魔術農園経営者の悩み(3)
ハロオは、夜の農園の見張りを任せられることになったが、こちらの仕事にも真面目で熱心に取り組んだ。
日が暮れると夜食用の弁当とクワを持って出かけていく。畑を耕すわけではないが、クワは対害獣用の武器でもあるのだ。
その様子を見てファーマも心強く思う。安心して、ぐっすり眠ることが出来た。
一晩目。
朝に戻ってきたハロオは言った。
「灰色狼がやってきましたが、追っ払って作物を守りました!」
意気揚々とした声だ。
「ほう。それは凄いな。よくやった、ハロオさん」
ファーマはそう言いながら、内心思う。
(灰色狼とは珍しいな。結構な猛獣だ。ハロオさんに昨晩見張りを任せておいたのは幸運だったな)
ハロオはイビキをかいて昼はぐっすり眠り、また日が暮れると出かけていった。
二晩目。
朝に戻ってきたハロオは言った。
「カミナリ熊がやってきましたが、追い払って果樹園を守りました!」
「ほ、ほう。それはでかしたな。ハロオさん」
ファーマはそう言いながら、内心ふと考えた。
(二晩続けて害獣が出ることなど滅多にない。
それにカミナリ熊と言えば、身の丈が人間の二倍もある凶獣だ。このへんでも出現するのは十年に一度ぐらいのはずだぞ)
イビキをかいてぐっすり眠るハロオを見ながら、さすがに首をひねる。
ハロオは日が暮れるとまた出かけていった。
三晩目。
朝に戻ってきたハロオは言った。
「マンティコアがやってきましたが、追い払ってハーブ園を守りました!」
「……おい、ちょっと待て。ハロオさん」
マンティコアと言えば、
確か、このあたりの土地でも百年ほど前に出現したと農組合の長老から聞いたことがあるが、そんなものがそうそう自分の農地に出てくるはずもない。
万が一出てきたとしたら、農夫など……いや、よほどの熟練の戦士でもなければかなう相手ではない。
「ハロオさん。見張りをちゃんとやってくれれば給料は出す。そんなホラの武勇伝をでっちあげる必要はないんだよ」
「えっ。本当ですよ?」
ハロオはイビキをかいて、ぐっすり眠ってしまった。
ファーマは、うーむと唸る。
ハロオは嘘をついてるように見えなかったし、そもそも嘘をつくならもっとマシなことを言うだろう。
(居眠りをして夢でも見てたのかな。今夜はこっそりワシも見張るとしよう)
ハロオに見張りを任せて夜ぐっすり眠れるはずが、本末転倒だが……仕方ない。
ファーマは、その晩、ハロオがまた夜食の弁当と戦闘用クワを持って出かけていった後、こっそりと後を尾けた。
納屋の陰からハロオを見張る。
ハロオは、クワを手にえらく張り切って見張りをしている。
誰も見ていないのに真面目な青年だ。
どうやら怠けて嘘をついている様子ではない。
その夜。すなわち四晩目……。
夜中になると地響きがした。あたりの地面が揺れる。
「出たな。土竜! 畑には近づけないぞ!」
ハロオが
土竜。いわゆるモグラ……ではない。アースワームだ。
超巨大なミミズのような化け物で、その口は荷車をひと呑みするほど大きい。
ファーマは我が目を疑った。
アースワームはこのあたりの土地で大昔に暴れまわっていたのを英雄が退治したという伝説があるが……。
目の前には、まるで絵巻で語られる英雄物語のような光景がくり広げられている。
ハロオはクワ一本で、その巨大なミミズと戦い、打ち負かした。
「もう畑を襲うんじゃないぞ!」
ハロオは、おとなしくなったアースワームに言い聞かせる。巨大ミミズは土のなかへ帰っていった。
……この対処は正しい。この怪物は土を豊かにしてくれるミミズたちの神でもあるのだ。伝説の英雄もそうしたと伝えられている。
ファーマは、腰を抜かしたまま、這いずって母屋に戻った。
朝になるとハロオが戻ってきて、意気揚々と言った。
「アースワームがやってきましたが、追い払って畑を守りました!」
「……ああ、うむ。大したものだ、ハロオさん」
さすがに呆然としていたファーマだったが、朝が来て日中に農作業をしているうちに、だんだん落ち着いてきた。
さすがに昨晩のことは現実とは思えない。夢だったのではないかと考え直した。
(今夜も、ハロオさんを見張ることにしよう)
五晩目。
夜に見張りをするハロオを見張っていると、夜中に農園じゅうが大きく揺れた。昨晩の何倍もの激しさだ。夜空はかき曇り、月も星も消えた。
「出たな。グレーターアースデーモン。畑には近づけないぞ!」
山ほどもある巨大な、大地の魔神だ。
千年前にこの地で栄華を誇った
見るとハロオは大きく飛び上がり、グレーターアースデーモンにクワで打ちかかった。
山に対しての豆粒のような差があったが、ハロオは果敢に戦い、最後は魔神を打ち倒した。
「グレーターアースデーモンがやってきましたが、追い払って麦畑を守りました!」
「……ああ。うん」
幸い、その日は雨だったので、ファーマは農作業を休んだ。さすがに何もする気にはなれず、ぼんやりと過ごす。
ハロオは、イビキをかいて眠った。
夜になると雨があがったので、また弁当とクワを手に出かけていった。
ファーマも、さすがに、その晩は尾けることをやめた。
六晩目……。朝に戻ってきたハロオは言った。
「エンシェントグレーテストデストロイゴーレムがやってきましたが、追い払って花畑を守りました!」
「エンシェントグレー……なんだって?」
ドラゴンぐらい出ても驚かないつもりでいたファーマだが、意外な名前だった。
イビキをかいて眠るハロオの隣りで蔵書の神話の本をひもとくと、失われた古文書の断片のなかにその名前があると書かれていた。一万年前、超古代文明を終焉に導いた最終戦争で使用された魔法兵器と言う。
(……何やら、とんでもないことになってしまったようだぞ)
ファーマは頭を抱えた。
なぜ、自分の農園にこんな恐ろしい怪物たちが襲ってくるようなことになったのか。あまりの展開についていけないが、もはや逃げるにしても時を逸してしまったようだ。ハロオが守ってくれなかったら、一体どうなってしまったことだろう。
(それにしても)
ファーマはふるえる。
(この調子でいくと七晩目には、一体どんな恐ろしい怪物が襲ってくるというんだ?)
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