第99話 深謀の魔導
「虐殺、虐殺ぅ!」
イズリーが帝国魔導師相手に暴れ回る。
「我らも続くぞ!」
「ああ!」
アスラの声にウォシュレット君が答える。
アスラとウォシュレット君はギレンに魔法を放つ。
ウォシュレット君は
直径5メートルほどの水弾と火球がギレンを襲う。
「神の意志の
ギレンはその言葉を残して火と水が起こした爆風に消える。
砂煙が晴れる。
当然のごとく、ギレンは健在だった。
「ふはははは! この程度か! 王国魔導師! 効かぬ、効かぬ! 余を打ち倒すには、火力が足らぬわ!」
おそらく防御スキルだろう。
しかし。
僕の
だとすれば、あの強度はおかしい。
必ず何か秘密がある。
僕はジッとギレンを観察する。
ギレンはアスラとウォシュレット君の魔法を防ぎながら、二人に接近する。
ギレンがアスラとウォシュレット君を相手取っている間に、イズリーが帝国魔導師の最後の一人の顔面に拳を放った。
帝国魔導師が吹き飛び気絶する。
首輪から赤い光が漏れた。
イズリーは帝国魔導師の全てをリタイアさせてご満悦だ。
残るは勇者一人。
こちらは僕を含めて四人。
勇者ギレンはどれほどのものだろうか。
イズリー、アスラ、ウォシュレット君の三人を相手にしては、僕でも流石に……。
僕はこのままギレンが倒されて終わりだと踏んでいた。
しかし、それはあまりにも甘い考えだった。
アスラの
イズリーは念しで完全に気配を絶っていた。
僕やミリアでも感知できないだろう、その不意の一撃を、ギレンは見ることもなく避けた。
「あれ⁉︎」
イズリーから間抜けな声が漏れる。
「まず一人」
ギレンが言う。
イズリーを袈裟斬りにする形で斬撃が入る。
イズリーの首輪が赤く染まる。
戦闘に関しては敵なしと言える、イズリーがリタイアした。
そして、同時に僕のスイッチも入る。
首輪の魔道具がある。
イズリーは無事だ。
しかし。
しかしだ。
関係ない。
関係ないんだ。
あのクソったれは僕の天使を傷つけた。
それだけでもう、僕を魔王たらしめるに、充分な理由なのだから。
「二人目」
ウォシュレット君が斬られてリタイアする。
「まだ私が──!」
アスラの言葉が終わるより早く、アスラは斬られていた。
「三人目」
ギレンは王国魔導師でも屈指の実力を持つ三人を一瞬の内に倒し、僕に向き直る。
「……残すは魔王のみ」
奇しくも、魔王と勇者の一騎討ちとなる。
「イズリーを……斬ったな? ……望み通りに滅ぼしてやるよ。……この国ごとなあああ!」
僕は叫んだ。
ギレンは不敵に笑う。
「ふ。いつか君は言ったな? 弱い正義は悪だと。ならば、決めようじゃないか。この場で。どちらの正義が正しいか!」
ギレンが僕に接近して斬撃を飛ばす。
僕は
ギレンの剣を僕の雷剣が受け止めた。
バチバチと音を鳴らしながら、ギレンの剣に僕から電撃が伝う。
ギレンは感電しない。
僕は
このまま魔力を通して
「……! スキルを奪う気か⁉︎」
ギレンは慌てて僕から離れた。
僕の中に一瞬の驚愕が走り、疑念が渦巻く。
タッチの差で
それだけじゃない。
スキルの権能を見抜かれた。
それも、使う前にだ。
あり得ないことだ。
ギレンは念しを使ってない。
実際にギレンに一瞬だけ魔力を通して確信した。
だからこそ理解できる。
コイツは異常だ。
イズリーの背後からの攻撃を避け、僕の
どんなに勘が鋭いとしても、躱せるものだろうか? 念しで気配を消したイズリーの不意打ちを。
そして何より、見抜けるものだろうか?
あるとすれば、二つの可能性。
その中から僕は、消去法で一つの答えに行き着く。
僕の中に確信が生まれる。
ヒントは
スキルを奪うスキルという、チートも良いところなスキル。
僕とギレンが持つ、スキルの相関性。
だとすれば、ギレンも
そして、イズリー。
イズリーの念しは完璧だった。
アレを躱すとなると、これはもう神業に近い。
二つの可能性の内一つは、『心を読む』スキル。
つまり、読心のスキル。
無くはないだろう。
しかし、イズリーとの戦闘でギレンはヘマをした。
彼女は意外と考えて戦闘を行う。
ギレンを出し抜いた、あの奇策。
ギレンはまんまとイズリーに手玉にとられた。
アレが最大のヒント。
イズリーはギレンに飛び掛かると見せかけて、背後の魔導師を狙った。
その際、ギレンのすぐ横を通過したわけだ。
もしギレンの持つスキルが読心のスキルであれば、そんな行動を許しただろうか?
彼女の策を読み、すれ違い様に斬りかかれたはず。
あの時、ギレンは心底驚いていた。
つまり、ギレンは心を読めるわけではない。
だとすれば、答えは一つ。
「余の秘密に気付いたか?」
ギレンが言う。
「……未来予知か」
僕は言う。
おそらく、ギレンのスキルは一瞬先の未来を読む能力。
それも、『自らに関わる未来』を読むスキルだ。
イズリーの策は『ギレンの未来に関わらない行動』だったから、ギレンは驚愕したんだ。
「ご名答。余のスキルは
僕も戦闘の時は頭が良く回る。
そんなことを思うと同時に僕の中で、『神』はどんな壊れたスキルを与えたんだと、呆れと怒りで
流石は勇者。
どの世界でも、勇者とはチート性能の持ち主らしい。
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