第5話 未知のスキル
スキルで熊の人形を浮かして遊んでいる内に、だんだんとコツを掴んできた。どうやらこのスキルは人形の形をしていなくても発動するらしい。
試しに、先程トークディアの投げた石に意識を集中させると今度は石も動かせるようになった。
「童、その辺にしておけ。神官が来たぞ」
モルドレイが僕を制止してすぐにトークディアの指示で騎士の一人が神官を連れてきた。
「では神官殿、この子に治癒魔法を掛けて貰えるかの。
トークディアにそう言われた神官は、「こいつ怪我してないじゃん」みたいな目で僕を見てから、僕に向かって何やら呪文を唱えた後に「
僕を心地良い柔らかな光が包み込む。
その瞬間、僕は
頭に響くパチンという音。
そして一瞬で理解するスキルの本質。
その瞬間には、僕を包む柔らかな光は僕の身体に吸収された。
……遅かった。
僕がこのスキルの本質を理解し、起動を止めようとした時には、すでに神官の唱えた
このスキルは、少なくとも害意を持った相手以外には使うべきではなかった。
「何が起こった? やはり
モルドレイはそう言うが、そんな生優しいものではない事が僕にははっきりと解った。
「今のは……。こ、これは
トークディアは気付いたみたいだ。
そう。
その答えは──
「な、な、あれ? なぜ?」
トークディアの指示通り、再び
おそらく、もうこの神官の
「ま……さか……奪ったのか。スキルそのものを」
モルドレイが瞠目する。
「神官殿は確かに体内魔力を込めて
それはほとんど正解に近い解答だった。
正確に言えば、
つまり、僕に
替わりに僕はこの神官の熟練度で
とんでもない能力だった。
「神官殿は一度、休まれるが良かろう。この事は追って沙汰するゆえ」
そう言って、神官を遠ざけたトークディアはモルドレイに短剣を借り、自分の指先を少しだけ傷付ける。
トークディアの指先からポタポタと血が流れる。
「坊、奪ったスキルを使ってみるのじゃ」
そう言って血の流れる指先を僕の眼前に突き出さた。
そして、僕は
見る見る内にトークディアの指先から傷が消える。
「見たか、灰塵の。この子はあの神官からスキルの熟練度を奪ったのよ。同じスキルでも使用者によって癖がある。魔力の込め方、流し方、術の精度、発動時の魔力ロス。この
「ぐぬぬ、そんなことが可能なのか? だが……だが、確かにあの神官の
「案外、それこそが魔王というジョブの特性の本質やも知れんぞ」
「つまり魔王というジョブ自体には危険がないと?」
「確証はないがのう。しかしながら、そうでなければこの子が生まれて初めて使った
「……。御老の考えは解った。それで、我が国はこの小さき魔王をどう使うのが正解なのだ」
「そうじゃのう、そこが問題よのう」
そんな話をしながら、モルドレイとトークディアはしげしげと僕の顔を見る。
「ま、それよりも最後のスキルの検証が先じゃのう。スキルの名前は
「童よ。その
「じつは、すきるをつかうために、あたまのなかでねんじると、そのすきるのつかいかたがなんとなくわかるようになります」
僕は正直に答えた。
それを聞いて、合点がいったようにトークディアが手を打つ。
「ふむ、本来であればスキルの呪文と名前だけが頭に浮かぶものじゃ。知らぬスキルは使ってみないとわからぬ。じゃが、坊には
つまり、
「では、
「わかりました」
僕は早速、
しかし、パチンという音が響かない。
スキルが発動しないのだ。さらに
「できないみたいです。なぜでしょう?」
「ほう。できぬか。どう見る? 灰塵の」
「体内魔力が足りぬか、発動条件を満たしていないかであろう。童が嘘をついている可能性もあるがな」
「ほほほ、お主もブレぬのう。嘘はともかく、発動条件を満たしておらんという線は怪しいかのう。例えばカウンターで発動するタイプであれば発動しないことにも説明がつく」
「
「うむ。
「だが、
「それじゃよ。つまり、自身の攻撃系統のスキルや魔法に対して自動発動するタイプなのではないか?」
「術の威力を上げるとかか?」
「わからぬ。坊は攻撃魔法は覚えておらぬし、その線もあるの。もしくは、
「補助系統のスキルの可能性か」
「いずれにしても、現時点では推測の域を出んじゃろう」
「攻撃魔法を覚えさせるか?誰かの魔法を
「お主が奪われてくれるのか? 先程の神官が
「ふむ。では保留だな」
「この子は、儂が預かろうと思っておる」
「魔王を弟子に取る気か? しかも、こいつはコウモリの子だぞ。それに不本意ながらレディレッドの血縁の者でもある。それをトークディアの当主が弟子に取るなど……」
「儂はな、灰塵の。この坊はいずれ国の英雄になってもおかしくないと考えておる。小国であるリーズヘヴンは周囲の大国から侮られておろう? いつまた戦火に巻き込まれてもおかしくはない」
「魔王を擁しておれば、望まぬ火の粉を払えると? 逆にいらぬ戦乱を招くやもしれぬぞ?」
「戦になった時に、強力な魔導師がおらぬことの方が問題じゃろう。それに、いつまでも我ら魔導四家で争っていても仕方あるまいて」
「……ふん。異なことを言う。トカゲとコウモリの子をカラスが育てようとはな。それに、四家融和……『震霆の遺志』か」
モルドレイは神妙な様子で何か考え、僕のことをジッと見て口を開いた。
「ワシは協力はせぬが邪魔もせぬ。……この童は御老の好きにすれば良かろう。さて、検証が終わったのならワシは帰るぞ。魔王なぞ、問答無用に切り捨てようかと思っておったが興が削がれたわ。ただし、震霆の名を使えるのは一度までだ。奴からの恩より国からの恩だ」
「ほほほ。忙しないのう。わかっておるとも。このことは借りにしておこうかのう。」
その言葉を聞いて深く頷いたモルドレイはその日のうちに自領に帰っていった。
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