第1話 テンプレに潜む罠


 いきなりだが、どうやら僕は死んだらしい。

 

 うん。

 僕自身も、唐突な話だと思う。

 それに、またそのパターンかよ。

 と思うのもわかる。


 まるで暇を持て余したアホの書いた三文小説みたいだよね?


 だが、少しは僕の身にもなって欲しい。

 気付いたら、ぷかぷかと闇の中に浮かんでいたんだ。


 最初は焦ったけど、どうにもならないことを理解してからはこうしてひたすら闇に身を任せて浮かんでいる。 


 自分が死んだ時のことは、ほとんど覚えていない。


 そればかりか、自分の名前も親の顔も生まれた町も記憶にない。


 なら何故、自分が死んだということが理解出来ているのか。


 『なんとなく死んだんだろうな』程度の理解ではあるが、これはもう確信に近いものを持っている。


 だって身体がないんだ。


 魂?


 みたいな状態なのだろうか。


 何故かは知らん。


 知らんものは知らん。

 

 僕がフワフワと中空を漂うような感覚に身を任せていると、頭の中でパチリと風船ガムが弾けるような音がした。


『やっと繋がりましたー』


 幼さを残す舌足らずな、恐らく女性のものと思われる声が脳内に──といっても脳なんて臓器は既にないと思うんだが──響く。


『聞こえていますかー? あれー? 言語が違うのかなー。でも日本人のはずだしー』

 

 声の主は、やはり幼い声で問いかけてくる。

 

「あー、はいはい。聞こえてますよ」


 僕は慌てて声に答える。


『あー、良かったー。通じてましたねー。さっそく本題なのですがー、落ち着いて聞いてくださいねー。あなた死にましたー』


 やっぱ死んでたってさ。

 そうだと思ったんだよ。


「……やはりそうですか。何となくそんな気はしてました」


『めちゃくちゃ落ち着いてますねー。いいですねー。話が早くて助かりますー』


「それで、僕はこれからどうなるんですか?」


『えっとですねー、あなたにはいくつか選択肢がありましてー。死んだ生き物の魂は分解されて、他の死者の魂と混ざり合って生まれ変わることができるんですがー。こちらの世界で生まれ変わると、あなたの自我も記憶も高確率で消失することになりますー』


 どうやら僕は消えてなくなるらしい。

 

 と言っても、現状僕には自分がどこの誰なのか記憶がない。


 しかし、例えば地球だとか火星だとか国名だとか偉人の名前だとか、そういった知識は残ってるみたいだ。


 消える際に苦しまないのであれば、あまり問題がないように思える。


『ただですねー。ワタクシ、別次元の世界で、いわゆる神をやっておりましてー。その世界での転生であれば、自我と記憶を保ったままの状態で生まれ変わることができますー。特別大サービスですよー』


 そんなテンプレ通りな展開が本当にあるのかという疑問もさる事ながら、こんな緩い感じで神様やってるとは、とんでもなく胡散臭い『神』だな。

 

 と思いながらも、僕は彼女の話を聞いていた。


『で、どーしますかー? ワタクシの世界はこちら程ではないにしても、そこそこ人間も繁栄してましてー。こちらの世界で言えば千年前くらいの文明レベルなんですがー。あ、でもー、人間は魔法が使えるので、そこまで不便な生活ではないみたいですー』


 マジでか! 

 魔法が使えるのか!

 これは是非とも使ってみたい!


 自分自身に関する記憶はないがゲームやらラノベやらの知識はある。


 これは是非ともお世話になりたいものである。


 そして、ここまで話を聞いてきて、僕には一つの確信が生じた。


 『神』を名乗る彼女はこの世界で生まれ変わる場合は、生き物に生まれ変わると言った。


 これはつまり、人間に生まれ変わるとは限らないということ。

 さらに高確率で記憶を残さないということは、裏を返せば低確率で記憶が残るということ。


 僕はここから生じる推論を彼女に投げかけてみた。


「質問いいですか? もし、このまま今の世界で生まれ変わることを選択した場合でも、記憶が残ることはあると?」


『はいー。確率はかなり低いですけどー』


「生き物に生まれ変わる。ということは、必ずしも人間として生まれ変わる訳ではない?」


『おー。鋭いですねー。その通りですー。一応、植物や菌類も生き物ですからねー。まー、細菌や微生物とかは、魂が混ざり合った時にその核から溢れた残滓がそういった生き物になるので、それらに生まれ変わる確率は更に低いと思いますけどもー』


 という事はだ。


 低確率ではあるものの、記憶や自我を残した今の状態のまま家畜やらゴキブリやらに生まれ変わる可能性もあると。


 認められるかあ! 

