第36話 新入生
委員会での配属決めによって、
「一年A組! グエノラ・マグメルですよ! 得意な魔法は火ですよ! メラメラ燃やすですよ! ……あ、今年で十歳ですよ!」
新たに
小柄なイズリーよりもさらに小さい小動物的な少女だ。
一発合格組。
おそらく優秀なのだろう。
赤毛に赤い瞳が特徴的だ。
レディレッド家の人たちに近い容姿をしている。
「メリーシア・マリアフープ。好きなものは毒と薬。嫌いなものは太陽」
次に自己紹介した女の子はなんだか陰気な印象を受ける。
……好きなもの毒?
魔女っぽいやつ来ちゃったな、と僕は思う。
彼女も一発合格組で僕の一つ下だそうだ。
綺麗な黒髪で、顔立ちは美人のそれだが前髪で左目は完全に覆っていて、右目の下の大きなクマが幼さを消している。
ツバの大きな黒いとんがり帽子とロングスカートタイプの制服を着ている彼女はなんだかやっぱり魔女っぽい。
いや実際、魔女なんだが。
最後に男子生徒の自己紹介になった。
「ちっす! 自分はイーガー・イベルダンっす! モノロイさんに憧れて
モノロイに憧れて……だと?
つり目で短い金髪の彼は少しヤンキーチックな雰囲気だ。
何だかどこかで見たような気がする。
「む。我に憧れたと? なかなか見どころのある新人のようだな」
モノロイは満更でもないらしい。
「暴姫イズリーさんの鬼のような技を全てその肉体で受け止める姿! まさに漢っす! モノロイさんは一年の間じゃ、めちゃめちゃ有名っすからね!」
確かにモノロイは度々イズリーの技の実験台に──ほぼ強制的に──なっている。
なるほど、微塵の抵抗も許さないイズリーの技の冴えを、逆にモノロイがその肉体で受け切っているように見えてしまったのか。
しかしイズリーはともかくモノロイが有名?
「モノロイってそんな有名なの?」
僕の問いにイーガーが答える。
「鉄人モノロイと言えば、魔王、双媛、天才に並ぶほど有名っす! その鋼のように鍛え抜かれた肉体! 王子ですら
入学前から知ってた?
「実は自分の兄も、学園の学生だったっす。去年、卒業したっすけど。で、兄はやんちゃでしたからね。シャルルさんに半殺しにされたんすけど、モノロイさんに助けられたんだって言ってたっすよ!」
モノロイに助けられた?
半殺しにした不良ならたくさんいるが……そんなことあっただろうか?
「シャルル殿、アレではござらんか? 殿下を校門に磔にした時、金髪の不良が──」
あー!
思い出した!
金髪リーダーか!
確か磔にする寸前で目を覚ました彼を、モノロイが身を挺して庇ったんだったな。
「彼の弟か!」
「そっす! あの時、兄は死を覚悟したらしいっすけど、モノロイさんが助けてくれたんだと感謝してたっすよ! その話が伝わって、今じゃ魔王と暴姫を止められるのは学園にモノロイさんだけって話っす!」
なるほど、色々繋がった。
確かに、イーガーの顔立ちも髪型も金髪リーダーに似ている。
魔王と恐れられるのはもう仕方ないが、制御装置が近くにあると思われていれば皆安心するかもしれないな。
ということで、モノロイだけが僕とイズリーを止められると言う話を否定することはしなかった。
「モノロイくん! よかったね! あとでまたバックドロップのジッケンダイになってくれる?」
ナイスなタイミングでイズリーがお願いする。
彼女は上目遣いで頬を少し赤らめている。
うーん、可愛い!
イズリーは計算でなくこういうことができる天賦の魔性を持っている。
というか、ここ最近イズリーは髪を伸ばし始めたのもあるのか、かなり可愛くなってきた。
「い、イズリー殿⁉︎ バックドロップとは先程、仰っていた?」
「うん! シャルルがね? 危ない技だけど、イズリーならできるよって!」
……そんなこと言ったかな?
