第4話「出会いと再会」

1「再会への手がかり」

 クラウとの出会いから数日、相変わらず俺の住居探しが続いていて、

そんな中、とある乗合馬車で一緒になった旅人がいた。この人物は饒舌で、

向こうから話しかけてきた上に、聞いてもない事をベラベラと話した。


 内容は、旅人がこれまで訪れた旅先での出来事を中心に、

そこから派生した雑談と言った感じ、この世界に来たばかりだから、

最初の内は興味があったが、そのうち飽きてきて聞き流すようになってきた。


そんな中、クロニクル卿なる人物の話を聞いた。


「そうそう、この前クロニクル卿の店に行って、

初めてビースオークの角煮を食ったんだけど、これがなかなか美味で……」


 話を聞くうちに、この人物が腕のいい料理人であることは分かった。

俺はこの話に興味を持った。美味い料理を出す店、

それが俺にとって必要な情報だったから。


 さて住居を探すうえで必要なのは何か。建物が状況かとか周囲の治安とか、

いろいろあるだろうが、今俺にとって重要なのは、

近くに美味い食事処があるか否かであった。


 「創造」の力は反則級だが、できない事もある。その一つが料理だ。

正確には作れないわけじゃない材料をそろえてレシピを知っていれば、

宝を補充するのと同じ要領で簡単に作れる。

 

 しかし試してみたところ、結果は失敗。見た目は酷いし味もまずい。

どうも俺自身の料理の腕が反映されているようだった。そう俺は料理は壊滅的。


 料理ができないなら、どこかで食事をするしかないという事。

なので美味い食事処がある町を探していた。

そう住居探しは、すなわち店探しでもあった。


 しかし、結果は芳しくなかった。行く店、行く店、

出される料理はどれも微妙な物ばかり、とにかく味付けが薄すぎるか濃すぎるか、

明らかに味付けが変なのもあった。

奮発して高級料理店で食事をしたがここでも同じ。


 しかし同じ料理を食べている他の客は、美味そうに食べているので、

微妙に感じてるのは俺だけらしい。


(もしかして、この世界の料理は、俺の口に合わないのだろうか)


 こっちに来てから、出てくる料理すべてが俺の口に合わないという状況が、

続いていると、そんな事を思ってしまう。

まあ食えないわけじゃない。しかし味を楽しめない。ただ腹が膨れるだけだ。

空腹は満たすが心は満たされない。これは結構苦痛だ。

その所為で食事の時が憂鬱になる。


(食事が楽しめた頃が懐かしいな……)


と食事のたびにそんな事を思い、食後はテンションがだだ下がりであった。


 しかし希望は捨ててはいなかった。どこかに俺の口に合う、

美味しい料理を出す店があるはず、そう思って、日々店探しを続けていた。


そして俺は、クロニクル卿なる人物のさらなる情報を得ようと、旅人に話を聞くが


「あんた知らないのか!」


と言って笑われた。その様子からは、この人物はかなりの有名人であることは、

想像がついた。


(悪かったな。別の世界から来たばかりで、

こっちの世界の事はほとんど知らねえんだよ)


と思いつつも、


「ああ、知らないんだよ。教えてくれ」


 フルネームはショウ・クロニクル、この名前には聞き覚えがあった。

そうあの時、ミズキが言っていた彼女の敵で、桁違いの魔力を持っている異界人。

最初に聞いた時は状況が状況だけに、何も感じなかったと言うか、

それどころではなかった。改めて話題に上がると、


(そう言えば、雨宮と同じ名だな、料理の腕もいいみたいだし偶然かな……)


