第228話 スキルと因果
三獣獅は捕らえられた。
金髪の戦士は苦しそうに地面を這いつくばっていたので、僕はニコに頼み込んで彼を治癒し、捕虜の一人に加えた。
目の前に助かる命があるなら、それは助けた方がいい。
百獣門での戦いで、嫌と言うほど戦争の厳しさと凄惨さを知った。
戦争なのだから邪魔をするなら殺すが、そうでなければ無闇な殺生は避けたい。
なんて思ったが、しかし考えてみれば南門を守っていた守備兵を
こんな考えも、ひょっとすると僕の欺瞞なのかもしれない。
それでも、ダメで元々、なんて気分で頼んでみると、ニコとライカはあっさりと承諾した。
金髪の戦士を治癒するニコに、僕は一つの疑問を投げかける。
「なあ、ニコ。どうして
ライカとニコの戦術の話である。
ライカは自ら金髪戦士の攻撃を受けることで、彼に
今にして思えば、
ライカが即死した場合、流石にニコの
僕はライカやニコが傷つく姿は見たくない。
出来れば、この戦法はこれっきりにして欲しいところではあるのだ。
そんな僕の疑問に、ライカが答える。
「
僕の憐れみの視線に気付いた汗臭い原始人のモノロイが「……左様で」なんて言う。
心無しか、少し悲しそうな表情である。
イズリーから解放されても、実験体にはされていたらしい。
ウチの女性陣は本当に彼に容赦がない。
ライカの答えを補足する形でニコが続ける。
「おそらく、スキルの特性によるものかと。……
因果に干渉。
……なるほど、全くわからんぞい。
僕の気持ちが、彼女には筒抜けなのだろう、ニコはさらに詳しく説明を加えた。
「因果とはつまり、原因と結果です。
僕は以前、ニコに自分の目に
結果は、見ての通りである。
つまり、生まれつき目の見えなかったニコには、視覚を失うという因果が存在しなかった。
存在しないものを打ち消すことはできない。
だからこそ、それがどんな大怪我でも簡単に治癒してしまう。
ニコに手足をもぎ取られたバザンの部下がいたが、彼に手足がニョキニョキと生えたのは、そういった理由なのだろう。
ニコに手足をもぎ取られた過去そのものが、無かったことになったわけだ。
ニコは言葉を続ける。
「一方で姉さまの
それが、
因果を打ち消す能力と、因果を書き換える能力。
そして、
なんだか小難しい話だが、この因果への干渉というのには心当たりがある。
僕の
そうしてスキルや魔法を簒奪するわけだが、これは僕と相手の因果に干渉した結果なのではないだろうか。
相手から熟練度を上げたという過去を奪い、自分が熟練度を上げたことにする。
因果を奪ってしまう能力。
だからこそ、一度奪ったスキルは二度と奪うことができない。
なぜなら、僕にそのスキルの熟練度を上げたという因果が存在するからだ。
おそらく、
だからこそ、自分がすでに会得しているスキルと魔法は奪うことができない。
しかしそれって、僕が独学でスキルや魔法を覚えるほど、
努力すれば努力するほど損する気分になる。
疑問が一つ晴れることでスッキリするかと思いきや、僕はなんだか釈然としない気持ちになった。
「ならさ、ギレンの未来予知は? アレも、因果に干渉してるのか?」
ニコは言う。
「勇者の持つ
僕は
「これは推測ですが、勇者ギレンの未来予知はスキルへの因果ではなく人への因果に干渉するのでしょう。だからこそ、主さまは
スキルを使う人間の未来が視えるなら、どんなスキルを使うかもどこに魔法を撃つかも解る。
本来であれば。
しかし、スキル自身が術者を操って戦うスキルというのは、
となると、
スキルは奥が深い。
そもそも、魔法とは違って水のない場所に水を創り出したり出来るのがスキルなのだ。
それももしかすると、因果への干渉なのかもしれない。
魔法とスキルの最大の違いは、その因果への干渉という部分にあるのではないだろうか。
僕は以前より開発を進めていた『神』と会う魔法に、それが応用できないものかと考えを巡らせる。
僕にニコくらいの頭脳があれば、ひょっとすると簡単に創り出せてしまうのかもしれない。
僕たちがそんな話をしながら、南門から一直線にカイレン中心部に進むと、すでに東門を突破したイズリーの部隊が大きな建物を取り囲んでいた。
カイレンの議事堂だ。
白い大理石で造られた一階建の大きな建物は、硬く門を閉ざされている。
ことここに至って、未だにタスクギアは降伏を選択しないようだ。
カイレンの住民はほとんど抵抗せずに投降しており、北門から侵攻したミリアの本隊が彼らを一箇所に集めている。
イズリーは僕たちに気付くことなく、議事堂に向かって大声で叫ぶ。
「こんにちはー! 王国軍、
こんなふざけた人に滅ぼされるタスクギアが、僕は不憫でならなかった。
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