第275話 ロボット? 違う! 人造人間だ!

「僕とギレンであの亀をひっくり返す」


 僕はハティナの魔法を受けて狂ったように叫声を上げる亀を見下ろして言う。


「協力するのは良いが、どうする?」


 怪訝そうなギレンに向けて僕は断言する。


「ありゃあ魔王が放った魔物だろ。つまり、人類を滅ぼすために送られた使徒だ。使徒を倒すなら、それに相応しいやり方がある」


「……?」


 全員の頭の上にクエスチョンマークが見える気がする。


「古来より使徒を葬ってきたのは素っ裸で空を飛び三分間しか戦えない銀色の巨大な変態異星人でもなければ五人がかりで一人の怪人をタコ殴りにするカラフルなイジメっ子集団の合体ロボでもない……──」


 僕はギレンの手を握って魔力を通す。


「──ギレン、偶像崇拝パペットショウだ」


 偶像崇拝パペットショウ


 ギレンのスキル。


 ゴーレムを創り出すスキルだ。


「……まあ、良かろう。──偶像崇拝パペットショウ!」


 雄弁は金ゴールデンオラトリーで強化された偶像崇拝パペットショウに、すかさず僕は魔力を通して介入する。


 僕が介入したのは、ギレンの創り出すゴーレムの造形だ。


 ダサいゴーレムを操るなんてゴメンだ。


 どうせならカッコいいやつを創り出して戦わせたい。


 火を吹く怪獣と僕の考えたカッコいいゴーレムの戦い。


 使徒と汎用人型決戦兵器の戦い。


 ロマンが溢れるぜ。


 臥竜門の前の大地が歪んでゴーレムが生まれる。


 臥竜門と同じくらいの背丈のゴーレムは完成した。


 偶像崇拝パペットショウはゴーレムを操るスキルではないので、僕たちが創り出したゴーレムは完全に沈黙している。


 これを、僕の偶像操作ドールプレイで操るわけだ。


「おおー、でかーい!」


 イズリーが感嘆の声を上げる。


「確かに巨大だが、これは……弱そうではないか?」


 ギレンは首を傾げた。


 失敬な!


 確かに僕の創り出したゴーレムは全体的に細いライン、華奢で妙に腕が長く、モデル体型でいわゆるモビルスーツのようなロボ的な武骨さはない。


 しかし頭は肉食恐竜のようなデザインでツノが一本生えているし、肩に謎の鉄板が付いていたり、今回は創れなかったが、ねじれた槍とかを持って宇宙から迫り来る使徒を倒しそうなデザインではないか!


 僕は自信満々に言う。


「コイツは汎用人型決戦兵器、人造人間ヱヴァンゲ◯ヲンだ」


「エ、エヴァンゲ◯オン……?」


 僕は繰り返したギレンに『ちっちっち』と指を振る。


「違う! 新世紀の方でもシンの方でもない! 新劇場版の方だ! ヱヴァンゲ◯ヲンだ!」


「新……? ……エヴァンゲ◯ヲン」


「違う! ヱだ! ヱ!」


「お、同じではないか……」


 なーにおーう?


 全然違うっつーの!


 その時、僕とギレンの会話を見ていたイズリーが呟いた。


「……ヱヴァンゲ◯ヲン」


「イズリー! そうだ! その通りだ! ヱヴァンゲ◯ヲンだ!」


 イズリーは「ふっ……」とドヤ顔でギレンを見下したように見る。


「……ど、どちらでも良いが、暴鬼殿が満足そうで何よりだ」


 こいつは何も分かってない。


 僕はため息を吐いて、偶像操作ドールプレイを起動する。


「最終安全装置解除! ヱヴァンゲリヲン初号機、リフトオフ!」


 異世界に現れた超絶カッコいい汎用人型決戦兵器に僕の膨大な魔力が通り、目の前の亀みたいな使徒を倒すべく、細長い脚で大地を一歩踏み締めた。



 ゴキッ。



 と、踏み出した右膝が折れる。


「……ヱ!?」


 臥竜門に、全員のハーモニーが響く。


 僕の汎用人型決戦兵器は自重を支えられず、前のめりに転倒して土くれに変わった。


 オペレーターの女の人に『エヴァ転倒!』とか言われそうな光景である。


 初号機、完全に沈黙……。


「……」


 口をあんぐりと開けた僕に向けて、ギレンは言う。


「……余が創ろう、ゴーレム創りにはコツがいるのだ。──偶像崇拝パペットショウ!」


 人型決戦兵器だった土くれが再び集まってゴーレムを形創る。


 今度はでっぷりと太ったハニワのようなゴーレムが生まれる。


 ……クソダサい。


 エルフ国の女帝みたいな体型だ。


 あるいは小金持ちの家庭に育った甘ったれたクソガキみたいな体型。


 ビール樽みたいな身体から星のカー◯ィみたいに足だけがくっついている。


 太腿も脛も膝もない。


「二足歩行のゴーレムを維持するには頑丈な健脚とバランスを維持するために重心を低くする必要がある。グリムリープ卿のゴーレムではツルカメアとかち合う前に腕も折れておったであろう」


「……くっ、ロマンを解さぬ実用主義者め」


「いや、動かなければ意味が……! ツルカメアが動くぞ!」


「クソ、僕の主義に反するが背に腹は代えられんか!」


 ──偶像操作ドールプレイ、起動。


 沈黙は銀サイレンスシルバーが告げる。


 ハニワゴーレムは身体を揺らしながらノソノソとツルカメアに向かって突き進む。


 ツツツツー、と地面を滑るような動きはまるで相撲取りの擦り足みたいな挙動だ。


 何度でも言うが、ハニワは動いてもクソダサい。


 ツルカメアは口を大きく開け、両端から液体を吹き出して口の真ん中で混ぜ合わせ、それが炎に変わって噴き出される。


 魔力はやはり感じない。


 どうやら、口の両端から噴霧される薬液を口腔で混ぜ合わせて火炎に変えているようだ。


 天然のナパームのような物だろう。


 ハニワゴーレムを火炎が包むが、外殻を黒焦げにされながらもその進撃は止まらない。


 

「ミリア! 亀をひっくり返す! お前には僕の魔力を流して魔物特効を付与させる!」


「御意! 風穴を空けてご覧に入れますわ! ミリア・ワンスブルーが詠う──」


 僕は闇魔法、影縫スティッチで影の紐を創り出し、ミリアの手首に結んで彼女に魔力を通す。

 

 ハニワは火炎を吐く大亀とがっぷり四つでかち合い、亀の甲羅を両手で掴んで力一杯に押し上げる。


 ハニワの土手っ腹が熱で炭化してちらちらとオレンジ色に輝く。

 

 ギレンの雄弁は金ゴールデンオラトリーで強化された状態から生まれたゴーレムは屈強だった。


 ツルカメアは巨大な甲羅から申し訳程度に出ている尻尾を起点にくるりとひっくり返る。


 そこに、ミリアの詠唱が終わる。


「──凍てつく隕墜、降り給え氷槍! ──堕天の白雪スノーホワイト!」


 ひっくり返ったツルカメアの真上に、巨大な氷の槍が出現し、一息に亀の腹に落下した。


 メキメキと音をたてながら、ゆっくりとツルカメアの腹にめり込み、地面に釘付けにする。


 ミリアは妖艶な表情で一言、「──解放リリース」と呟く。


 亀を串刺しにした氷の槍が弾けてツルカメアごと爆散する。


 魔物が滅びる時特有の黒い霧を撒き散らして、ツルカメアは滅ぼされた。

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