魔王子育て奮闘記③-1 ゴンベエちゃん初めてのステータス

「じいじ、わたしをだっこするのだ!」


 ディアヴァルホロ1世のところに、フルチンの男の子が駆け寄ってきて抱っこをせがんできた。


「こらゴンベエ!フルチン抱っこはダメっす!」


 オリちゃんが血相を変えてゴンベエを寝かせ、「やなのー」と嫌がるゴンベエに強引にパンツをはかせた。

 ゴンベエにう〇こをかけられて今日で丸4年経つのだが、未だにオリちゃんはフルチン抱っこのトラウマから抜け出せないでいるようだ。


「この子、フルチン好きすぎでやばいっす。一体誰に似たんすかね、まったく」


 オリちゃんは慣れた手つきでゴンベエに服を着せると、ゴンベエを身体の上に乗せて、抱え上げた。


「お主じゃろう。お主は基本全裸じゃん」


 ディアヴァルホロ1世は、オリちゃんからゴンベエを受け取ると、そのまま抱っこした。服を着る前までは暴れていたゴンベエであったが、服を着せられると先ほどまで暴れていたのが嘘のように大人しくなっている。


 ディアヴァルホロ1世の言葉を聞いて、何をどう勘違いをしたのか分からないが、オリちゃんが顔を赤らめて身体を捩じってモジモジしはじめた。


「全裸って改めて言われると恥ずかしいっす。魔王様のエッチ」

「だれがエッチじゃ!その下劣な表現をやめんか!」


 どんどん捩じれていくオリちゃんの様子に、ゴンベエは手を叩いて喜んでいる。


「あははは。おりちゃんいっぱいねじれてる!おもしろーい」

「もっと捩じれるっすよー!」


 オリちゃんが嬉しそうにさらに捩じれ上がり始めた。ディアヴァルホロ1世の腕の中で、ゴンベエがきゃっきゃして喜んでいる。


 ディアヴァルホロ1世は、しばらく黙って様子をみていたが、衝動的にゴンベエの視界を手で遮ってから、オリちゃんを思いっ切り踏みつけた。


「いたたた、痛いっす!なにするっすか!?」

「いやあすまん、おぬしのおぞましい動きを、ゴンベエが真似したら大変だと思ってな」


 もやもやした気持ちが、少しスカッとしたところで、ゴンベエの目を覆っていた手を離すと同時に、オリちゃんから足をどけた。


「ゴンベエちゃんが、私みたいに捩じれるわけないっす」


 捩じれた身体を、あっという間に逆回転させて元に戻し、オリちゃんが抗議の声を上げる。

 ディアヴァルホロ1世にとって、実際のところそんな事は百も承知であった。ゴンベエがオリちゃんに懐いている様子に嫉妬して、我慢できずに踏みつけてしまったのである。


「すっかり、ジジばかっすね」


 そんな魔王の心情をすっかり見透かしたのか、知った口をきいて、オリちゃんはやれやれと肩をすくめた。

 自分の配下に心情を見透かされているような気がして面白くない。ディアヴァルホロ1世は、気を取り直して違う話題をオリちゃんに話しかけた。


「ゴンベエちゃんは最近数字読めるようになったんじゃって?」

「うん。そだよー!ごんべえすうじよめるのだ」


 ディアヴァルホロ1世の腕の中のゴンベエが、得意げに両手を上げた。人間の文字を知っているオリちゃんが、ゴンベエに文字を教えているのだ。


「そうなんす!なんと100まで数えられるようになったすもんねー」


 専属家庭教師のオリちゃんが、生徒の成長ぶりに誇らしげに胸を張った。

 

「ゴンベエちゃん凄いねー!」


 ディアヴァルホロ1世は、抱っこしていたゴンベエを両手で上に掲げて万歳した。ゴンベエも「もう一回、もう一回」と何度もリクエストして喜んでいる。

 万歳抱っこを何度か繰り返した後、ディアヴァルホロ1世はふと、あることに気づき、ゆっくりとオリちゃんへと視線を落とした。


「数字が読めるようになったということは、、いよいよステータスも読めるんじゃないか?」

「あっ!そうっすね!読めると思うっす!」


 二人は思わず興奮して見つめ合った。


 人間のステータスは基本的に当人しか見ることが出来ないため、ずっとゴンベエのステータスがどのようになっているか、知りたいと考えていたからだ。


 興奮する二人をゴンベエが不思議そうに見ている。


「じいじ、すてえたすってなに?」

「ゴンベエちゃんの職業やレベルや能力などのことじゃ」


 表現が難しかったのであろう。ゴンベエがわからないとばかりに首を傾げている。それを見て、オリちゃんがすかさずフォローを入れてきた。


「ゴンベエちゃんが自分のこと考えた時に見える数字のことっす」


 ぱぁっと、ゴンベエの表情が明るくなった。


「ごんべえすてえたすみえるよ!じいじよ、わたしをおろすのだ」


 ゴンベエに促されるままに、ディアヴァルホロ1世はゴンベエをゆっくりと地面に下した。何気にオリちゃんに目を向けると、思わず目が合い、お互いにコクリと頷き合った。


「それじゃあ、見える数字を順番に読んでみせてくれるかのう」


 ディアヴァルホロ1世は、ゴンベエの言葉をゴクリと喉を鳴らして待った。

 ゴンベエが、虚空を見て何かを読もうしている。


 いよいよじゃ!いよいよ儂らの疑問が晴れる時が来た!!


