ちょっと聞いてもらっていいですか?
@taso0227
第1話 ちょっとやめてもらっていいですか?
介護士を始めて8年目になる。
はじめはオムツ交換や入浴介助に抵抗があったけれど1ヶ月も経つとお昼休みでお弁当を食べながら利用者の排便状態について話せるほど慣れてきた。
私が介護士になったのはお年寄りが好きだったのと何より楽しそうだと思っていたからだ。
だけどその考えは入社して半年で見事に打ち砕かれた。
ある日の夜勤。
出勤しスタッフルームで記録をしている職員にあいさつをする。
「近藤くん。今日の夜勤は多分楽だよ。みんなぐっすり寝てるから。」
私と同期の山崎くん。
彼は普通に接するには良い奴なのだが仕事が雑だ。特にオムツのあてかたが汚く次に介助する職員が
「また漏れてるよ。山崎の後はいつもこれだ。」
と毎回愚痴をこぼすほどである。
「お疲れ。今日はゆっくりできそうでよかったよ。」
山崎は申し送りを終わらせ時計が退勤時間の22時を指すと急いで帰っていった。
彼はいつも出勤は遅いくせに退勤はめちゃくちゃ早い。
とりあえず夜勤者の最初の仕事である巡回を行う。
異常が無いことを確認し次の巡回の時間までスタッフルームで雑務をこなしながら時間をつぶす。
夜勤者は私の他に2名いる。
副主任の太田さんと先輩の村田さんだ。
今日の夜勤は男3人。気が楽だ。
女性がいると雑談が長いので疲れる。
雑務を終えると太田さんは
「ほら!夜も長いしこれでも食べなよ。」
私と田村さんにカップラーメンをくれた。
「ありがとうございます!」
すると村田さんも
「よかったらこれもどうぞ」
とシュークリームを出てきた。
ここの職場では強制ではないが夜勤者はそれぞれ食べ物を持ち寄ることになっているらしい。
何も持ってきていない私は申し訳なさそうにカップラーメンとシュークリームを食べる。
夜に食べるジャンクフードはなぜこんなに美味しいのだろう。
「ごちそうさまでした。」
一足先に食べ終わった太田さんはタバコを吸いに喫煙所へ行った。
私は村田さんと2人っきりになったのが気まずいので早く太田さん戻って来ないかな。と思いながらラーメンをすすりながらスマホをいじる。
時計は日付が変わるのを告げようとしていた。
「今日は平和だな。」
太田さんが喫煙所から帰って来て嬉しそうに話す。
するとタイミングを見計らったかのようにナースコールが鳴った。
私の担当の居室からだ。
PHSの通話ボタンを押し
「今伺いますのでお待ちください。」
と伝えると居室へ向かった。
「お兄さんすいません。あのおばあさんベッドから落ちとるようなんだが。」
どうやら同室の利用者がベッドから落ちていたのを心配してナースコールを押してくれたらしい。
「Kさんありがとうございます。Tさんどうしました?痛いとこありますか?」
Kさんは安心したのか再び眠りについたがTさんは落ち着かず暴れている。
村田さんを呼び2人がかりで車椅子に乗せる。
幸いにも怪我はないようだ。
Tさんは認知症である。
普段は大人しくニコニコしているおばあさんなのだがたまに夜になるとこのように暴れることがある。
私も1度オムツ交換の時に腕を噛まれたことがある。
Tさんが落ち着くまでスタッフルーム前にある談話室に起こしておくことにした。
テーブルを叩いたり大声でさけんだり落ち着かない様子であった。
Tさんの様子を記録し車椅子から落ちると危ないので見守ることにした。
1時間。2時間経っても落ち着く様子はない。
時計は3時を指していた。
オムツ交換の時間だ。
落ち着かないTさんを連れながらオムツ交換を行う。
山崎のあてたオムツはやはり汚かった。
担当している利用者20名のうち10名は排泄物が漏れていて着替えさせることになった。
暴れるTさんを確認しながらの更衣は大変だった。
やっとオムツ交換が終わりスタッフルームでTさんと休憩する。
「大変だったね。近藤くん。」
太田さんと村田さんがぐったりしている私に声をかける。
「自分の担当なんでしょうがないです。大変でしたけど。後は洗顔だけなんでもうひと踏ん張り頑張ります!」
ここまでくると精神的にはだいぶ楽だった。
それにしてももうすぐ100歳だというのにTさんの体力はすごい。
関心しながら残りの業務を終わらせる。
退勤30分前になると早番の職員が集まりだした。
「近藤くんおつかれ!」
早番の山本が声をかける。山本も同期だ。な仕事も丁寧だし優しい良い奴だ。
「疲れたよ。帰ったら爆睡だわ。」
申し送りを終えると俺は帰って寝ることにした。
「お疲れ様でしたー。」
早番の職員にあいさつする。
談話室には夜暴れすぎて疲れたのかウトウトしているTさんがいた。
帰宅後、爆睡するはずだった私は何故か覚醒してしまい帰り道で買ったコンビニの唐揚げ弁当にたっぷりとマヨネーズをかけたものを食べ終わると大掃除を始めるのであった。
自分の体力もTさんに負けてないなと思った瞬間だった。
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