第141話 もう一人の。
僕とライカでデュラハンを攻撃する。
デュラハンは器用に馬を操って僕の魔法を潜り抜け、ライカの斬撃をその槍で受け止める。
起動後最速を誇る雷魔法を簡単に躱すのだ。
念しに近い力、もしくはこちらの魔法の発動と起動を読んでいる。
ミリアやハティナの魔法は躱さず受け切る。
もはやデュラハンからしてみれば、僕とライカの攻撃以外は意に介さないということだろう。
……賢い。
魔物に知性があるとも思えないが、このデュラハンは確かに、考えて戦っている。
自分が攻撃をくらってダメージを負うと、すぐに味方の魔物を殺して回復する。
軍勢を率いたデュラハンは、正に無敵に近い。
暴走状態のイズリーとライカがデュラハンに接近して挟撃する。
デュラハンは骸の馬に乗った魔物。
馬上から振り下ろされる槍の威力は桁違いだ。
ライカはデュラハンから繰り出される槍を上手く躱し、正面からデュラハンに斬りかかるが槍の刃部とは逆側の石突で防がれる。
その隙を突くように真後ろからイズリーが飛びかかったが、デュラハンの駆る馬が後ろ蹴りでイズリーを吹き飛ばした。
イズリーは後方に飛ばされ、地面に着地する。
上手くグローブで防御したらしい。
しかし、イズリーが無事かどうかなんてことは、もはや僕には関係なかった。
やりやがった。
こいつ、やりやがった。
イズリーに攻撃を当てた。
それだけ。
ただそれだけで、僕のスイッチは完全にオンになる。
──
僕の内側にドロドロとした怒りが渦巻く。
僕は自分の感情を上手く言葉にできないまま、デュラハンに向かって呟く。
「ま、魔物風情が……俺の天使を……足蹴にしやがったってのか……? お、お前……それをやったら……──」
デュラハンは何かを感じ取ったように僕に向き直る。
「──それをやったら戦争だろうが!」
デュラハンを乗せた骸の馬が嘶く。
僕は内なるスキルに向かって言う。
全力だ。
全力で潰す。
アレは滅ぶべきだ。
滅ぼせ。
滅ぼす!
──
僕は脱力する。
それでも、僕の胸の辺りでは怒りが気炎を上げている。
──
──
──
──起動。
僕の額に冠が。
僕の背中に翼が。
右手のソフィーから雷剣が生える。
デュラハンがライカを退け、僕に向き直ったまま、近くにいた魔物を喰らって魔力を回復した。
「懺悔セヨ。惰弱ナル者。世ノ理ヲ知ルガ良イ。魔ノ深淵カラ生マレシ者ガ、魔王ノ眼前ニ立ツ事ノ愚カサヲ」
僕は真っ直ぐにデュラハンに飛ぶ。
デュラハンが槍を振りかぶるイメージ。
僕の怒りは腹の中で蜷局を巻き、そして一気に解き放たれる。
──
僕の廻しで最大限の出力を得た至近距離からの
絞りによってその威力を一点に凝縮した
初級魔法の
デュラハンがのけぞる。
僕はそのままデュラハンが駆る骸の馬の足を両断した。
いつもより刀身が短い、しかし、斬れ味は段違いだ。
馬の前足が切断されて塵に変わる。
デュラハンは前向きに落馬する。
──
またしても僕の左手の指先から閃光が飛ぶ。
デュラハンの腕が弾け飛ぶ。
勝負は決した。
あとは止めを刺すだけ。
そこで、僕は
確かめなければならないことがある。
コイツの戦い方は異質だ。
それにはきっと、理由がある。
僕は、地に伏し今にも塵に変わってしまいそうなデュラハンに手を翳して魔力を通す。
デュラハンの周りの魔物に繋がる系。
その中から最も太い糸を探る。
その太い糸はすぐに見つかった。
そして、そのまま僕はその糸を手繰り寄せる。
すると、逆に僕の意識が引っ張られた。
僕のイメージが糸の方向に引っ張られていく。
遥か遠く、遠く、遠く。
南の最果て、一本の大樹。
天を衝く大樹の根本に、神殿がある。
その内部に、深い闇が広がる。
闇の中、僕の意識はさらにソレに近づいていく。
暗黒が広がる空間。
そのなかで、誰かが玉座に座っている。
男だ。
ゆっくりと、男は目を開く。
憎悪に染まった瞳。
この世の全ての悪辣を具現化したかのような、射殺す眼差し。
──ゾク。
と、僕の背中に悪寒が走った。
僕の通しは切断された。
『あの男』に、切られたのだ。
「お前が……」
僕は呟いた。
僕は、半ば本能的に理解した。
僕たちは、唐突に出逢ってしまった。
あの闇の中に座した男。
アレが、もう一人の魔王だ。
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