吸血鬼ホストは夜花を愛す(2)
「……といったところだな。
しばらくは雑用や助手をしながら、先輩ホストの仕事ぶりを見て、学びたまえ」
ナイトクラブ『夜の花』の支配人は、一通りの説明を終えると、新人のホスト見習いであるハロオに言った。
「初任給は高くはないが、実績を積めばただちに査定して昇給する。
お客様がご指名してくだされば、指名料から取り分が支払われる」
「ご指名ってなんですか?」
「お客様が名指しで、このホストに接客してくれと頼んでくることだ。
店は、別料金をいただくことになるわけだが、人気があるホストになれば、お客のご指名も殺到する。
うちは実力主義なんだ。無能な者はいつまで経ってもダメだが、優秀ならばいくらでも稼げるというわけだ」
「経験を積むとレベルアップするわけですね。わかりやすくていいです」
「ああ。しかし、ダンジョンでモンスターを倒すというわけではないぞ」
支配人は、渋い顔をしてみせた。
ホリックの就職斡旋所から紹介された、このハロオという青年は、ホスト向けとは言い難かった。
ありていに言うと野暮ったい。この職種において必要とされる、洗練された
やれやれ。前に良い紹介をしてくれたからまた頼んでみたというのに、こんな人材を寄越されるとは。
口には出さぬが、肩をすくめてみせる。
しかし、そうふるまいつつ、支配人は腹の中ではほくそ笑んだ。
正直に言えば、ホリックの就職斡旋所に求人を出したのは含みがあった。
今回もまた優れた人材を紹介してくれればそれでよし。そうでなければ「あのホリックも滅多には紹介できないレベルの人材が揃っている」ということになるから、この店にも箔が付くというわけだ。
支配人も、天性のホストの才能がある男など滅多にはいないことは心得ていた。
あるいは人材が見つからないことを引け目に思って、この店を利用してくれてもいい。あのホリックが常連となってくれれば、やはり箔が付くというわけだ。
夜の店の支配人ともなれば、二重三重にことを考えておくのは当然のことである。
いやいや。
私も決して、騙して駆け引きをすることばかりを、考えているわけではない。
そんなこの店の宣伝は抜きにして、心配しているところもある。かのやり手のホリック女史の手腕は認めている。尊敬に値する人物だ。
それが最近、どうもストレスを溜めているように思える。あの美貌も台無しだ。我らが店で浮世を忘れて楽しんでもらえれば、きっと生気を取り戻して美しくなり、お互いに得となるわけで――。
「あのー。それじゃあ、そろそろ仕事に入りたいんですが」
ハロオの声に、支配人は我に返る。
あわてて「おほん」と咳払いをした。
「まあ、頑張りたまえ」
あまり期待せずに言った。
「せいぜいドゥンケルくんを目指して見習うといい」
「ドゥンケル……さん?」
ハロオは、なぜか驚いた顔をした。
「ああ。さすがにきみも知っていたか。
うちのナンバーワンホストだからな」
ハロオの表情の驚き具合は、何か別の意味もあるようにも見えたが、支配人はあまり気をとめずに、そう言った。
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