と思った。


「クロニクル卿は、元異端審問官なんだが、この国を救った英雄の一人にして、

大魔導師。そしてすごく腕のいい料理人。お作りになる異界料理は、

味がめちゃくちゃうまい。どんな高級な料理よりも断然上!」


異界料理と言うのは、異界人によって伝えられた要は俺がいた世界の料理らしい。

この時点ではまだ口にしたことはない。


 この後、旅人はショウ・クロニクルなる人物が、どれだけ素晴らしいか、

長々と俺に話した。内容は、どこかのカルト集団を壊滅させたとか、

凶悪な魔獣を退治したとか、戦争を終結に導いたとか、自分のいた組織の不正を正したとか、中には明らかに盛られたようなものも多かったが、

ただこの人物が、いかにすごいかは分かった。しかし俺が聞きたかったのは、


「アンタ、店に行ったことがあるって言ってたな。場所は?」


 あくまで店の事だった。


「ナアザの町の宿屋兼食事処で、確かこんな名前だ」


 そう言って、旅人は紙に文字を書き始めた


「異世界の文字らしいぞ。なんて呼ぶんだろうな」


 紙には、英語が書かれていた。後に知ることになるが、この世界には、

日本語がそうであるように、英語と同じ読みの言葉はある。

それはエール語と呼ばれ、魔法と名前に使われるが文字は異なる。


(interwine……!)


 それが書かれていた言葉それを知った時、俺の中で衝撃が走った。

「interwine」と言うのは雨宮の親がやっている食堂の店名だ。


 その後旅人からは、この店の場所、営業時間、

ナアザの町への行き方などを聞き、町に着くと旅人とは別れた。

 

 「interwine」と言うのは英語で「結び付く」と言う意味がある。

この言葉が、文字通り結びつけてしまった。異界人、俺と同じ世界の人間で、

名前、異界料理、ここまでは偶然だろうと思っていたが、最後に店名が来て、

そうは思えなくなった。根拠としては薄いと言われるかもしれないが、

俺としては雨宮ショウとショウ・クロニクルが同一人物では、

と言う思いに駆られていた。


 町に着いた俺は、直ぐにナアザの町に向かいたかったが、

そっちの方面に向かう馬車は、今日は出ていなかったので、

一日、足止めを食らい出発は翌日の午前となった。


 ちなみに俺が町から町の移動に使うのは、長距離の乗合馬車で、

馬車としては大人数が乗れるキャラバンと呼ばれるタイプで、

時刻表に沿って運行され乗車賃も安いが、しょっちゅう遅れるので、

あってないような物。あと飛行魔法など移動系の魔法持っているが、

例によって忘れていた。


 しかし、馬車の旅と言うのも悪くなかった。空調は完備されているし、

あまり揺れない。もちろんこれらは、魔法の恩恵によるものだが、

この時の俺は、その事にまだ気づいていなかった。


 ナアザの町に向かうには、何度か馬車を乗り換える必要があったが、

直ぐに次の馬車に乗り換えることが出来ず、何度か足止めをくらい、

最後の経由地まで1週間ほど掛かった。


 到着して、1日ほど足止めとなったが、ここからは、馬車じゃない。汽車である。


 この町に来る途中の馬車で、この間とは別の旅人から聞いた話であるが

鉄道が開通したのは、最近らしい。

更に汽車は、異界人の技術で作られているとの事。

 

 あと運賃はと言うと、ここ数週間暮らしてきて、

わかってきた物価から鑑みてお高め。ただ、このまま馬車だと、

更に数回乗り換えが必要で、さらに1週間ほどかかるが汽車だと半日。

 

 1日の足止めがあるとはいえ、馬車よりはるかに早いのだから、

そっちの方がいい。幸いな事に、お金の心配はない。


 駅は、大理石ってやつだろうか、町にある他の石造りの建物よりも立派で、

あと物珍しさから来る見物客らしき人だかりができていた。

そこで、時刻の確認と切符を買った。

 

 本当は、汽車に乗りたかったが。その日はもう汽車はなく、

結局、切符だけを買った。この時、1日足止めが確定した。


 それと、切符を買うと、汽車が物珍しいからか、

切符を買った俺まで見物客の注目の的になってしまったので、足早に駅を去った。


「さて、宿を探すか」


 とりあえず今宵の宿を探すことにした。

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