4「レアドロップ」
魔剣の処遇、まあ宝物庫に放り込んで置けばいいのかもしれないが、
中で何かしそうな気がして仕方なかった。
かといってこのまま持っておくのも言うまでもなく不安で、俺は悩んだ。
後で思えば、「絶対命令」で大人しくさせておけば良かったのだが、
この時は、そっちに考えが至らず、そして思いついたのは
(そうだ、『書き換え』を使うか)
「書き換え」
「創造」スキルの一部で、既に存在しているものに、手を加えるスキルで
力を与えたり、逆に奪うこともできる。
これを使って、魔剣の危険な部分を取り除く。
《お前、何をする気だ……》
書き換えの準備をしていると、魔剣が声をかけた。まあ準備と言っても、
床に魔剣を置き、俺も床に胡坐をかいて右手を剣にあてただけ、これで準備完了。
そして俺は「書き換え」を行う。その際に魔剣の情報が頭に入ってきて、
その情報から、質量の自由変更の事を思い出したのもこの時。
更に情報から、魔剣の凄さが分かり興味をひかれる部分もあったが、
同時に危険性も分かった。
(大十字の言ってた呪いの武器そのものだな)
この剣は手にしたら最後、人切りを重ねた挙句最後は、魔剣によって身を亡ぼす。正に典型的な魔剣とか妖刀の類。
そして原因は、魔剣の持つ複数のスキルにあった。
ここを「書き換え」で手を入れて危険性を取り除く
多くのスキルは、有益ではあった。中にはわずかに危険性も伴う物もあったが、
スキル自体に軽く手を入れることができたので、書き換え危険性を取り除いた。
ただ本当に危険なスキルは、それができないのでスキル自体を除去するしかない。
しかし、これは剣が不死になっている影響で単純に除去することはできなかった。
除去するには、別のスキルに置き換えなければいけなかった。
候補となるスキルは沢山ある。
「付加スキル」
「創造」又は「書き換え」の際、対象に付加させる事で使用可能なスキルで、
それ自体「創造」で作られたもの。
あと置き換えも単純ではない。
対象と同等のものと置き換えなければいけないからだ。
魔剣には枠のようなものがあり、そこに合わせるようにスキルを当てはめていく、
ゲームにおけるカスタマイズの様なものだ。
これを便宜上ゲームに準えて、スキルポイント略してSPと名付ける。
ちなみにSPの増減は「契約」の影響によりできなくなっている。
あとSPの消費量は、各スキルによって異なる。
そして置き換えは一つのスキルにつき一つと言うわけではなく、
合算した消費量が同じならば、複数のスキルと置き換えることも可能。
しかし付加スキルの量は膨大で、どれを選ぶか悩まされたが、
ようやく、スキル二つほど決めた。その一つ「生体タンク」はSPの消費量が多く、これ一つで除去したいスキルを、二つを除き置き換えることができた。
その中の一つも幸運にも、このスキルとの連動によって危険性が失われ、
残る一つをもう一つのスキルと置き換える事で、書き換え完了。
あと「書き換え」を行っている間、魔剣が妙な声をあげるので、少し悶々とした。
作業完了後は宝物庫に放り込むだけだが、
《そういう事でしたか、やっと気づきました……》
突如、魔剣が声を発した。声は同じだったが凄みは消えていて、別人のようだ。
口調も変わり丁寧語で話し始める。
《これまでの無礼を、お詫びいたします。創造主さま……》
魔剣の情報の中に、俺が500年前に作ったという情報があった。
宝物庫とその所蔵物と同じ、もちろん身に覚えはない。
魔剣に、情報が入ってきたことを伝えたのち
「作成者は俺ってなってたけど。でも作った覚えはないぞ」
俺の答えに、魔剣は特に口調も変えることなく返答する
《それはそうでしょうね》
「どういうことだ?」
《正確には、あなたは創造主の力を持つ者と言うべきでしょうか。私は創造主の姿は覚えていませんが、その力と魂は覚えています。
先ほど、私に力をお使いになったことで、力の事が、わかりました。
