第151話 魔王の秘密

 トークディア老師はライカたちのステータスプレートを覗き込んで驚きの声を上げた。


「ほう! これは、見たことのないスキルがてんこ盛りじゃのう」


 ほくほく顔でステータスプレートを覗き込む老師を見ながら、僕はお茶をすする。


 ここは王城に備えられたトークディア筆頭魔導師の私室だ。


 僕は九つの新発見のスキルの話を聞いた老師に呼び出されていた。


 立場で言えば、今や宰相である僕の方が偉いわけだが、彼は僕の師であり命の恩人。


 やはり彼にだけは頭が上がらないのだ。


 まあ、僕の頭が上がらない相手はかなり多いが。


 なにせ、家のメイドであるニコにすら上がらないのだ。


 転生してもこの一般人気質は抜けないのだろう。


「それで、試してみたのか?」


 老師はステータスプレートを眺めたまま言った。


「いえ、危険な効果を持つスキルや何かしらリスクのあるスキルもあるかもしれませんので……。ある程度の推測が立つスキルであれば、試してみるのも良いかとは存じますが」


「そうよのう。この、ニコの持つ創造の結実クリエイションじゃがの。これは、まず間違いなく死者蘇生じゃろう。しかし、このスキルは南方の魔王と深く繋がりのあるスキルかも知れぬぞ」


「何かお心あたりが?」


「うむ。南方の魔王のスキルで、いくつか割れておる物がある。これは、伝説や伝承の類の話でしかないがのう」


「魔王のスキルが判明しているのですか? そのような情報は、どこにも記載がありませんでしたが」


 ハティナとニコには、南方の魔王について調べて貰ったことがあった。


 しかし出てくるのは、魔王がいつ頃現れ、南方を死地に変えたという逸話ばかり、その素性に迫るものは一切発見できなかった。


「エルフの国にある魔導図書館に、魔王の出生を記した文献が存在するそうじゃ。儂も若かりし頃よりスキルの探究には目が無くてのう。一度、外交でエルフの国に行った際にそのスキルの一部を教えてもろうたことがあった」


「エルフが魔王の出生の情報を持っていると?」


「うむ。奴らは……そう、排他的な種族でのう。他国に重要な情報を渡すことを何よりも渋るのじゃ。儂もその文献の公表を強く訴えたがの。奴らは断固として拒否したのじゃ。何か、やましいことでもあるのじゃろ」


 人類が団結して立ち向かわなければならない状況で、敵の親玉の情報を隠す。


 確かに不自然だ。


「……やはりエルフは信用なりませんね。特に、男のエルフは。……女性のエルフは良いですけど、男のエルフは許せません」


「ほほほ。あの小さかった坊も、今では立派な男かのう」


 老師はそんなことを言って笑い、話を続けた。


「南方の魔王が魔物を創り出し、世界を危機に陥れた。これは事実じゃ。何か、気付くことがあろう?」


「……どうやって、魔物を創り出しているのか。……ですか?」


 トークディア老師は頷く。


「うむ。魔法は、その特性として基本的には攻撃するための物しか存在せぬ。中には相手を捕縛したり防御するための物も存在するが、それは全て威力や効果を調整した物に過ぎぬ。標的に向けて魔力を打ち出す。コレが魔法の真髄じゃからの。……これはつまり、魔物を創り出す。そんなスキルが存在することを意味しておる」


 確かに、懲罰の纏雷エレクトロキューション法衣の纏雷ニューロクロス冥轟刃アルルカン堕落の十字架サザンクロスも、一応は攻撃手段としての魔法を転用した物だ。


 新たな生命を創り出す。


 これは確かに、スキルである可能性が高い。


「魔王のスキルの一つに、想像の結実イミテイションというものがあるそうじゃ。……似ているとは思わんか?」


 想像の結実イミテイション


 確かに、ニコの創造の結実クリエイションと対極にあるスキルのようだ。


「……ニコの持つスキル。創造の結実クリエイションは、魔王のスキルと関係が?」


「わからぬ。わからぬが、儂は魔王の持つ想像の結実イミテイションこそ、魔物を創り出すスキルな気がしてならぬ。全ての魔物は、現存する動物や植物に似た形を持っておる。……これはつまり、現存する生物を魔物に変えておるのではなかろうか」


「生物、もしくはその死骸を触媒として、魔物を創り出している?」


「坊はデュラハンを討伐して、かの魔物が落とした素材を目にしたかの?」


「……? いえ、素材集めは兵士に任せておりました」


「デュラハンの落とした素材は、鎧じゃった。まず間違いなく、人類の創り出した物じゃ」


「太古の昔の騎士や、南方征伐で戦死した者を触媒に創り出した可能性があると。そう言うことですか?」


「うむ。可能性の話じゃがのう」


「……おかしな点があります。ホーンベアと言う魔物。あの魔物が落とすのは角ですよね? 本来、熊に角は生えていません。これは、どういうことなのでしょう? 魔物が残す素材が、触媒にした生物の置き土産であるならば、これは説明がつきませんが」


「南方に生息する熊には、角があるそうじゃよ。あそこまで大きな角ではないそうじゃがな」


 ……マジですか。


 ……見てみたいな。


「なら、死者が多く出る大軍での南方解放は愚策なのでは?」


「かも知れぬの。何にせよ、エルフに文献の公表をさせることが、南方解放への近道かも知れぬ。儂の知らぬ情報も書かれておるはずじゃからの」


「……わかりました。南方の解放に必要なのであれば、彼らにも協力して貰いましょう」


 そこまで話が進んだ時、部屋の扉がノックされた。


 トークディアの許しを得て入室してきたのは、八黙の一人、黙示のコッポラだった。


 彼女はアーゴン・ランザウェイの一件の後、王都に残ってニコの手足となって働いていた。


 僕が許しを出したこともあり、王城にも自由に出入りできる。


 コッポラは跪いて言う。


「……神よ。……皇国から使節団が参りました。……おそらく、ニコ様の件かと。……現在はミキュロス陛下が対応しております。……それとは別件で、帝国が軍を樹海近郊まで進めてきました。……現在、目下モルドレイ卿が対応なさっております。……かなり小規模なようですが、軍事衝突も視野に入れる必要ありとのことです。……魔王の尖兵ベリアルの密偵によれば、現在、帝国皇帝は病床にあるとのこと。……国の統制が取れていない可能性も考慮すべきかと愚考します」


 エルフをどうにかしようって時に、面倒事は続くものである。


 皇国と帝国は連動しているのだろうか。


 元々、仲は良くないそうだが。


 しかし、皇国の使節団てのはニコを奪いに来たのだろう。


 僕は思う。


 面倒だから皇国から片付けてしまおう。


 ニコは今では僕の右腕で、さらには聖女として南方の解放に必要な人材。


 僕から仲間を奪おうってなら、教えてやる。


 魔王の恐ろしさってやつを。

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