第67話 グリムリープvsレディレッド
僕とアスラの決闘は、アスラの魔法から始まった。
「まずは小手調べだ。
グエノラの使っていたスキル。
やはりアスラも使えるらしい。
僕の頭上に火の玉が出現し、そのまま落下してくる。
僕は
僕の眼前に落下した火の玉が巻き起こした爆炎の向こうで、アスラが後方に吹き飛んだ。
回避と同時に僕が放った
それでもアスラはすぐに立ち直って
最初の一発目は、
後から遅れて来た火の玉は、前方に壁のように展開した
アスラに焦りと驚愕の表情が現れる。
僕はアスラに向けて
しかし、アスラは華麗な体捌きで
全系統中、起動後最速を誇る雷魔法。
しかも無詠唱のそれを避けるとは、アスラはやはり相当強い。
完全に魔法が発動するタイミングと軌道を読んでいないとできない芸当だ。
おそらく、四則法習得前のミリアよりも格段に強い。
魔法を使う不良なんて言うタチの悪い奴らを取り締まる学園の風紀委員会。
そんな血気盛んな戦闘集団である風紀委員会を率いている彼の実力は本物だ。
アスラは呪文を唱える。
彼の目の前に炎が揺らめき、それがゆらゆらとねじ曲がって人の姿を形作る。
血統系スキル。
レディレッドの血統を持つ魔導師、その中でも特に強力で豊かな才を持つ者にのみ発現するという秘技。
むしろ、
レディレッドの始祖であり、リーズヘヴン王国建国以来唯一、『宰相』という王に並ぶ階位を得た最強の大魔導師。炎獅子の異名を持つ、マーリン・レディレッドの代名詞とまで言われるスキルだ。
マーリン・レディレッドはこのスキルを持ってして、初代国王と共にリーズヘヴン王国の建国を成し遂げた。
リーズヘヴンで最も古く、最も格式の高いスキルである。
アスラがこのスキルを使うということは、彼は本気で僕に勝ちにきている。
そして同時に、彼は奥の手を曝け出すほど精神的に追い詰められてもいる。
人型の炎はぶくぶくと膨張して、3メートルほどの高さにまでなった。
圧縮された炎の身体を揺らし、その首周りからは獅子のたてがみのように火炎を吹き出している。
まるで、獅子の頭を持つ炎の巨人。
さらにアスラは僕がエルフから奪った火系統魔法の
アスラの周りに火の玉がふわふわと浮かぶ。
僕はアスラに向けて
おそらく、ウォシュレット君の使った
火の玉が身代わりになって術者を守るのだ。
僕は目の前の炎の巨人に
雷を受けて、炎の巨人の腕が消えた。
しかし、すぐにその炎は再燃し、失くした腕を再生させる。
アスラが魔力切れになるか、戦闘不能になるまで、この巨人は再生し続ける。
さらに本体であるアスラは無数の火の玉で守られている。
これで僕からの魔法を防ぎ、
つまりこれで、僕はアスラに手も足も出なくなったわけだ。
──今までの僕だったなら。
僕は腰のベルトからワンドを引き抜く。
ヒノキオではなく、ヘルベルト爺さんに貰ったソフィーの方だ。
漆黒のワンドを指先で撫でてから
ヘルベルト爺さんから貰ったのはソフィーとコウモリの紋章と四則法だけじゃない。
別れ際に教わった魔法。
ヘルベルト爺さんの編み出した新魔法だ。
──
ワンドに通した雷系統の魔力を、圧縮しながら廻すことでワンドを柄とした電気の剣を作り出す魔法。
刃渡りは1メートルほど。
刀身は雷。
バチバチと音を立てながら、ソフィーの先から雷剣が生える。
「な……んだ。その魔法は?」
アスラが動揺する。
戦士や騎士に対して魔導師が持つ、射程距離という圧倒的なアドバンテージを捨てるような魔法に、アスラの理解は追いついていないのだろう。
この魔法はまさに、至近距離特化型。
そして、僕が今、最も欲していたタイプの魔法。
おそらく、何度も何度も僕を負かしたヘルベルト爺さんが、僕に最も足りない魔法を教えてくれたのだ。
僕は
この新魔法で、アスラを倒す。
魔導学園で最強の魔導師であろう、アスラ・レディレッド。
彼に圧勝できないようでは、演武祭を制することなどできないだろう。
それに、僕の真の狙いは勇者。
話し合いで全てのしがらみを解決するのは、ほとんど諦めた。
帝国は勇者に絶対の自信を持っている。
ならば、モルドレイが言っていたように、南方の解放は王国を滅ぼしてからと考えるだろう。
それならば。
帝国が僕に協力しないと言うならば、せいぜい魔王らしく振る舞ってやる。
圧倒的な力で勇者を降して、帝国の侵攻に
僕と敵対することを恐怖させる。
精神的に、この国を恭順させる。
その後で、ゆっくりと南方を解放する。
アスラとのこのタイミングでの戦い、僕にとっては自分の力を測る良い試金石となる。
「アスラ委員長。僕は、演武祭を制しますよ」
アスラが不思議そうな顔で僕を見る。
「当然だ、そのために我々は──」
「いえ。違うんですよ。僕の目的は、そうじゃない。僕はね、委員長──」
僕は一度大きく息を吸い、そして吐く。
これは、決意表明。
いや、もしかしたら大言壮語かもしれない。
「──ただ一人でこの大会を制する」
「……!」
「僕が各国の強豪、豪傑、大魔導師、あるいは異端。あるいは人外。その全てを飲み込み、平らげ、地に膝をつかせる。リーズヘヴンに魔王在りと、世界に知らしめる」
アスラは沈黙している。
「ですから委員長。まずは……学園最強のあなたを降す。リーズヘヴンに、いや、世界に。最強は二人もいらない。……僕だけ。最強は、僕だけでいい」
そう言って僕は炎の巨人に接近する。
アスラに生み出された炎の巨人がその剛腕を振り下ろす。
それを紙一重で躱して、その腕を叩き切る。
炎の巨人が四方に放つ炎熱は、
「無駄だ!
巨人の腕は再生しない。
僕は巨人の腕を切った時に、同時に雷の魔力を巨人に通した。
巨人は炎だ。
感電することはない。
それでも、再生箇所に異物となる雷の魔力が滞留すれば、その再生を妨害できる。
そうして、僕は一方的に蹂躙する。
僕より倍以上大きな巨人を、ただ一方的に切り刻む。
そして、炎の巨人はその姿を留めておくことが出来なくなって消えた。
「矛は折った。次はその盾」
そう言って、僕は
『廻し』で数倍に威力を高めた大魔法が炸裂し、アスラの周りに浮かんで盾となっていた火の玉を根こそぎかき消す。
アスラは
しかし、そのアスラの喉元に雷の剣が突きつけられる。
廻しと
急加速から急停止したせいで、僕の足元から摩擦熱による煙が昇る。
「……降参だ」
アスラはワンドをポトリと落とした。
ここに、勝負は決した。
僕は宣言通りに、王立魔導学園最強の実力を持つ大魔導師、アスラ・レディレッドを降した。
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