魔王子育て奮闘記③-2 ゴンベエちゃん初めてのステータスス

「なんじゃ?その紙は?」

「ゴンベエちゃんに言葉を教える為に用意した、人間の言葉のうち平仮名と呼ばれる50音と25音の濁音を書き出した紙っす」

「……ほう」


 オリちゃんから紙を受け取ったディアヴァルホロ1世が、用紙の中身を確かめた。

 50のマスに区切られた中に色々な形が描きこまれている。


「これをどう使うのじゃ?」


 ディアヴァルホロ1世から用紙を受け取ったオリちゃんは「まあ見てるっす」と笑うと、ゴンベエの側にぴょんぴょんと近づいて行った。


「ゴンベエちゃん、ステータスの中にある字とこの紙に書いてある字を見比べて、同じ字を順番に指さして欲しいっす。上手に出来たら、じいじに浣腸していいっす」

「な!貴様ぁ、儂のア○ルを気安く交渉材料に使うな!」

「うん。いいよ」

「はうぁっ!」


 反射的にお尻を抑えたディアヴァルホロ1世を尻目に、ゴンベエは再び虚空を眺めはじめた。


「うーんとねえ、これと、これと、これと……」


 ゴンベエが指さした字を、オリちゃんが順番にメモをしていく。


「これでおしまい!」


 ゴンベエが最後に指さした文字を書き写したオリちゃんが「なんてことっすか……」と呟いて頭を抱えた。


「なんじゃ!?どんな職業だったのじゃ!!」


 人間の字が読めないディアヴァルホロ1世が、苛立ったようにオリちゃんに詰め寄った。


「じゃあ、今から読むっすよ」

「うむ」


 ディアヴァルホロ1世はゴクリと唾を飲み込んだ。


「しよくぎよう、れいとぶるうまあ」

「は?」

「職業、レイトブルーマーっす」

「は?」


 思わず二度聞き返したが、ディアヴァルホロ1世にとって聞き馴染みの無い初めて聞く職業だ。


「その、れいとぶるーまーって何じゃ?」

「勇者と同じ位のレアな職業っす。ただし……」

「ただし、なんじゃ?」


 チラリと横に立っているゴンベエを見たオリちゃんが、飛び上がってディアヴァルホロ1世にそっと耳打ちした。


「どれだけレベルが上がっても全く強くなれない、勇者と対極の究極のゴミ職業っす」

「なん……じゃと!?」


 ディアヴァルホロ1世は思わずオリちゃんと目を見合わせた。その後二人してゆっくりとゴンベエへと視線を写した。

 事態を飲み込めていないゴンベエはキョトンとした表情で二人を見上げている。


「じいじ、おりちゃんどうしたの?」

「や……」

「い?」


 屈みこんだディアヴァルホロ1世が、ゴンベエの両脇に手を入れると、


「やったあああああああ!!!」


 絶叫しながら高い高いと抱え上げた。

 横でオリちゃんも「良かったっす!」を連呼しながら飛び跳ねている。


 ディアヴァルホロ1世とオリちゃんは、ゴンベエのレベルを異常に上げ過ぎた事で自分たち魔族の脅威となる勇者の子供を育ててしまっているという事に、強い引け目を感じていたのだ。


