第6話 双子襲来
モルドレイとトークディアによるスキルの検証を終えた夜。僕は王城にある昨晩と同じ部屋に帰された。
僕はしばらく硬いベッドに腰掛け、トークディアから渡された熊のぬいぐるみを
その時、部屋の鍵が開いて父親のベロンとトークディアが部屋に入って来た。
「シャルル。これから暫くの間、筆頭の元で暮らすことになった。こちらで魔法とスキルを学び、その後は魔導学園に通わせる」
ひとまず、処刑や投獄は免れたようだ。トークディア達が言っていたように僕の存在が国に危険かどうかを判断するための猶予が与えられたのだろう。
ベロンは少し疲れたような表情をしている。
おそらく、息子が処刑や投獄をされないように色々と動いていたのだろう。
「ちちうえ、ぼくのためにごくろうをおかけしてごめんなさい。トークディアさま、よろしくおねがいします」
これから僕は王国の人間に魔王ではあるが安全な存在だと認識させる必要がある。
でなければ即刻、処刑だろう。
「ほほほ。やはり聡い子だ。グリムリープ卿、この子は儂とレディレッド卿との会話を理解しておったのだろう。自分が危険な状況であると理解しておる。本当に三つの幼児とは思えんよ」
「筆頭、息子のこと、よろしくお頼み申す。妻のアンナには私から話しておきます」
「うむ。して、坊よ。そなたにはこれからスキルと魔法について学んでもらう。本来、魔導四家の人間が他家に跡取りを預けることはありえぬ事じゃ。我らの仲は互いに良好とは言えぬでのう。しかしながら、坊のジョブはかつて大陸の南方に災禍を招いたジョブ。王国には懸念を抱く者も多かろう。これはその特例処置じゃ。これからの行いで、お主が善なる心を持つことを証明せねば──」
そこまで言ってトークディアはジッと僕を見た。
「はい。りかいしております。トークディアさま」
「ほほほ、良きかな良きかな。十歳になれば、学園への受験が可能になる。それまでは儂が預かるゆえ、その才をより伸ばすが良い」
そうして、僕は十歳になるまではリーズヘヴン王国の筆頭魔導師の元で修行することになった。
そして五年後。
八歳になった僕は、トークディアの元で日々魔法の修行に明け暮れていた。
座敷牢のような部屋からは脱出できた。
その上、魔法も教わることができた。
と言っても、教わった攻撃魔法は火系統魔法の
ピンポン球サイズの火の玉を飛ばす魔法だ。ただひたすら
もっと強力な魔法は学園で習うので、トークディアの方針でスキルと魔法の熟練度を上げることのみを追求していた。
この五年の間に解ったことがいくつかあった。
この世界には魔法とスキルがある。この二つは本質的には同じだ。使用者の魔力を使って発動する。
では、スキルと魔法の大きな違いは何か。
答えはシンプルだ。
スキルは体内魔力を使って事象を発現させるのに対して魔法は体内魔力で外部魔力を操作して事象を起こすのだ。
つまり、水系統の魔法を使おうと思ったら身近なところに水が必要なわけだ。スキルは魔力を水に直接変換して発動する。
威力と規模は魔法の方が上だが、使うには場所を選ぶ。
スキルはたとえ砂漠であっても水系統のスキルを使用できるが、その規模と威力は体内魔力と熟練度に依存する。
さらにスキルは自分で獲得しなければ使えないが、魔法は呪文を知っていれば使える。
当然、本人の特性に左右されるが。
この辺りが、スキルと魔法を大きく区別できる点だろう。
スキルには攻撃系、防御系、操作系、補助系、治癒系、変質系、さらに一部の遺伝でのみ伝わる血統系の七種がある。
魔法は火、水、土、風、雷、光、闇の七系統が存在する。
スキルは指向性で、魔法は属性で区分されるのだ。
魔法七系統に属さない、治癒系スキルの
トークディアに課せられた修行の一環で、いつものように王城の裏の練兵場に用意された的に向けて火系統の初級魔法、
「爺さまの弟子っていうコウモリってきみー?」
振り向くと、肩あたりで切り揃えた金髪。長い睫毛に大きな黄金の瞳の女の子が立っている。
そしてその隣には、銀色の髪を同じく肩あたりで短く揃えた少女がいる。
