2「自動人形」

少し経った後、俺は「interwine」の食堂にいた。早朝で、店を開けてないのと、

宿泊客はまだ寝ているから、居るのは俺と雨宮だけ。

キッチンの方には、例のリュックサックが置いてある。


それと、ここは魔法で防音は完璧だから、早朝に話をしていても、

例えドンチャン騒ぎをしたって、客には迷惑は掛からない。


「大丈夫か」


と雨宮は心配そうに声をかけながら、コップ一杯の水をくれた


「大丈夫、腰も治ってるし……水ありがと」


そういって俺は、水を飲んだ。なお腰が抜けたことに対し「修復」は働いていない。


「なら良いんだが、随分取り乱してたぞ」


あの後の事は混乱していて、雨宮がやってきて、俺を介抱してくれたことと、

「interwine」まで、しかも腰が抜けていたから、

おぶって連れてきてもらった事しか覚えていない。

あと雨宮は、俺の悲鳴を聞きつけてやって来たそうだ。


「だって、死体が、目を開けたんだぞ。もうびっくりして、訳わかんなくなって」

「そういや、お前、ホラー映画で、その手のシーンは苦手だよな。」

「そうそう、つーか現実に見たのは初めてだ」

「高校の頃は、久美絡みでもっとえげつないものを見て来たけどな。

おかげで慣れっこだろ」

「でも、怖いものは、怖いんだよ」


 昔から、ホラー映画とかの、死体が目をかっと見開き、

起き上がってくるシーンは苦手だ。

理由を聞かれると、返答に困るが、なんとなくと言うか、生理的にと言うか。

とにかく怖くて仕方ない。たとえ、あれ以上のものを見て来て慣れていたとしても、

強大な力を持っていても怖いものは、怖い。


「あの子、何だったんだろ。やっぱりゾンビ的な奴か」

「さあ、俺はお前の方が気になって、ちゃんと確認してないから」


 ちなみに暴走する馬車を止めたのは、雨宮である。

この国の警察に相当する「衛兵」が来るまで現場にいるつもりだったが、

俺が取り乱していたから、落ち着いた場所で休ませるために、

市場の人に後を任せて、店まで連れて来たとの事。


「だいぶ落ち着いたみたいだから、俺、少し市場の様子を見てくる。

お前は、ここでゆっくり休んでろ」

「ありがと……あ~ついでに、例の女の子も見てきてくれるか。

なんか気になるから」

「確認しとく」


 この時、ふと思ったことがあった


(前みたいにならなくてよかったな……)