「いやあ、ちょいちょい気にしてレベルアップで体力を回復させてたけど、いくらレベルアップさせても強くならないなら、気にせずレベルアップさせまくりじゃな!」

「そういう事っす。これまで気にして神経質になってた4年を返して欲しいっす!」


「そうだな」と相槌を打ったディアヴァルホロ1世は、ゆっくりとゴンベエを地面に下すと、ゴンベエの頭を乱暴にガシガシと撫でた。


「魔王様でも、ちゃんと育てなかったら勇者怖いっすよ」

「なあに、レベルがこれだけ高いのじゃ。レイトブルーマーのせいじゃと言えば、やつもぐうの音も出まいて」

「それもそうっすね!」


 あははっと高笑いを始めた二人の側で、ゴンベエはむうっと頬を膨らませた。ディアヴァルホロ1世とオリちゃんが確実に自分の事をバカにしていると気が付いたからだ。


『はおうのかぜ』


 突如現れた突風が、ディアヴァルホロ1世とオリちゃんを巻き上げて数メートル吹き飛ばした。

 何とか地面に着地した二人が、目を点にして突風の発生源―――ゴンベエを見つめた。


「おいオリちゃんよ。今ゴンベエちゃん儂の特殊スキル『覇王の風』使った気がするのじゃが、気のせいかのう?」

「気のせいっすよ。だって人間は他人のスキルを真似する事は絶対出来ないはずっす」


『はおうのかぜ!!!』


「「気のせいじゃなかったーーーー!!!!」」


 先程より強い突風に呑み込まれた二人は、絶叫しながらさらに遠くへと吹き飛ばされて頭から地面に叩きつけられた。

 地面に頭が刺さり逆立ちした状態で脚をバタつかせている二人を見て、ゴンベエがげらげらと楽しそうに笑っている。


 ずぼりと地面から頭を抜いたディアヴァルホロ1世が、真横で地面に刺さっているオリちゃんを引き抜いて、どういう事かと問いただした。


「私にも分からないっす。でも確かな事は、ゴンベエちゃんは魔王様のスキルを真似する事が出来るという事っす」

「という事はなにか?ゴンベエちゃんは勇者の子でありながら、魔王であるワシのスキルを身に着ける事が出来るという事か。……うーむ」

「魔王様?」


 顎鬚を擦りながら黙り込んだディアヴァルホロ1世の考えを推察しようと、オリちゃんが目を細めてディアヴァルホロ1世を凝視している。


「どうせ人として強くなれんのじゃから、儂の特殊スキルを全部仕込んで、勇者の奴を驚かせてやるかのう」

「え?どういうことっすか?」

「勇者である自分の子供が、魔王の特殊スキルを使ってすっかり魔王の子供みたいになってたら、勇者の奴目を見開いて驚くとは思わんか?」

「……思うっす」

「だろう?人として強くなれなかったから、代わりに儂のスキルを仕込んだと言えば、奴も文句の言いようもあるまいよ」


 邪悪な笑みを浮かべた二人は、その場で高笑いを始めた。子供を引き取りに来た勇者が、魔王色に染められた子供を見て、驚く姿を想像しただけで笑いが止まらない。


 ひとしきり笑い終わった後、二人は先ほどまでゴンベエが居たところに視線を戻したが、そこにゴンベエの姿が無い。


 おや、と思い辺りを見回そうとした瞬間、ディアヴァルホロ1世のケツに激痛が走った。顔を歪ませながらゆっくりと背後に視線を巡らせると、満面の笑みのゴンベエがア○ルに指をめり込ませている姿が目に入った。しかし激痛の為、それ以上の身動きを取る事が出来ない。


 危機を素早く察知したオリちゃんが、その場から飛び上がって逃げようとした瞬間に、ディアヴァルホロ1世のア○ルから引き抜いた指を、返す刀で素早くオリちゃんのア○ルに突き刺した。尻から指が抜けたディアヴァルホロ1世が、その場に崩れ落ちると同時に


「んっはうぅ!」


 ずっぽりとゴンベエの指が刺さり込んだオリちゃんが、恍惚な表情で身体を小刻みに身体を震わせた。


「だめじゃ!オリちゃん逝くんじゃない!!浣腸なんかで逝くんじゃなあい!!」


 地べたに這いつくばっていたディアヴァルホロ1世が、尻の痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がる間に、オリちゃんがみるみる小さくしぼんでいく。


「あー、逝くっすー……」


 消滅するかどうか間一髪のところで、オリちゃんの身体にディアヴァルホロ1世から魔力が注ぎ込まれた。


 次の瞬間、ぽんっと弾けるように元のサイズに膨らんだオリちゃんが、ゴンベエの指から脱出して、ディアヴァルホロ1世の肩の上に移動した。


「スキルを覚えさせる前に、ア○ル攻撃の危険性を教えるところからやった方がいいっす」

「……そうじゃな。そうしよう」


 二人はヒリつくお尻に手を当てながら、そう硬く誓いあうのであった。



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