが、

俺の場合はフルパワーじゃなきゃ使えないから、ほとんど忘れている。

クラウの場合は「行った事のある場所」と言う制限はないものの、

持ち主または、目を付けた相手の周辺にしか転移できない。


(なんだったんだ。あいつは?それより!)


俺は、急いでリビングに向かった。「ハダリー」が危害を加えているんじゃないかと

思ったから。


 そして、リビングに行くと、ソファーに「ハダリー」いた。

彼女は横になっていて、目を閉じて、しかも寝息らしきものをたてていたので、

眠っているようだった。


「これは……」


 無事と言っていいのだろうか、彼女はどういうわけかメイド服姿で、

死装束は脱ぎ捨てられていた。ただしカチューシャはそのまま。

 

 念のため俺は、クローゼットを確認した。


「ある……」


クローゼットには、サイズの違うメイド服が二着かけてあった。

 

 俺の部屋が、家具付きであったが、その中に混じってどういう訳か、

メイド服があった。前の住人が置いていった物らしいが、詳細は不明。

彼女が着ていたのは、デザインは似ていたが、明らかに二着とサイズが異なる。

でも念のため確認した。


(アイツが彼女にメイド服を持ってきて着せたのか、

待てよ、死装束はぶかぶかだったから、下に着てたのかも)


俺は、無事を確認するため、彼女に声をかけると、すぐに目を覚まし


「おはようございます。ご主人様」


と俺の方を向き言った。


「大丈夫か、何かされてないか?」


すると彼女は少しの間、再び目を閉じ、彼女は、


「確認しました」


と言って目を開け


「私の体には、何の問題もありません」


と回答した。


「なんだ今の動作?」

「体の不具合を調査しました」


そして、再度


「私の体に問題はありません」


と言った。どうやらさっきの動作は、セルフメンテナンスを行ったという事らしい。

 

 あまりにも淡々とした口調なので、俺に気を使って隠し事しているようには、

思えなかったが、実際はどうなのかわからない。

彼女の言葉が正しければ、衣服の件を除き、

彼女は無事と言う事になる


 ここで、クラウが声をかけてきた


《マスター、魔法の気配を感じます》


この時、クラウは鞘から抜いた状態で、「感知」スキルが、最大になっている。


《床にある死装束からのようです》


俺は床に脱ぎ捨てらえている死装束を見た


「ん?」


さっきは、気づかなかったが、十字架の部分が、ぼんやりと赤く光っていた。

だがすぐに、光が消えた


《気配が消えました》

「なんだったんだ一体……」


ここで、「ハダリー」が


「ご主人様、お召し物に穴が開いております」

「え?……あっ!」


ここで俺の服が穴だらけだということに気づいた。


「直しましょうか?」


俺は、裁縫ができないので彼女に頼もうとしたが、ふと「書き換え」を思い出して


「いや、俺が直す」


俺は、それを使い、服をもと通りにした。

 

ただ謎ができた


(それにしても、何で、服がこんなことに……)


 その謎は、すぐに解けた。そして思わず


「あっ!」


と思わず声が出た。


(さっきの、つつかれてたんじゃない。俺はナイフで刺されてたんだ)


さっきの不審者はナイフを持っていた。

しかし自動調整が働き、防御力が上がったから、

ナイフは俺の体を貫かなかった。

 

 それがわかると、俺は恐怖に襲われた。

もしこの体じゃなければ死んでいたのだから、恐怖が後から、ジワリとやって来た。


 ただ「ハダリー」が目を開けたときの方が怖かった気もする。

まあ自分の死体を見たとき恐怖には、はるかに及ばない。


 さて俺が恐怖を感じていると


《マスター……》


とクラウが声をかけてきて、


「なんだ?」


と返答すると、少しの間があり


《すいません!私としたことが、まさか寝てしまうなんて、

その所為で、マスターが》


その後、彼女は、自分が起きていれば、

危機を伝えることができたかもしれないからと、

申し訳なさげに《すいません》を連呼し、ひたすら平謝り。

実際は服に穴が開いただけで、怪我はないし、その穴だってふさがっている。

「ハダリー」も無事で、刺されていた事への恐怖は感じたが、

彼女の謝罪を聞くうちの、それも吹き飛んでいて、

要は被害がほとんどないわけだから、

こっちが申し訳ないように感じた。


「怪我はしてないし、『ハダリー』も無事だし、それにお前のおかげで

アイツを追い払えたんだし」


 俺は、剣でアイツを追い払った。しかし俺は、この体になって、魔法や、

スキルは手に入れたが、体術や剣術いった、

この世界では「アーツ」と呼ぶものは習得していない。

つまり、俺は剣に関しては、この時すでに低級魔獣を相手にしたことはあるものの、

まだまだ素人。そんな俺が、手際よく剣をふるえたのは、

クラウの持つスキル「習得」のおかげだ。


スキル「習得」

相手の技を見る、あるいは受ける事で、自分の物にしてしまうスキル

これが武器に付与している場合。歴代の持ち主の技だけではなく、

戦闘力と、更にこれまで受けた技を記憶し、使い手にフィードバックするが、

人が保有している時とは異なり

その武器に関わるもの、剣の場合は剣術と、それに関わるものと言う縛りがある。


 今回、素人の俺が不審者の動きを分析し、尚且つ、手際よく対処できたのは、

このスキルおかげである。そしてあの時、前の持ち主の動きが急によくなったのも、

これが関わっている。


 もっとも現時点では使える技は少なく、戦いを重ねて、

スキルを成長させる必要があるが、俺としては十分である。


「だから気にしなくていいんだ」


と俺は、クラウを慰めた。


《マスター……》


クラウは、涙声であったが、どこかうれしそうだった。


「それより、これからだ」


 これからどうするか、結局のところ、雨宮を頼るしかないわけで、

時間も丁度よかったので、「ハダリー」を連れてinterwineに向かった。

それと出かけ際、鍵がこじ開けられている事に気づき、

「書き換え」で鍵を強化しておいた。

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