 前の、そう自分の死体を見た時の事。あの後、何があったかは分からないが、

もしかしたらクレーターを作っていたかもしれない。それをこの街でやらなくて

よかったと。まあ、前よりかはショックが少ないし、能力も抑えているし、

それ以前に、あのクレーターを俺が作ったかどうかは分からなかったのであるが


そして雨宮が入口の方に行こうとした次の瞬間、入口の扉が開く音がした。


「客か?」

「まだ早すぎる。誰だろ?」


雨宮は、入口の方を向く。


「!」


そこに現れたのは、例の少女だった。


「わわわわわ!」


思わず、声を上げ、取り乱しそうになる。


「落ち着け和樹」


と雨宮は言いつつ、俺をかばうように、少女と俺の間に立った。


そして何かに気づいたように


「この顔は、まさか……」


雨宮は相手に手をかざすと


「サーチ……」


と呟く。これは解析魔法だ。たぶん、少女が何者か探ろうとしたんだろう。


この時、エール語については雨宮から聞いて知っている。

あとエール語は、「翻訳」は作用しているが、すべてが固有名詞扱いらしく、

文字を見た時に読み方がカタカナで表示される。


 魔法を使い、少しの間、少女と対峙していた雨宮が、


「やっぱり、マジックドールか、しかも自動人形オートマトン


と言った。何のことか、わからなかった俺は


「なんだそりゃ?」


と聞いたが、雨宮は答えず。


「もしかすると……」


すると、雨宮は体を避けて、少女と俺を対面させる形にした。


「雨宮……」


雨宮の行動に不安になった俺が声をかけると、雨宮は自信ありげに


「大丈夫」


と一言、本当に大丈夫な気がしたが、それでも少女が、

少しずつ近づいてくると不安を感じ、俺が雨宮の方を向くと、すると再び


「大丈夫」


再度自信ありげな一言、そして少女がすぐそばまで来ると、突然、跪き、


「お名前を……」


と初めて声を発した。そして雨宮は


「やっぱり」


と一言


「どういうことだ雨宮?」

「この子は、お前を主人と認識してる」

「はぁ?」


 ここで雨宮は、自動人形の説明を始めた。


「マジックドール」

魔法で動く人形全般を指す言葉


自動人形オートマトン

マジックドールの中で、魔法の力を宿した石、「魔法石」を動力とし高い知能を持ち

自律行動ができる存在。使用に適した魔法石は希少で、職人も少ないので、

現存する自動人形は少ない。

現在確認されている自動人形の殆どは女性型で、

尚且つ人間そっくりな外観をしているので魔法を使わないと、分からない。


いわば魔法の力で動くアンドロイド、女性だからガイノイドか。


なおマジックドールには「ハダリー顔」と言われ、

広く使用されている顔があるので、

それで雨宮は少女がマジックドールではないかと思ったとの事。


 ちなみに、俺的には、彼女の容貌は可愛らしくはあったが

特徴的な物を感じることはなかった。それと表情が乏しい。


 そして自動人形は、感知スキルを持っていて、

どこにいても主人の居所が分かるという。その為、ここに来ることができたとの事。


「でも、なんで俺が主人なんだ?」

「正確には、仮なんだけどな。自動人形は、初回起動時に、主人の登録を行う、

やり方は、どれも同じで、自動人形に自分の顔を見せ、

声の登録も兼ねて名前を言うんだが、必ずしも本名を言う必要はないし、

名前以外の言葉でもいいそうだ」

「つまり、この子が目を開けた時に、俺の顔を見て、悲鳴を聞いたからか?」

「そういう事だ。ただ自動人形が、言葉を名前と認識できない場合は、

仮登録って扱いなる。悲鳴は当然、名前と認識できないよな」

「だから、仮か」

「あと本名でも、奇抜な名前は、認識されないことがあるらしい」


ちなみに、奇抜と言うのは、あくまでもファンタテーラ基準なので、

俺たちが聞いても奇抜と感じる物もあれば、中には、

日本人にとって馴染みのある名前でも、奇抜とされるものもある。


「それで、俺が仮の主人だとして、この後どうすれば?」

「ちゃんと名前を言って登録を完了する。そうじゃないと、

この子は、お前に付き纏って、名前を聞く事しかしない」

「なんか怖いな」


名前を言えばいいだけだから、なんて事はない、だが気になることが


「いいのかなぁ、勝手に、登録しても、だって……なんつーか、この子……」


 うまく言葉が出てこなかった。どう表現すればいいか分からないのだ。

とにかく言いたいのは勝手なことしていいのかという事で

 

雨宮は、察したように


「登録は、俺が直ぐに解除する。彼女を勝手に引き取るわけにはいかないからな。

でも登録を完了しないと、解除もできないし、それに……」


雨宮は、彼女を一瞥しつつ


「棺桶に入れて、ご丁寧に死装束まで着せて運ぶなんて普通とは思えない。

何かある」


何だか厄介ごとの気配を感じた。だからさっさと、彼女に名前を教えた。


「カズキ様ですね。登録いたします」。


 次の瞬間、


「グ……」


胸に何かが突き刺さったような痛み。次に胸から何かが引き抜かれた感じと痛みの

消滅、今更に体が温かいものに包まれるような、何かと混ざり合うような感じ、

クラウの時以来の強制契約からの契約返し、その相手は言うと


「どうした和樹?」


心配そうに声をかける雨宮、一方彼女は


「登録が完了しました。以後、ご主人様と呼ばせていただきます」


と感情のこもらない淡々とした口調で言った。


 俺は、雨宮の声掛けに、反射的に


「胸がすこし、でももう大丈夫」

「胸……まさか!」


雨宮は、彼女に再び「サーチ」を使う。

たださっき使ったのとは少し感じが違って見えた。


「やっぱり……」

「どうした?」

「『契約』してる。これじゃ解除は無理だ……」


 契約したのは、この自動人形。この時点では契約の内容は不明

俺が契約スキルを持っていることを知らない雨宮は、

この後、「契約」について説明した。


 「契約」の事は知ってはいたが、面倒だから知らないことにして話を聞いた。


 ただ初耳だった事として「契約」スキルは「サーチ」ではわかりにくく、

また「契約」してるかどうか知るにも、少しコツがいるとの事。

それと受け身型「契約」を知ったのもこの時。



 なお雨宮は、俺が「翻訳」スキルを持っていることしか知らない。

スキル関係については、言いそびれていたが、俺が書いた宿帳の文字から、

俺が「翻訳」スキルを持っていることに気づいた。

雨宮曰く「翻訳」スキル持ちが書いた文字から発せられる独特の力を

感じ取ったとの事。


 ただ、これまで文字で、何か言われたことはないので、

おそらく雨宮のような大魔導士じゃないと分からないと思われる。


「『契約』スキルを持つ自動人形はただ一つ……」


そして雨宮は、少女に


「君の名前は?」


と聞く、少女は


「よろしいですか?ご主人様」


 俺に確認を取る


「いいけど……」


隠すことでもないし、それに俺も少女の名前は知らないから、

俺自身も聞きたいという事も含め許可を出した。


「私の名前はハダリーといいます」

「やっぱり……」

「『ハダリー顔』で名前も『ハダリー』?」


その名前を聞いて、俺の個人的な事であるが、

あまり少女に似合ってないような気がした。それと


「そう言えば、聞き覚えのある名前だな」

「未来のイヴ」

「それって確か、昔、大十字が読んでた本だよな」


 なお彼女は、この本の読書感想文で賞を取ったこともある。

内容は、大十字から軽く聞いてた程度だから、覚えてないが、

ただ「ハダリー」と言う人造人間が出てきたのは覚えている。


(『未来のイヴ』……イヴ……こっちの名前の方が少女に似合うような……)


 そして雨宮は


「まあ作った職人が異界人らしいから元ネタなんだろうが」


と前を置きし


「この世界での『ハダリー』は、500年前に作られた有名な自動人形で、

故に後世の職人の多くが、彼女を模したマジックドール、自動人形を作るほどだ」。


 つまりは、「ハダリー顔」のオリジナルと言う事。

なおこの世界では、人形には肖像権はないとの事


「そして唯一、『契約』スキルを持ってると言われている。受け身型だが、

強制だけなんだ。一年前に亡くなったカドレリオン公が所有していたって

噂を聞いたことがあるが……」


 その有名な自動人形が、どういう訳か死体に偽装されて運ばれていた

と言う事になる。どうも犯罪の匂いがかなりする。

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