 断じて認められんぞ。


 数で言えば人間とその他の生物とでは、人間は圧倒的に少数だろう。

 僕が次も人間になれる確率は相当に低いと思われる。


「そちらの世界での生まれ変わりなら、絶対に、ぜーったいに、人間で生まれることが出来ると?」


『絶対の絶対のぜーったいに、人間にしますー。それでー、どーしま──』


「別世界の人間の方でお願いします!」


 僕は食い気味に答えた。


『おー! ありがとうございますー。実はいろいろスカウトしてみてはいたんですがー。みんな死んだことでアタフタして、話にならなかったんですよー』


 彼女は『とっても助かりますー』などと嬉しそうに声を響かせる。


『今ですねー。ワタクシの世界は存亡の危機にありましてー。それでですねー。ワタクシ、一応、神じゃないですかー? やっぱ神として、人間に救いの手を差し伸べなければいけなくてですねー。ヒジョーにめんどーなんですがー』


 魔王か何かが現れて世界を滅ぼそうとしているとか、そんな感じだろうか?


「強大な力を持った存在が、魔法だとか魔術の力で世界を滅ぼそうとするみたいな感じですか?」


『あー、そーですそーですー。ワタクシの世界でも、なんだかとっても強い魔法使いが暴れちゃったみたいでー。どーにかして欲しいんですよー』


「僕がそちらの世界に生まれ変わって解決すれば良いと?」


 勇者に生まれ変わるパターンか?それはそれで面白そうか?


 ……しかし面倒な気もするな。


『そーなんですけどー。できますかねー? こちらの世界では世界が滅亡の危機に陥ったら、どーやって解決しますかー?』


 こっちの世界ではそんな危機には陥らない。

 

 将来的には知らんが。


 しかしなるほど。

 やはり魔王を倒しに行くルートのようだな。


「王道なのは、勇者ですかねー。どこぞの国の王子だか英雄だかが勇者に選ばれて、仲間を集めて巨悪を倒す旅に出る感じですね。そんな話は、こっちの世界じゃたくさんあると思います」


 ゲームの話なんだけどね。


『仲間ですかー。うーん。勇者というわりに、一人じゃ何も出来ないんですかー? なんだか寂しがり屋さんなんですねー』


 なんて辛辣な『神』だ。

 だが、確かに一理ある。

 神はどうやらこの手の話に疎い様子だ。これはもしかしたら、僕の話術によって多少のアドバンテージを貰えるのでは? いわゆるチート能力とか。


「相手は魔物なんかをけしかけてくる場合もありますし、中には軍勢を持ってるのもいますし、やはり仲間は必須ですね。ただ、僕自身は勇者なんかには向いてないと思いますけど」


『そーですかー。うちの世界も魔物で溢れ返ってるんですよー。そしたら、勇者でしたっけー? それはこちらでどーにかするので、その勇者の手助けをする仲間として、転生してもらえますかー?』

 

 魔物か!

 やっぱり打倒魔王のパターンだな!


 そして我ながらいい具合に話が展開した。

 最悪の場合は、勇者君に後を任せてトンズラしよう。


 来世での異世界ライフのためにも、『神』から好条件を引き出さなくては。


「それは良いですけど、勇者の仲間と言っても色々な個性があります。例えば近接戦闘に長けた戦士、味方の怪我を癒す僧侶や賢者。魔法による遠距離攻撃に長けた魔法使いなんかがメジャーですね。しかし、勇者の仲間になるなら圧倒的な才覚が必要ですよ」


『なるほどですー。では、その才能の方もこちらで何とかしますー。それで、よろしくお願いできますかー?』


 これで、何らかの特別な才能を持って生まれることは出来るようになったわけだ。だが、魔法の世界で戦士の才能を持って生まれても、なんだか損した気になるな。


 やはり狙うなら魔法使いだ。


 僕はそんな事を考え、さらなる交渉を続けた。


「神様は、自我が残った状態での転生と仰ってましたよね? 臆病な僕の自我が残るということは、例えば戦士の才能を十全に活かしきるのは難しいのではないかと』


『おー。たしかにー』


 よし。手応えはいいぞ。

 死ぬ前は営業か何かやってたのか?


「かと言って、血を見るのも苦手なので怪我の治療が必要な僧侶に関してもその役割を担えるかどうか」


 少し無理矢理な理由だが、狙うは魔法使いの才能だ!

 

『では、魔法使いならどーですかー? いけそーですかー?』


 よっしゃ! 

 これはいい感じだ!

 ヘソでも曲げられて『じゃー別の人にしますー』とかにならなくて良かった!


「そーですね! この中なら、魔法使いならやれそうです。是非とも、才能を貰えるなら魔法使いの才能でお願いします!」


『わかりましたー。じゃーそんな感じにしときますー。有意義なお話しができてとっても参考になりましたー。ワタクシの世界でも頑張って下さいねー』


 これで来世は異世界ゆるふわ魔法使いライフだ!


 魔王を倒すのは少々面倒だが、とっとと終わらせるか早急に脱落しよう。 


 猫耳の美少女とかエルフとかいるのかな?


 ……待てよ?


 男で生まれるとは限らないか?


 まあ、それでも女好きには変わらないか。

 

 自我は僕のものらしいしな。


 神は最後に『ではあなたに、最高の魔導の才能をー』と言い残して僕の意識から気配を消した。


 魔法が実際どんなもんなのか楽しみだな!

 などと呑気に考えていた事を、僕は近い未来に激しく後悔することになった。

 

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