活発そうな金髪少女に対して、どこか気怠げな雰囲気を纏う仏頂面の銀髪の少女は胸に大きな本を抱えており、その大きな青い双眸で僕を一瞥すると、すぐに興味を失くしたように空を眺め始めた。
ちなみにコウモリと言うのは、僕の実家であるグリムリープ家の紋章だ。
筆頭四家の人間はしばしばその紋章の名前で呼ばれることがある。
「そうだけど、君達は?」
「あたしイズリー・トークディア。こんにちは! 今日があたし達の八歳の誕生日なの! 今日から爺さまの元で修行するんだよ! こっちはハティナ! あたしの姉ちゃん!」
「……」
イズリーの背中に隠れたハティナは終始無言だ。
本来、魔法使いの修行は八歳の誕生日から学園に入るまでに始まるのが普通だ。
これは魔法を教えると言うよりは、学園に入学するまでの基礎教養を獲得させるための意味合いが大きいらしい。
彼女達はトークディアの孫だろう。
今日から同門ということらしい。
「そうか。僕はシャルル・グリムリープ。よろしくね」
そう言って握手を求めると、金髪のイズリーは僕の手をパチリと叩いてその金色の瞳で睨み付けてきた。
「コウモリとよろしくするつもりなんかないよーだ! 爺さまに気に入られてるみたいだけど、爺さまの跡を継いで筆頭魔導師になるのはあたしだもん! コウモリは……なんだっけ?……おにぎりもん?」
「……裏切りもの」
さりげなく影から銀髪のハティナがアシストする。
「──それだ! だから、馴れ馴れしくしてこないでよね!」
どうやら最初から嫌われているらしい。
しかし、コウモリが裏切り者だと言うのは初耳だった。
「裏切りもの? 僕の父は王国にずっと仕えているし、祖父も帝国との戦で王国軍を守って亡くなったと聞いているけど……」
僕の知らない事実があるのだろうか?
「とにかく、あたし達はきみのことキライなんだから! そうだよね! ハティナ?」
「……別に」
「ほら! ハティナも……あれ? そうなの?」
「……会ったばかりで好きも嫌いもない」
イズリーが気の抜けたような声を出して驚いている。
双子の姉妹は必ずしも一枚岩というわけではないようだ。
「どっちでもいいなら、僕と仲良くしようよ」
「ハティナ! おにぎりもんと仲良くしたいの?」
「……どっちでもいいよ」
ハティナなは心底どうでも良いように、今度は手に持った大きな本をペラペラとめくっている。
「お姉ちゃんはどっちでも良いみたいだよ」
どっちでも良いなら仲良くしてくれてもいいんじゃないだろうか……。
この年頃の子供は大人の言うことに左右されやすい。
魔導四家はお互い仲が悪いらしいから、双子の周りには他家の悪評を吹き込む大人もいるだろう。
「ハティナはいつもどっちでもいいって言うんだもん! だから仲良くしない!」
……こいつ。
はっ、いかんいかん。
前世の記憶はほとんど無いが、子供の身体になってからこの手の感情の振れ幅は大きくなっている気がする。
僕のジョブは魔王だ。
魔王が──と言うより僕が──危険でないことを証明するためには、この二人と仲良くしておく他にない。
しかし、だんだんとイライラしてきた。
「あれ? もしかして的当てしてたの?」
イズリーはそう言って僕が修行に使っていた的を見る。
そして何かを思いついたように僕に向き直った。
「そうだ! 勝負しよう! この前、あたしも魔法を習ったんだ! 先に的をぶっ壊した方が勝ちね! あたしに勝ったら、よろしくしてもいいよ!」
彼女は新しい玩具を与えられた猫のように綺麗な金の瞳を爛々と輝かせている。
「勝負? 的当てで? ……いいけど、あの的は頑丈だから壊れないと思──」
「そうだ! その代わり、あたしが勝ったら筆頭魔導師にはあたしがなる。コウモリは死ね。あたしのすんごい魔法をお見舞いしてやるんだから!」
……あれ?
いま僕さらりと死ねって言われた?
トークディア家の双子との出会いは衝撃的なものだった。
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