イズリーには確か、危険な技だから注意するようにとは言ったが……。
「モノロイさん! 自分もモノロイさんが難なくイズリーさんの技を受け切るところを見たいっす!」
あ。
これは逃げられないパターンだ。
モノロイ終わったな。
「その魔道具! 魔毒師メルビンの作では⁉︎ まさかまさか、しかもそれ、ヒュドラシリーズでは⁉︎」
魔道具オタクのキンドレーは、メリーシアが腰のベルトにさした短剣を指差して叫んだ。
「あら。鋭いわね。これはメルビンの六十四年ものの毒剣、銘はヒュドラパージよ」
「すごい! メルビンの短剣なんて、めちゃくちゃレアじゃないですか! それに六十四年ものと言えばヒュドラシリーズの全盛期!」
「その通り。学園にメルビンの良さがわかる人がいて良かったわ。こうやってこれ見よがしに腰に着けてるのに、誰も気付かないのよね。だから魔道具に詳しい人がいるって言う、魔王の
「こんなすごい魔道具の価値がわからないなんて信じられません! メリーシアさんは、もしかして毒専?」
「ええ、そうよ。むしろ私は毒から入ったクチだもの」
そうして、魔道具オタクと毒オタクの会話が始まった。
てか、毒専て何だ。
僕には何を言ってるのかさっぱりわからないが、どうやら魔道具オタクと毒オタクにとってはそのナイフは垂涎の一品らしい。
「ご主人様、メルビンとは毒に関する魔道具を幾つも生み出したことで有名な魔道具職人ですわ」
「魔法でも毒が作れるのか?」
「ええ、本来は魔法に毒系統はないので、何らかのスキルでしか毒は再現できませんけれど、魔道具はむしろスキルに近い権能を付与することが多いのですわ。ですから──」
「むしろ毒は魔道具と相性がいいと」
「さすがはご主人様! その通りですわ!」
ワケのわかっていない僕にミリアが解説してくれた。
その間も、キンドレーとメリーシアはその有名なメルビンさんの話題で盛り上がっている。
「きゃー! 可愛い! 妹にしたい!」
「ふぎゅう」
その隣では、ミカがグエノラを抱きしめてはしゃいでいる。
「み、ミカちゃん、グエノラさんが苦しそうだよ……?」
「だってだって、ちっちゃくて可愛いんだもん! 私はミカ、こっちはセッちゃん! 私たちのことはお姉ちゃんって呼んでよ!」
「せ、セスカ・ジターダウンです。よろしくね」
「わかりましたですよ。ミカお姉ちゃん、セスカお姉ちゃん」
猫娘に抱きしめられながらグエノラが答えた。
「あー! グーちゃん最高! イーちゃんは自分のお姉ちゃんはハティちゃんだけって言って、私をお姉ちゃんて呼んでくれないのよね」
ミカは可愛い女の子に目がないからな。
エルシュタット家は男系家族で女性はミカと母親だけらしい。
だからだろう、日頃から妹が欲しいと言っていた。
「で、でも、本当に可愛いね。なんだか小動物みたい」
確かにそうだ。
イズリーやハティナのように小柄な少女だ。
双子は将来絶世の美人になるような美しい顔立ち。
グエノラはその対極のような、すでに完成された可愛らしさがある。
なるほど。
美しいと可愛いの違いとはこういうことなのだろう。
ユニークな面々だが、意外にも上手く馴染めそうだ。
面倒だった……じゃなくて、副委員長の仕事についてアスラに色々聞いてて忙しかったから二人に任せたが、結果的にはそうして良かった。
そうして自己紹介を済ませた僕たちは、早速最初の巡回に出た。
本来ならミカとモノロイが索敵してセスカとキンドレーが監視し僕とイズリーとミリアで捕縛するのだが、新入生もいるので今日は全員で巡回する。
校内を歩いてる間もミカはグエノラと手を繋いでいた。
何だか本当に仲の良い姉妹みたいな感じだ。
「お、血の匂い」
ぱっとグエノラの手を離したミカが告げる。
ミカが血の匂いを感知した時は喧嘩かイジメの時が多い。
と思っていると、案の定一人の男子学生を袋叩きにしている三人の学生を発見した。
「今回は新入生にお願いしようかな」
僕はそう言った。
面倒だからではない。
何事も経験だ。
重ねて言うが、決して自分が面倒だからではない。
「ミリア、やばくなったら助けてやれ」
「はい! ご主人様! 私にお任せくださいまし」
これも面倒だからではない。
断じてない。
「そこまでだ! 不届き者め! 我ら風紀委員会、
「うおー! カッコイイっす! モノロイさん!」
モノロイの名乗りにイーガーのテンションが上がる。
「
イジメていた男子学生がボロ雑巾のようにうずくまる学生に言う。
「イジメっ子は許さないですよ!」
「最初の仕事っすからね! 気張っていくっすよ!」
「はぁ、二人とも張り切っちゃって馬鹿みたい」
新入生は三者三様で不良学生の前に出た。
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