ですが魂は別人です》。
情報によると、魔剣は嘘をつけない。もっとも隠し事はできるから、
結果相手を貶めることはできるが。
「でも、何で俺が作ったってことになるんだ?」
《私の持つ情報には創造主の魂について載っていません。
私が個人的に記憶していただけです。
おそらく力を持つ者、それすなわち本人と認識しているのではないでしょうか》
つまり、これまで俺が作ったとされていた物は、この体の、
前の持ち主が作ったって事だ。
まあ考えてみれば体が入れ替わっているのだから、そういう事になる。
ここで少し気になったことを聞いた。
「つーか、お前、さっきまでと別人みたいだな」
《当然です。創造主さまと分かった以上、あのような無礼な物言いは致しません。
これが私の本当の話し方です》
今の話し方がコイツの素で、あの話し方は演技という事らしい。
ここで、更に気になったことを聞くことに、
いやもっと早く聞くべき重要な事だろうが、
思いついたのがこの時なのだから仕方ない。
「お前の創造主って暗黒神か?」
しかし帰ってきた答えはと言うと、
《そういわれたこともありますね。でも私は創造主が何者か知りません。
ただ私たち七魔装を作り、いろいろ教えてはくれましたが、
自身の事は何も教えてくれませんでした。あと気持ちの悪い魂の持ち主でしたね》。
何気に悪口をいっているようだが魔剣の言う、創造主が何者かは不明、
従って俺の体が暗黒神であるかも確定ではない。まあ暗黒神だからって、
何かあるわけじゃないんだが、
普段から忘れがちになってるくらいだし、そもそも神を名乗るつもりはない。
《それより、私はどうなるのでしょうか?》
「取り合えず、宝物庫に仕舞っておくつもりだが」
《宝物庫……それはどういう……》
魔剣は心配そうな声になっている。俺は無限宝物庫について説明し、
そこに仕舞っておくおくことを伝えた。
すると魔剣は、嘆願するかのように必死で涙声が混ざるような声で、
《お願いです!どうか、どうか、お側にいさせてください!》
「ちょっと」
その必死さに、ちょっと、たじろいでしまう。
《この時をずっと待っていたのです。お願いです。創造主さま》
「さっきからずっと創造主さまって言ってるけど、わかってるだろ俺は、
お前の本当の創造主じゃないって……」
《それでもいいんです。私が求めるのは創造主の力を持つ者ですから、それに……》
少し間があり
《私が貴方様を使い手に選んだのは、強さだけじゃありません。
あなたの魂が心地よかったからです》
同じことを大十字から言われたことがある。
彼女は超能力で「魂の波長」を感じることができる。
それは人の本質を映し出すものらしい
そして共感能力で彼女を通して、その波長を俺自身も感じたことがあった。
しかし俺自身の波長は、大十字が感じているにも係わらず、
俺自身は何も感じなかった。どうも自分の波長は自分ではわからないらしい。
大十字が言うには、
「あなたの魂は心地いいわね。良すぎて、ダメになっちゃうくらい」
との事、大十字を通して感じた雨宮も同意見だった。
もっとも雨宮は「ダメ」とは言わなかったが、
そして大十字曰く、褒めているとの事。
(そういえば、さっきも『力だけじゃない』とか言ってたな)
さらに、魔剣は身の上話のようなものまで始めた。
《私の前に現れる強者は、気持ちの悪い魂の持ち主ばかり。
でも私は武器、故に強者を選ばねばなりません。心地いい魂を持つのは弱者ばかり、
あなたが初めてなんです。強くて心地いい魂を持つ御方は。
しかも創造主の力を持っている。
これほど私の主人に相応しい御方は他にはいません!》
俺は大十字を通していろんな人間の魂の波長を感じてきたが、
中には気持ち悪いとしか表現できないものがあった。
それは筋金入りのワルの魂だった。正に人の本質を映し出す。
そして特に、ミズキを見ていて思い出したアイツ、
