農作者 Farmer
魔術農園経営者の悩み(1)
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│『農園手伝い』
│ 条件:身体が丈夫
│スキル:力仕事、農業、植物・動物知識、※大地系魔法の取得者優遇
│勤務時間:早朝~夕方(ただし夜間作業もあり) 労働環境:都市から遠い
│報酬:日給50Gから。現物支給(農作物)あり 備考:食事・住居付き
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その日は、雨だった。
農夫のファーマは、数日ぶりにのんびりした気分になった。
ファーマの農園は、この街ケイオロス周辺の農場の多くと同じように、魔法を併用する魔術農法、通称ルーン
(
作物は速く育つが、そのぶん、まめな手入れが必要で、こと水撒きは必須となる。
お隣りの土地(とは言ってもかなり離れているが)のランチは牧場を営んでおり、牛や馬や羊、最近は
農園は麦畑と野菜畑を主として、果樹園、ハーブ園も設けられている。
もともと魔術を使う農法なのだから、降雨の術でも使って水を撒けばいい、というような単純な問題ではない。
雨ばかり続いては作物はやはり育たない。それに自然に過度に介入すれば、必ず反動で良からぬことが起こる。
魔術農法も、使用する魔法は最低限にするべきなのだ。
どこかの農場では、降雨魔術を取り入れているらしいが、暦法と方位学を用いて、適切な日程を算出し、自然天候に与える影響を考慮し……と面倒ごとが多いそうで、普通に水撒きするほうが余程楽なぐらいだと言う。
そんなわけで、ファーマはもっぱら重労働である水撒きを、昔ながらの方法で行うことにしていた。
都市の人々から見れば、農業とは「自然のなかの仕事」とかいうイメージがあるようだが、とんでもない。
自然をねじ曲げ、本来の植生と異なる作物を大地に強引に植え付けて育てる、という極めて人工的なものなのだ。
畑を作って作物を育てた土地は急速に〈大地の力〉を失う。肥料や
農作者とは、大地を間借りさせてもらっているのだ、というのがファーマの考えだった。
ともあれ、広い農地の水を今日は撒かなくていい、というだけで心底ラクな気分になった。自然の恵みに深く感謝する。
さて、今日は農具の手入れや、普段溜まった雑用をこなすとするか。
ファーマは書物が好きだった。娯楽物語や絵巻も好みだが、新しい農耕技術書もこの機会に読んでおいたほうがいいかもしれない。
ファーマは
街の問屋や商人、あるいは小売りや料理屋と契約して、農作物を売る。
時には自分で直接販売に赴くこともある。領主や地主に縛られた小作人と違って自由はあるが、そのぶん責任も伴う。
農業とは地道な仕事の連続であるし、
土間に置いてある対害獣用の武器でもある農具。すなわち武農具もそろそろ年期が入ってきた。これも新調しておくべきか……。
……と、そのとき。対害獣用の鳴子が鳴った。
ファーマは
見れば、雨の畑のなかに男が横たわっている。雨でぬかるんだ
顔をあげて、こちらを見る目は、春の空のように穏やかに澄んでいた。のんびりした顔の青年である。作物泥棒ではないようだ。
「やあ。僕はハロオです」
ファーマは、そういえば農作業手伝いの募集をしていたことを思い出す。
★ ★
元魔王ホリックが今回、ハロオに斡旋したのは「農園」の手伝いだった。
「身体能力はあるわけだし、バカがつくほどの真面目だ。
そういえば農作業に向いているな」
巨大都市であるこのケイオロスは、多くの食糧を必要とし、別の地方からの輸入や、周辺の農地からの農作物に頼っている。
そのため、この街の周囲には農園や農村も多数存在している。
多くは自由農家、すなわち特定の領主や地主の小作人として農業に従事するのではなく、農家自身が作物を卸したり売ったりする個人農場主だ。
農園の働き手の需要は絶えずあり、ホリックの就職斡旋所も仲介することが多かった。街で仕事のあてがなく農園に向かった者も多いし、この街に住みながら、兼業や短期契約で農場へ働きに出ている者も結構いる。
農作業と言えば、早寝早起きが基本だが、必要に応じて夜間に作業することもある。そういう意味でもハロオ向けだろう。
早寝早起きも徹夜も得意な奴だし、何しろ身体が頑丈だ。
そんなわけで、折良く応募をしていたファーマ農園にさっそく斡旋したのだ。
紹介状を書くと、ハロオも喜んで、意気揚々と出かけていった。
送り出したホリックも大いに満足して事務所でうなずく。今度こそ、うまくいくだろう。住み込みならば住居と食事も得られる。
「それに、あいつは勢い余ってよくモノを壊すからな。狭苦しい街よりも、広々とした農地のほうが、気兼ねなくていいだろう」
ふふん、と鼻を鳴らす。
「ナァ~ゴ」
「……い、いや。別にあいつに気を遣ったわけではないぞ」
ホリックはあわてて言いつくろう。
しかし、すぐ気づいて咳払いをした。
自分は独り言を言っているだけで、あわてることはない。トラはただ鳴いただけで、別に自分の発言を指摘したわけではない。
「まあ、農園暮らしとなれば、当分顔を会わせることもあるまい。
……ふん。これでようやく、せいせいするというものだ」
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