第193話 結成
僕たちは軍を再編して獣人国に進軍を始めた。
獣人国へは、王国北西の平原から樹海の西側を通りエルフ国の領地を迂回するように伸びる街道を通る。
途中、何度か魔物に襲われたが、獣人国側から迎撃されることはなかった。
ミリア曰く、すでに外敵の侵入を防ぐ国力すら、獣人国タスクギアには残されていないのではないかとのことだ。
隊列を組んで進む馬車の窓から、ニコへの負債から共に参陣することになったパラケストと、その弟子イズリーの会話が聞こえてきた。
二人は僕とハティナとニコが乗る馬車と並走する形で、馬に乗っている。
「ええか、イズ。お前さんはも少し我慢てもんを学ばにゃいかん。
パラケストがイズリーに噛んで含むように言う。
「はい! お師さん!」
そんなパラケストに、イズリーは元気に返事をする。
「ハティを見てみぃ、あの嬢ちゃんは賢いんじゃぜ。あの娘っ子は小せえが、見てるもんは常に物事の本質を捉えよる。イズも見習ったらいいんじゃぜ」
「はい! お師さん! そうなの! ハティナはね、すーっごく頭良いんだよ! あたしも、も少し頭が良かったらいいのにねえ」
「……はあ。イズよお。俺の話、伝わっとるんじゃぜ?」
「はい! お師さん!」
……伝わって無いと思う。
僕は彼女に関しては詳しいんだ。
たぶん、今のイズリーの脳内はハティナを褒められて嬉しい気持ちでいっぱいだろう。
「……よし、わかったんじゃぜ。イズ、次に魔物が出たらな。お前さんは、戦ったらいかん」
「はい! お師……ええ! 何で?」
満面の笑みをコロっと驚愕に変えたイズリーが言う。
「ええか。戦場で一人の魔導師の力なんてのはたかが知れとる。指揮官なら、自分の兵士を上手く使いこなして戦に勝たにゃならんのじゃぜ。自分が相手の指揮官を倒しても、味方の兵士を多く殺されたら、そりゃ負けじゃぜ。戦ってのは、そういう勝負なんじゃぜ。だからな、イズ。次に魔物が出たら、お前さんが隊を率いて魔物を倒すんじゃぜ。お前さんは戦わずにな」
「……はい。……お師さん」
あからさまにしょんぼりとしたイズリーが頷く。
そして、俯いたまま上目遣いでパラケストを見たイズリーが言葉を続けた。
「……でも、あたし、隊長じゃないよ?」
「ほーん。お前さんほどの力があって隊を任されてねーってこたあ、つまりそんだけお前さんの問題は根深いってことじゃぜ。……そんなら、んー、……おい、お前さん、名は何と言う?」
パラケストは何か思いついたように、イズリーの馬の手綱を握るタグライトに呼びかける。
「は! あっしは、タグライト・メカデリアです! イズリーの姉御の舎弟をやらして貰ってます!」
それを聞いたパラケストは、ポンと手を打った。
「ほーん。ちょうどいいのがいるんじゃぜ。ちょいとミリアの嬢ちゃんにナシ付けて来るか!」
そう言い残して、パラケストは馬に鞭を打ってミリアのいる隊列の先頭に駆けて行った。
しばらくして、パラケストが馬車まで帰って来た。
「イズよお、お前さん、非公式な部隊を任されとるそうじゃぜ……」
「……そうなの?」
「そうなの? って、お前さん、そりゃ俺が聞きたいんじゃぜ」
「……よくわかんない」
しょぼくれたイズリーはそう言って深いため息を吐いた。
「ま、まあええや。ほいでな、何やら部隊の逸れもんを集めたお前さんの部隊な、正式な部隊として認めさせたんじゃぜ」
「……ふうん」
「ふうんって……。まあ、シャルルの許しがあればって条件だったけんど、まあアイツはどうにかなるんじゃぜ。ほれ、アイツ、お前さんにゾッコンなんじゃぜ。それに、アレは賢い割に抜けてっかんね。ありゃ、賢い馬鹿だ。何とかなるんじゃぜ」
……。
……それ、ここで言う?
僕に聞こえる場所で僕の陰口叩くんじゃないよ。
僕は馬車の中でため息を吐く。
「……シャルルは賢い。……それに偉い」
ハティナがそう言って僕の頭を撫でた。
僕はあっさりと心の溜飲を下げる。
馬車の外で、進軍しながらパラケストがイズリーの舎弟たちを集めて、彼らに聞こえるように言う。
「お前さんら、イズの舎弟たちをミリアの嬢ちゃんが正式な隊として認めたんじゃぜ! それに、後見人はこの頭が良い上に顔も性格も良すぎて女にモテまくりの震霆パラケスト・グリムリープが務めちゃる!」
……師匠。
たぶん、あなたのアピールポイントはそこじゃないんじゃないかなあ。
この人の孫だと思われるの、少し恥ずかしいんだが。
僕の思いを置き去りに話は進む。
「その名も! 王国愚連隊! スーパー……えーっと、あー、何だ、イズリー……、ええと、イズリー、んー、ブラザーズ……?」
どんな安易な部隊名だ。
最後聞いちゃってるし。
スーパーイズリーブラザーズだあ?
桃みたいな名前のお姫様を事あるごとにデカい亀の化け物に攫われてしまうキノコでデカくなる配管工のおっさんみたいじゃないか。
そういうゲームがあったぞ前の世界に!
僕の脳内にツッコミの嵐が吹き荒れる。
『うおおおおおおおおお!』
『震霆様が名付けて下さったぞ!』
『最高だあ! スーパーイズリーブラザーズ!』
『俺たちの部隊名に相応しい!』
『なんて可憐で勇猛な響き!』
『俺、イズリーさんのために死ぬ!』
『俺もだ!』
『決めた! 俺が真っ先に死んでやるんだ!』
『何い! 俺が先だ!』
『いや、俺が!』
……彼らはそれで良いらしい。
彼らが良いなら、まあいいか。
僕は考えることを全て諦めて、馬車の窓から首を出して盛り上がっている
「君たちが死ぬと僕のイズリーが悲しむから死んでも死なないでね。あと、僕のイズリーに何かあったら一族郎党皆殺し」
『あ、はい』
僕の言葉で盛り上がっていた
僕が馬車に首を戻して座り直すと、ハティナが鋭い目つきで睨んできた。
僕は音速より速く彼女に頭を下げた。
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