3「契約」

 今後の方針が決まったところで、ちょうど日が陰り始め、更に空腹感がしたので、

夕食を食べに出かけるとした。最初、魔剣は置いていこうと思ったが


(どうせ付いて来るな)


 そう思ったのと、それに出かける時と帰ってきた時に、宿の鍵を受け渡しで、

女将さんと顔を合わせることになる。あの人は剣の事を気にかけていたから、

行きは剣を持ってないのに、帰りは剣を持っていると、妙な疑いをもたれかねない。だから持っていくことにした。実際、出かけ際に


「その剣は早く捨てた方がいいよ」


とまた言われた。ただ


「女将さん、どうかしたんですか?」


彼女は、顔色が悪かった。その所為か、さっきの言葉が怖く感じた。


「ちょっと気分がね」

「大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫、大丈夫……」

「なら良いんですけど……」


少し気にはなったが、鍵を預け、俺は出かけた。


 その後、食事処で腹を満たした後、宿に帰る途中、人だかりができていた。

通り道だったのと、好奇心もあって、近寄って様子を見た。

どうやら人が倒れていて、数人が介抱し、更に野次馬が集まっているという感じ。

最初は人の影に隠れて倒れている人間の顔は分からなかったが、

その後、人が移動した事で、倒れている人の顔が分かった瞬間。


「!」


思わず、声を上げそうになった。魔剣で俺を襲ってきた男だったからだ。

そして俺はすぐに、その場を離れた。あの男と目があったような気がして、

怖くなったからだ。


 宿に向かいしばらく歩いた後、突然


《奴は死んだ》


魔剣が口を開いた。まあ口はないが、その言い方は、妙に事務的に感じた。

すでに見限っていたと言え随分とあっさりしているように思えた。

コイツにとって使い手は乗り物に過ぎないのだろう。

しかも乗り捨て限定。後に知るが男は衰弱死だったそうだが、

魔剣の影響は間違いない。


《いつもとは違うが、これでお前が我が使い手だ!》


 次の瞬間、胸に何かが突き刺さったような痛みがした。


「グ……」


だがすぐに、今度は胸から何かが引き抜かれた感じがして痛みが消え、

今度は体が温かいものに包まれるような、何かと混ざり合うような感覚。

それは


「契約……」


すると、向こうも驚いたような声をあげる。


《契約返しだと、バカな》


 何が起きたかは、後述するとして、ただ一つ言えることは、

魔剣が破壊できなくなったという事である。


 宿に戻ると、女将さんの姿はなく、代わりに、娘さんが代わりに店番をしていた。俺が出かけた直後、調子を崩したらしい。大丈夫なのか聞くと、大事ではなく、

疲れているだけらしく、今は部屋で休んでいるとの事。

俺は、鍵をもらって部屋に戻り、今後の対策を考えることにした。


「また振り出しだ」。


 スキル「契約」

主従関係を構築する力。ただ一方的なものではなく、こちらが何かを与え、

見返りとして、従者となってもらうと言う物。基本的に相手との合意が必要。

そして一度結んだら最後、解除は不可能。


 「契約」の対象は明確な意思を持つものなら人以外でも使える。

あと発動させる際は、キスが必要で、基本は唇、相手によっては体のどこか。


 「契約」は俺の固有のものではなく、加えて魔法としても存在しているため、

使える者は、人間やそれ以外を含めると少なからずいる。

この後、知るのだが魔剣もその一つ。


 あと与える物や従者としての在り方は人あるいは、物によって異なる。

ただ基本的には従者のほうが最終的に不利になるようになっている。

それと「契約」発動の際にキスが必要なのは共通しているが、一部例外がある。

その場合は代わりに何だかの動作、あるいは無動作で発動するとの事。


 それとこの時は知らなかったが「契約」スキルは基本的には、スキルを持つ者が、主人となるのだが、中にはスキル持ちの方が従者になり、

何かを得るという受け身型の「契約」スキルも存在する。


 俺の「契約」は、相手を強化させ、更に不老不死とし、

代償として俺に服従と言いたいところだが、実際は少し異なる。


スキル「絶対命令」

「契約」に付随するスキル。これを発動した状態で、下された命令に、

従者は逆らうことはできない。ただし物理的に実行不可能の命令は、無効となる。

なお命令の取り消しは出来ないが、上書きは可能。


 このスキルを使わない、例えば普通に口で言った命令には、

従う義務は持っていない。

 

 そして「契約」の解除は、たとえ主人で会っても不可能。

これが、俺を悩ませていた。なぜなら、俺の「契約」は相手を不老不死にする。

つまり魔剣を破壊は不可能になった。


(どうすりゃいいんだ……)


 これからの事で、頭を悩ませていた。


「待てよ?俺なんで、『契約』したんだ?」


契約しようとは思ってなかったし、同意だってないし、

その上、キスだってしていない。


 その後、少し考えて、思い当たった。


(強制契約……)


「強制契約」

「契約」スキルの一部であり、相手の同意なし「契約」を行う事。


 その発動方法は、相手の性別、あるいは生物か無生物によって異なる。

武器などは手にして念じるだけ、それと「創造」で生物を作った場合、

ランダムで創造生物と「強制契約」が行われる。


 しかし、それ以外の場合は共通で人として、

やってはいけない事をしなければいけないから、絶対に使いたくない。

しかし魔剣に対して、それをした覚えはない。


(そういえば……)


 ここで俺は魔剣が言っていた「契約返し」と言う言葉を思い出した。

この言葉の意味を聞こうとすると、頭に情報が入ってきた。


 「契約返し」

契約スキルを持つ者と「契約」または「強制契約」を行った際、

相手の力が強かった場合、「契約」を無効化されつつ、

逆に「強制契約」で返される。

ただし無効化とはいっても「契約」によって得られるものは、そのまま。


 俺的には、ただで報酬をもらえる上、こっちの「契約」を押し付けると言う感じ。

あと受け身の場合、相手が得るものが、追加されるとの事。


 魔剣が言っていた「使い手」になる事が「契約」だとして、

それに同意した覚えはないから


(もしかしてコイツ、俺に『強制契約』を仕掛けたのか。あっ……)


 「契約」の直前に感じた胸を刺されたような痛みを思い出した。

どうやらあれが強制契約らしい。この後に知ることになるが、

魔剣は強制契約しか出来ない。契約の内容は「魔剣の力を使用できる」というもの。

ちなみに契約せずとも、普通の剣としては使用できる。

代償は「他の七魔装と契約できなくなる」。


(そんな事よりも、これからだ……)


魔剣の処遇と言う問題が残されていた。

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