 ディアヴァルホロ1世が、強く握りこんだ手に汗がにじむ。固唾を飲んで見守っていると、ゴンベエが静かに自分のステータスの数字を読み始めた。


「ええとね、61でしょ」

「む、それはレベルじゃな。そこはだいたい予想通りじゃ」

「問題は次っすね」

「んーとね、あとぜんぶ1だよ。1ばっかりー」

『やっぱりかー』


 思わず二人の声が合わさった。


 すべて1という事は、今のゴンベエのステータスはレベル61 体力1 魔力1 攻撃力1 防御力1 俊敏力1 知力1 運1という事である。


 授乳期を過ぎた後、離乳食に切り替えてからは、ゴンベエが強くなり過ぎる事を懸念して、レベルアップして回復させる育児法はやめており、瀕死状態になった時だけレベルを上げるようにしていた。


 しかしながら、いつまでたっても些細な事で瀕死状態になるゴンベエに、二人は思った以上にゴンベエのステータスが上がっていないのではと考えていたのだ。


「やはりこの島は、人間の能力も一万分の一に制約するのかのう?」

「レベル61でオール1はありえないっすから、そうとしか思えないっす」

「……だが、人間ってレベル61でもこの程度のステータスなのか?勇者はもっと凄かった気がするが……?」


 数回勇者と戦った時の印象として、少なく見積もっても勇者の体力は10万以上であると確信している。それをこの島での数値に換算すると体力は10以上ということになる。


「勇者は特別っす。職業補正がついてるから、一般人よりレベルアップ時の能力の上昇値が高いって聞いたことがあるっす」

「ということは、ゴンベエは勇者の子じゃが、職業は勇者ではなさそうじゃな」

「レベル61で全能力が1万以下って、能力的には平凡っすもんね」


 オリちゃんに平凡と言われ、ゴンベエがむっとしてむくれている。

 平凡と言う言葉の意味は良く分からなかったが、自分が褒められてはいないと感覚的に感じ取ったのかもしれない。

 ディアヴァルホロ1世とオリちゃんは、そんなゴンベエの様子に気づかずに会話を続けている。


「我々魔物的に、勇者の赤ちゃんを強くしすぎたらやばいと思ってたっすけど、これならまだまだレベル上げても全然大丈夫っすね」

「そうじゃな。安心したわい。というか、簡単な事ですぐに瀕死になるから、もう少しレベルを上げて体力つけてもらわないと困る。ここでゴンベエに死なれたら、勇者に何されるかわからんしな―――んふうっ!」


 突如ディアヴァルホロ1世のア〇ルに、衝撃が駆け巡った。


 腰を浮かせ悶絶しするのがやっとで、まともに声が出せない。

 脂汗を垂らしながら、やっとの思いで振り返ると、ゴンベエが怒って立っていた。


「ごんべえへいぼんじゃないもん!じいじ、かんちょ-!!」


 ゴンベエの追撃の一撃をもう一度ア〇ルに喰らい、ディアヴァルホロ1世は、その場に立ち続ける事が出来ずに、静かにその場に崩れ落ちた。


「お……オリちゃん、痛恨の一撃じゃ。儂のケツさすっておくれぇ……頼むぅ」


 瀕死のダメージを受けて、弱弱しい声しか出ない。


「え?攻撃力1のゴンベエちゃんの攻撃を受けて、ダメージ受けたんすか?魔王様も落ちたもんっすね。ガッカリっす」

「ア〇ルは、我ら魔物の急所じゃ。攻撃力が1であろうが、ダメージは受ける!ケツが痛い!早くさするのじゃ。」

「へいへい」


 オリちゃんが仕方なさそうに触手を使って、ディアヴァルホロ1世の尻をゆっくり撫で始めた。その隙にゴンベエが、そろりそろりとオリちゃんの背後に回る。


「おりちゃんも、かんちょー」


 危険を察知したオリちゃんが、ゴンベエのア〇ル攻撃を回避すべく動こうとしたところを、ディアヴァルホロ1世が取り押さえた。

 こういう時、一人でも味方は多い方が良い。オリちゃんが逃げないように、ホールドしている手にさらに力を込める。


「おぬしも、浣腸の恐ろしさを味わうがよい!」

「いやっす!魔王様のお尻と穴兄弟になりたくないっす!んっはうぅ!!」


 抵抗むなしくゴンベエにぶっすりと浣腸されたオリちゃんが、恍惚な表情でみるみるしぼみはじめた。


「し、新感覚っす……、ああ、空から天使が迎えに来てるっす」

「ほらみろぉ!オリちゃんこそ浣腸で昇天しそうじゃぞ!」

「いやぁぁ!浣腸で死ぬのはいやっすぅ!魔王様ぁぁぁ……」


 かなり小さくしぼんだオリちゃんに、ディアヴァルホロ1世が急いで魔力を送り込むと、今わのきわだったオリちゃんが、あっという間に元のサイズにまで回復した。


「うわーん、危うく子供にケツ刺されて死ぬとこだったっすー」


 オリちゃんがディアヴァルホロ1世に泣いて飛びついてきたので、彼はオリちゃんを優しく抱きとめた。

 今の二人は同じ痛みを分かち合うケツの穴ソウルメイトである。


「な、浣腸やばいじゃろう?」

「はい。魔王様、浣腸をバカにして申し訳なかったっす」

「へいぼんっていったら、またかんちょうするからね!」


 後ろからゴンベエに声をかけられて、二人の肩がピクリと跳ねる。

 ゆっくりと振り向くと、ゴンベエが満面の笑みで浣腸の手つきをしていた。


 「しかしながら、ここまでステータスが低いゴンベエちゃんの職業は、一体なんじゃろうか。今はまだ字が読めない以上どうにも分からないが……」


 痛む尻をさすりながら、独白して顎鬚を擦っているディアヴァルホロ1世の服の袖を、同じく尻を擦っているオリちゃんが引っ張ってきた。


「私にいい考えがあるっす!」


 何かが書かれた紙を取り出したオリちゃんが、これ以上ないドヤ顔を見せた。



 

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