ミズキと同じく生贄と称して俺を殺そうとしたアイツ、奴の魂は特にどす黒くて、
気持ち悪く、思わず吐くほどだった。
後で知るが、魔剣を含めた七魔装の歴代の使い手は悪人ばかり、
後に聞いた話では、俺を襲ったあの男もお尋ね者で、
どうも剣を手に入れる以前から、悪事を重ねていたようである。
《必ず、お役に立ちます!どうか……どうか……》
こういう頼まれ方をされるとどうも心が揺らぐ。
それにコイツが嘘をついていないことが分かっているから、なおさらだ。
まあ危ない部分は除去したから、コイツに不信感はもうない。
あと役に立つのも事実だ。
だから魔剣に根負けしたわけじゃない。
「わかった。お前の言う通り、そばに置いておいてやる」
《ありがとうございます。誠心誠意、あなたにお仕えいたします》
「だけど……」
《?》
ただコイツをこのまま持ち歩くには、まだ問題があった。
だから俺はさらなる「書き換え」を行った。
翌日、女将さんは元気になっていた。そして俺が鍵を預け出かけようとすると、
「ちょっとその剣……」
と声をかけてきた。なんて言われるか気になったが、
「なかなか、良い剣だね。前の剣は?」
「売りました、その金で、この剣を買ったんです」
「そうかい、良い買い物したね。大事にするんだよ」
宿を出ると、
《同じ剣だと気づいてませんでしたね》
(そりゃそうだ。見た目が変わっているんだから)
あれから「書き換え」で、剣の見た目を、変化させていた。鍔の色を銀色に変え、形もコウモリの羽から、鳥の羽のような形に変え、あと宝石のような装飾を加える。
刀身の柄は消しておいた。イメージとしては、何かのゲームで見た聖剣。
「書き換え」によるデザイン変更は、以前に服で試していたものの、
その時はうまくいかなかった。今回はうまくいっただけではなく、
意外と楽に終わった。あとSPの消費もなし。
ちなみに、鞘はかなり地味なデザインだったんので、特に変更はしなかった。
それと「ダーインスレイブ」の名は、広く知られているとの事だが、
悪名であることは間違いないのと、新しい見た目と会わない気がしたので、
新しい名前を与えることにした。
「今日からお前の名は、クラウ・ソラスだ。クラウと呼ばしてもらうぞ」
《いい名前ですね、気に入りました》
クラウ・ソラスとは、アイルランドの民話に出てくる光の剣。
聖剣として描かれることの多い剣だ。ちなみに、ゲームとかで聖剣と聞くと、
アーサー王のエクスカリバーとこれしか思いつかない。
名前を付けるとき、この二つで迷って、結局この名前になった。
その後、また道に迷って、ちょうどあの男と会った場所を通りかかった。
まだ昨日の事なのに、もう何日も前の様な気がした。
《ここで私たちは、出会った。こういうのを運命と言うのでしょうね》
「俺には、あまりいい出会いじゃなかったがな」
《……》
彼女は黙り込んだ。気まずそうな雰囲気はひしひしと伝わってくる
(運命ねえ……)
彼女には一つだけ、自身も知らないとされるスキルがあった。
「引寄せ」
自動発動型スキル、創造主の存在を感知すると、周囲の状況を操る事で創造主の元に引寄せられてしまう。
彼女自身は俺が、この体が創造主であることは「書き換え」を行うまで、
気づいていないようだったが、無意識に気づいていて、
俺の元に引き寄せられてきたんじゃないだろうか、
つまりこの出会いは必然だったことになる。
まあ、俺にはそんなことは関係なく、
(ゲームで言うところのドロップアイテムを拾ったみたい感じだよな。
実際に敵が倒れて、落とした武器を手に入れたのだから、
最初は呪われた武器だったけど、今はレアアイテムかな)
そんな事を考えていた。
この後、クラウとは長い付き合いとなる。
そうRPGの初期装備以外で、最初に手に入れた武器の様に。
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