魔王子育て奮闘記② 初めてのう〇ち編

 ディアヴァルホロ1世とオリちゃんが厳しい表情で、床に引かれた白い布を挟むような形で座っている。


「オリちゃんよ。母乳危機はなんとか乗り越えられそうじゃ」

「ええ。でも……」

「うむ……。新たな危機が到来したな」

「食糧問題よりも深刻な難題が降りかかってきたっすね」


 二人の間に広げられた白い布は、ゴンベエの布おむつであり、その中央にはゴンベエから排泄された黄色いう〇こが抜群の存在感を放ち鎮座している。


「問題は、儂とおぬし、一体どちらがこのう〇こをどちらが処理するかじゃ」

「……そうっすね。でも、何も食べてないのに何故こんなにこんもりでるっすかねえ」

「儂に聞くな!人間の身体構造なんぞ知るわけがなかろうが!」


 厳しい表情で考え込む二人を包む様に、部屋の時計の針の音だけが部屋に響き渡る。


 お主部下なんじゃから、進んでやるって言えよ。何故黙っている。やりたくないのか?やりたくないのじゃな?……でも、儂はもっとやりたくない!

 ……となれば!

 カッと目を見開き赤い瞳をぎらつかせながら、ディアヴァルホロ1世は厳かに口を開いた。


「オリハルコンスライムよ。ディアヴァルホロ1世の名において命ずる!この布を見事に洗浄してみせよ!」


 しかし、オリハルコンスライムは動かない。むしろ白い目で見つめ返している。

 魔王の命令に従わないという予想外の反応に、ディアヴァルホロ1世は激しい戸惑いを感じた。


「こういう時だけ正式名称で呼ぶのずるいっす。魔王様の職権乱用っす」

「なに!儂は貴様より長く生きておる。年長者は敬うもんじゃ。無能な部下は大人しく儂の指示に従えば良いのじゃ!」


 ディアヴァルホロ1世がオリちゃんを踏みつけようとするが、するりと躱して、彼の足に巻き付いてきた。


「部下を無能扱いって嫌われる上司の典型っす。年長者気取るのであれば、年長者としての気概を見せて、私のような若輩者に手本を見せて欲しいっす」


 ディアヴァルホロ1世は、足に巻き付いたオリちゃんをなんとか引っぺがそうと足をぶんぶんと振っているが、一向に外れそうにない。


「嫌じゃ!なぜ儂が人間なんぞの排泄物を処理せねばならんのじゃ!儂は去年まで人間どもを支配していた魔王ぞ!魔王様なんじゃぞおおぉ!」

「あ、魔王様、ゴンベエちゃん起きちゃうので静かにしてください」


 半分涙目のディアヴァルホロ1世の口を、オリちゃんから伸びた触手がふさいてきた。―――次の瞬間、芳醇な香りが彼の鼻をついた。


「うがっ!くさい!なんか酸っぱい匂いがするのじゃ!」


 ディアヴァルホロ1世は、飛びかけた意識をなんとか繋ぎながら、自分の口を押えているオリちゃんの触手を払いのけた。

 生理的に受け付けない匂いによって吐き気が催してきたが、ここでは吐くまいとなんとか耐える。


 なんだ。何が起こったのじゃ?

 未だ自分の身に何が起こったか分からず、現状が理解できない。


「さっきゴンベエちゃんからオムツ外した時、手にう〇こついたの忘れてたっす」


 オリちゃんは、液体状の身体をくねらせて、おどけてみせた。

 衝撃の告白に一瞬思考が止まったが、徐々に事態を理解すると共に、怒りが込み上げてくる。


「き、貴様ぁ、わざとじゃろう……」


 怒りのままにオリちゃんに蹴りを見舞おうとしたが、精神的ダメージが強く足元がおぼつかない。


「さ、魔王様、顔にう〇こ付いたことですし、顔を洗うついでにこのオムツを洗ってきて下さいっす。急がないとしばらく匂い消えないっすよ」


「くそっ!う〇こだけに、クソ!」


 ディアヴァルホロ1世は、その場で思いついたダジャレを使って悪態をつくと、う〇こ突きの布おむつを拾い、観念して風呂場へと向かう事にした。


 そんな哀愁漂うディアヴァルホロ1世の後ろ姿を、オリちゃんはニヤリと笑って見送っている。


「う〇こが酸っぱい訳ないっす。さっきのはただの握りっぺっす」


 部屋を出て行ったディアヴァルホロ1世には、その言葉は届いていない。

 オリちゃんはすやすやと眠るゴンベエの横に移動すると、ゴンベエをそっと抱き上げた。ゴンベエは布おむつが外されたままになっており、お尻とチ〇チ〇は剥き出しになっている。


「小っちゃくて可愛いオチ〇チ〇ついてるっすね。お尻もスベスベっす」


 そう言いながら、ゴンベエちゃんの生尻を擦りはじめた。手で触るだけでは我慢が出来なくなったのか、ゴンベエの生尻に頬ずりをして、全身でその感触を堪能し始めた。


 ―――突如、オリちゃんの耳元で、ぷりぷりぷりと音が聞こえ、顔の上に生暖かい感覚が広がってきた。

 お尻を刺激されたゴンベエが、オリちゃんの顔面に寝う〇こをしてしまったのである。


「にがっ!」


 事態を瞬時に悟ったのかオリちゃんは、「ひぃぃぃぃ」と叫びながら、ゴンベエを抱っこしたままお風呂場へ向かっていそいそと移動し始めた。


「こうなるのであれば、最初から素直に自分がオムツを処理しに行けばよかったっす!魔王様ぁぁ、ごめんなさいっす~!」


 悲痛なオリちゃんの叫び声が、屋敷中に響き渡ったのであった。



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