第2話 連絡してもらっていいですか?

ある日の日勤のことである。

日勤は夜勤よりやることがたくさんあり体力的にはきついが職員の数が多いため精神的には楽だ。

「昨日月9みた?私ドキドキしちゃった!」

出勤するとスタッフルームでパートのおばさんが仲の良い職員と昨日みたドラマの話で盛り上がっていた。


近くにいた主任の松永さんは何も言わず静かにパソコンのキーボードを叩いていた。

ここの職場ではたとえ上司であってもおばさんの方が地位が上なのだ。


圧倒的な女性社会だ。

自称世渡り上手な私は嫌な性格かもしれないが上司よりおばさんに媚を売るようにしてる。


この職場が私にそんなスキルを与えたのだ。

「河内さん。おはようございます!」

おばさんにあいさつし業務に入る。


現場には色々な人がいる。

職場内で不倫している人妻。

アニメオタク。

先日同僚にストーカーをして施設長に注意された人までいる。


そんな人達と仕事をしているともしかして自覚がないだけで自分もこの人達と同類なのではないか。と不安になる。


午前の業務が終わり午後から同期の水澤くんが出勤する時間になった。

だが時間が過ぎても水澤くんは職場には来なかった。

彼は遅刻癖がある。月に5回は遅刻する。

(またか。)

と思いながら上司に報告し携帯に電話をかけた。


出ない...。

3度電話をかけるが電話に出る気配はなかった。


仕方なく家の電話にかけると親が出た。

「すいません。水澤くん今日午後から出勤なのですがまだお家にいらっしゃいますか?」


すると水澤くんの親から驚くべき言葉が返ってきた。



「実は昨夜から家に帰ってこないんです。」


今朝、警察に捜索願を出したとのことだった。


(もしかして事故?何かに巻き込まれた?)

心配だったが役職もない私は現場に戻り仕事をすることしかできなかった。

結局私は彼の分まで働くため残業する事になった。



翌日、水澤くんが警察に保護されたと同僚からLINEで知らされた。

どうやら親と喧嘩して家出をしていたらしい。

家族も恥ずかしくてその事までは職場には言えなかったのだろう。



水澤くんは同期と言っても私のふたつ年上で27歳だ。

(いい歳して何をしているんだろう。)

と呆れてしまった。


彼はクビにはならなかった。

人手が少ないからなのか、こんな人でも居てくれるだけありがたいらしい。


保護された翌日、出勤すると水澤くんがいた。

彼は私に一言

「すいませんでした。」

それだけ言って仕事を始めた。

なんだかモヤモヤした気持ちになった。


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