第20話 日常6 バレる
「取引・・・ですか?」
「ええ。私は今こういう奴隷会社をやってるんですが、どうもこればっかりでは不安でしてね。また新しいことにも手を伸ばそう思ってるんですわ」
「新しいこと?」
「まぁ、簡単な話魔法具とかそういうモンの販売でもやろうかなと思いましてね。そこでフィセルはんにはうちとも契約してほしいんですわ」
ダズマさんがそういって両手を合わせる。
だがこの話を聞いて黙っていないのは俺じゃなくて、ゲルグさんだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいダズマ殿!! フィセル様はうちと契約を・・・」
「だから今日ゲルグはんもここに呼んだんです。もちろんあんたんとことは被らんようにしますて」
「で、でも・・・」
「選ぶのはあんたじゃなくて、フィセルはんや。で、どうです? うちにもいくつか商品卸してくれませんかね? ゲルグはんよりも言い値で買いますよ」
焦るゲルグさんを無視してダズマさんは俺にそう尋ねてきた。
正直俺はそこまで金に頓着があるわけでもないし、正直どうでもいい。
それにゲルグさんにはいろいろと恩があるし、ここでダズマさんに切り替えたらなんか申し訳ない。
ただ、・・・これは俺にとっても思いがけないチャンスであった。
「そうですね・・・。こちらの条件を飲んでくれたらいいですよ」
「フィ、フィセル様!?」
ゲルグさんが身を乗り出してこちらに詰め寄ってくるがそれをなだめて話を続ける。
ごめんなさいゲルグさん。でもこれは大事な話なんだ。
「条件・・・? なんですかそれは」
「俺が買った5人の奴隷についてです。彼らを俺が死んだらここに帰さず自由にできるように契約を解除してください。このままだと俺が死んだら彼らはここに転送されちゃうんですよね? 要は完全に俺の所有物にしろってことです」
「それはそうですけど・・・。なるほど、そう来ますか。愛着でも沸いたんですか? たかが奴隷に」
彼はちらっと俺らの後ろを見た。
俺の
「まぁそんなとこですかね。彼らも俺が死んだら自由にさせてあげてもいいかなと」
「野に放たれた彼らはまた人間に捕まって奴隷にされるかもしれませんで?」
「それならそれで構いません。彼らが弱かっただけです」
「うーむ・・・。そんなことは今までありませんでしたからねぇ。こっちとしても私だけが奴隷商売をやっているわけではないので他との兼ね合いがあるゆえ中々に難しいかと・・・」
そういってダズマさんは顔を両手で押さえてしまった。
多分かなり難しいことなんだろう。
彼の言った通り奴隷市場はここ以外にもいくつかあるしそこで決まったルールでもあるに違いない。
だが俺には策がある。
「ではそこにおいてあるボードゲームで勝負しませんか?」
そういって少し離れたところにおいてあるモノを指さす。
あれは俺もよく知っているボードゲームだ。
「あぁ、フィセルはんも知ってるんですね。王都で一年くらい前に有名になったボードゲームです」
ダズマさんは椅子から立ち上がってそのボードゲームをもって机の上に置いた。
家にあるものとは高級感が違うしおそらく特注なんだろうけどルールは同じはずだ。
「それで勝負とは?」
「このボードゲームで勝負しましょう。ダズマさんが勝てば俺はあなたに中級回復薬のレシピを無償で差し上げますしそれ以外の魔法具もこれから卸すことにしましょう。ですが俺が勝ったら先ほどの件を了承してください。あ、あとついでにまだ買われていないエルフたちが待機している牢屋も見学させてほしいです」
俺は知っていた。
このダズマという男がギャンブル狂いだということも、このボードゲームをかなりやりこんでいることも。
まぁ、先日ゲルグさんに聞いたばかりなんだけど。
その目の前の男は机の上の娯楽品と俺の顔を交互に見た後、口を開いた。
「・・・いいのですか? 私こう見えても結構自信ありますよ?」
「そ、そうですよフィセル様!!! この男は王都でも有名な・・・」
「大丈夫です。さぁ、やる気になったのなら早くやりましょう」
そう言ったちょうど俺の後ろでこぶしを握り締める音がした。
大丈夫だアイナ、君は知ってるだろう?
