4「話は弾む」
雨宮は、俺の姿、まじまじと見ながら
「それにしても、一体何があったんだ。それにその姿、どうして女性に……」
「俺も、訳が分かんなくて、数週間前に街で久しぶりに大十字を見かけて、
声をかけたと思ったら、突然、異世界に飛ばされて、蜘蛛の化け物に襲われて、
それで、ミズキ、確か、ミズキ・ラジエルって女に助けてもらったんだけど、
コイツがとんだ食わせ者で、確か暗黒神官とか言ってたな、
とにかく、コイツに一服盛られて眠らされ、気づいたらこんな体になって、
どうにか逃げだして……」
「眠らされ」以降の部分は、正しくはないが、暗黒神絡みの事は、
話すとややこしくなるような気がしたのと、
大十字の力を時の様に受け入れてくれるかどうかわからないで、
その事は伏せて誤魔化すことにした。
ただし、あの女の所為でこうなったのは紛れもなく真実である。
それと女性じゃなく両性具有になっていることは、
隠すつもりはなかったが言いそびれた。
「ミズキって奴は暗黒教団の一員だろう」
「暗黒教団」
暗黒神を崇拝する教団の一つで、500年前に封印された暗黒神復活と
その意志の名の下に、悪事を働く過激派のカルト集団
「ちなみに、暗黒神ってのは……」
「それは知ってる。」
「そうか、しかし、奴らは、お前を性転換させて何がしたかったんだ?」
と雨宮は、首を傾げ、訳が分からないって様子だ。
俺が、きちんと話していないからであるが、雨宮は俺自身が女性になったんだと
思っている。実際は別人と体が入れ替わっていたわけだか
何でこんな事になったのかは俺も分からない。
「ともかく災難だったな。しかし無事でよかった」
俺の体の事については話題がここまでで、
この後は、俺が雨宮に聞いてみたいことがあったので、それを訪ねる。
「こっちも、聞いていいか?」
「ああ」
「ショウ・クロニクルって、お前の事だよな?」
「まあな」
「どうして、違う苗字を名乗ってるんだ」
「今でこそ、俺が異界人だって知られてるけど、こっちに来たばかりの頃は、
その事を隠さなきゃいけなくてな、異界人の中には、特異な力を持つ奴が多くて、
狙われやすいから」。
実際、俺は狙われた。ただ異界人だからと言うよりかは、
俺が桁違いの魔力を持っていたからというものだったが
「お前も、狙われないために、名前、最低でも苗字は変えておいた方がいいぞ。
なんせ日本の苗字は、この世界じゃ珍しいから」
ちなみに、「クロニクル」と言う苗字は、雨宮の師匠がつけたものとの事。
その後、俺たちはいろんな話をした。
雨宮がいなくなってからの十五年間の事とか、
アイツがこの世界に来てからの事とか、
「ここに来る前に、お前の偉業、聞いたぜ。随分とご活躍だそうで」
「その手の話は、良くも悪くも盛られてるから、あまり真に受けるなよ」
との事だが、こっちに来てからそれなりに活躍していたのは間違いないらしい
とにかく十五年ぶりの再会だったから話は弾んだ。
そんな中、もっとも驚いたことがあった。
「実は、この世界と、元居た世界の時間の流れは違うらしいんだ」。
これは、過去に会ってきた異界人からの話から分かった事らしい。
「しかも一定していない。今は、一緒みたいだけど、
数年前までは、向こうの世界がゆっくりと言うか、こっちが早いというか」
「なんだか浦島太郎みたいだな。逆っぽいけど、
つーかこっちじゃ何年たってるんだ?」
「驚くなよ」
と雨宮が前置きしつつ、右手を開き、手のひらをこっち見せて、
五を差し示すような仕草をしながら
「五十年」
「そんなに……」
最初は、少し、驚いた程度であったが、その直後、疑問が沸き上がってきて
「ちょっと待て、五十年ってことは、お前、何歳だ?」
雨宮は、ごく普通に、さりげない言い方で答えた
「今年で六十七かな」
「ええええええええええええええええええええええええええええ!」
思わず、大声をあげてしまった。
「どう見ても、二十代、つーか俺より年下に見えるぞ」
「いや……俺にはお前の方が年下に見えるぞ。どうみても十代後半だろ」
言われてみれば、俺も見た目が変わって、しかも若返っている。
しかし、雨宮の、あの見た目で六十七歳っては、聞いた時は信じられなかった。
ただ、あまりにも、さりげない言い方だから、
嘘を言ってるようにも思えなかったが。
「大魔導士は齢を取らないんだよ。俺は二十五歳で大魔導士になったから、
それ以来、齢を取っていない」
後で、思えば俺の「契約」の事があるから、
雨宮の様に齢を取らない人間がいても、おかしい事じゃない。
それと後に知る事だが、不老の魔法は存在しない。
でも様々な要因で結果として不老になることはある。
雨宮の場合は魔法の大量習得による不老化との事。そして不老になるほど、
多くの魔法を習得した者は、国から大魔導士と言う称号がおくられる。
なお、大魔導士になるには、それなりに才能がないといけない上、かなりの年月が必要。数少ない大魔導士の殆どは老人。
雨宮の様に若くしてなった者は、輪をかけて少ない。
しかし、この時は、そんなことは知らないし、「契約」の事も忘れていたので、
半信半疑。
「まあ、年齢の事は置いておいて、これから、お前、どうするんだ」
「とりあえず、この街で、暮らそうかなって思って」
「そうか、こっちに来て、日が浅そうだから、色々大変だろ。手伝うよ」
「ありがとう」
この後も雨宮と色々話をして、最後に
「どうして、俺の事を、母さんだと思ったんだ?」
「それは、昔、写真で見た高校時代の一美さんにそっくりだから」。
雨宮に言われて、気が付いた。どこかで見た顔だと思ったら、
若い頃の母さんだったのだ。
「考えてみれば当然か」
「何が?」
「お前、母親似だろ。特に高校時代の一美さんは、お前を女にしたような顔だった」
「なるほど、俺が女になれば、母さんの顔になるわけだ」
ここで、少し気になることができ、雨宮が去った後、その事をふと考えた。
(この体は、俺の体じゃないんだよな、でもこの体の主、クラウの創造主は、
偶然にも俺の母親にそっくりだった。そんな事あるのか……)
そのおかげで、雨宮と話すきっかけができたわけだが、
妙に出来すぎている様な気がした。
「まあいっか」
その日は、夜も遅く、眠くなってきたのと、
そもそも考えるのが面倒に思えたので、それ以上は考えることはなかった。
真実を知るのは、少し後になってからの事だ。
一か月と少し後、夜遅く、客が少なくなった「interwine」に
その女性は、現れた。応対した雨宮ショウは
「どうしたんですか、ジャンヌさん」
やって来たのはジャンヌ・クルセイド
「相変わらず敬語ね。もう永い付き合いなのに」
と愚痴を漏らしつつも、真顔になって、ショウをじっと見つめながら
「あなたに話があるの、お友達の事で」。
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