俺がどれだけ馬鹿で、どれだけこのゲームに熱中したか。
最初はルリにすら負けるレベルだった俺がどれだけ成長したか。
「ふ、ふははっ! 面白いですねフィセルはん!!! このボードゲームで取引を進めるのはあなたが初めてですよ!! いいですね、やりましょう!!」
ダズマさんが着々と準備を始め、ついに始まる。
ただ俺は不思議と負ける気がしなかった。
まるで周りを
目をつぶればいつもの風景がよみがえる。
パチ、パチとコマが盤をたたく音はこの後響き続けた。
********
「いやはや、フィセル様は本当に無理なさいますね・・・。私もう心臓がバクバクでしたよ。中級回復薬の市場がぜーんぶ向こうに取られるところだったんですから!!」
「ごめんなさいゲルグさん。でも勝ったんだから許してください」
もう日が落ちてかけている夕暮れの中、俺とゲルグさんは屋敷から出て馬車の中にいた。エルフの護衛たちは俺らの正面に座っている。
そう、俺は無事ダズマさんに勝っていろいろな条件を飲んでもらうことに成功した。
今回得られた中で一番大きかったのはやはり彼らを奴隷名簿から消去出来たことか。
これで俺が死んでも彼らがまたあそこに戻されてしまうことはなくなったから自由にできるだろう。
一応まだ王都とか、主要都市では首輪を付けてもらうことになるけど。
それに加えてエルフたちが入れられている牢屋の見学もさせてもらえた。
といっても場所を教えてもらったくらいだけど多分いつか役に立つだろう。多分。
そうしてひと段落着いた後、こうしてダズマさんの家から王都に向かっているところだ。
ダズマさんの豪邸は王都から少し離れており行きもこうして馬車に乗って移動したのだが、やはりここでも奴隷として働かされているエルフは多く見る。
須らく首にあの忌々しき首輪をつけて。
というか王都より多い気がする。
多分地方の貴族とかが労働力として多く雇っているのだろう。
あるいは性の捌け口か。
王都はそれに比べて商店街とかが多いため奴隷はあまり見かけないというのもあるかもしれない。
そしてその王都へとどんどん近づいていく。
「・・・それで? フィセル様は何を企んでおられるのでしょうか?」
俺が物思いに更けながら外を眺めていると横からゲルグさんに真剣な口調で尋ねられた。
「何を・・・ですか? それは一体?」
「いつも思っていたんです。あなたは奴隷を扱うのが下手だ。下手、というか無理して変な態度をとっているというか。今日もダズマ殿の屋敷でありましたよね? 部屋を出ようとした貴方がドアの前に立っていた奴隷に『邪魔だ退けこのグズ!!』って。あれ不自然すぎですよ? 私たちは奴隷をそういう風に扱いません。普通なら頬を殴って切り捨てます。フィセル様のようにお金がある方は特に」
「・・・・・・」
「それ以外にも今あなたはエルフの奴隷を見るたび悲しそうな顔をしていますね。そして今日の奴隷を開放してほしいという提案。何か企んでいるに違いありません」
「もし仮にそうだとしたら、ゲルグさんはどうするつもりなんですか?」
「あぁ、いえ。私はあなたの敵になるつもりはありませんし、邪魔をする気もありません」
「それはなぜ・・・?」
「もしあなたが何か企んでいるとしても、おそらくあなたが生きている間は成し遂げることができないでしょう。それほどまでにエルフの奴隷制度はこの国になじんでいます。だから私には関係ないのですよ。私には家族もいませんし、会社を後世に残そうとも思っていません。私が今いい思いをできればそれでいいのです」
「・・・・・・・」
「そしてあなたは今の私に最高の思いをさせてくれる人だ。だから私の邪魔をしない限り私はあなたに手を貸しますよ。あぁ、もちろん私もエルフを複数人雇っていますしあなたが嫌がるようなこともしています。それでも許せるというのであれば」
俺はゲルグさんの目を見る。
この人との関係は、壊さないほうがいい。
俺は本能的にそう思った。
「・・・これからもよろしくお願いします、ゲルグさん」
「はい、こちらこそ。でも今日のようなことは控えてくださいね? 私にとって不利になることは嫌いなので」
「・・・了解です」
「おや、もうそろそろつくようですね。今日はもうこのまま帰られるのですか?」
「いえ、王都には数日間いようかなと」
「そうですか、それではお気をつけて」
こうして俺はダズマさん、ゲルグさんという奴隷に深くかかわる二人の商人との会談を終えたのであった。
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