第15話 日常1 スローなライフ
「フィセル様、朝ですよー!!」
ドアの向こう側から響く声が眠りの世界でさまよっていた俺を現実に引き戻す。
この声は・・・アイナだ。
「ふぁいふぁい、今起きたー」
「では先に運動場の方へ向かっていますね」
「ふぇい」
自分でもびっくりするほどあほっぽい言葉と共にゆっくりとベッドから起き上がる。
今は朝の7時くらい。俺一人で暮らしていたときでは考えられないほどの早起きだ。
というのもここ最近は朝早く起きて体を動かすことにしているのだ。
双子のエルフであるバン、アイナとともに。
なぜ朝の運動をするようになったかと言うと、ある程度自分の身は自分で守りたいと思ったからである。
完全回復薬の特許が認められた以上少なからずは有名になるし、王都をふらついていたらすぐにでも犯罪に巻き込まれるのは簡単に予想できる。
それを防ぐためにエルフを雇ったのだが、やっぱりまかせっきりもよくない。
だから彼らに頼んでともに朝の運動を始めたのだ。
あとは単純に少しは体を動かさないと早死にすると思ったからというのもあるが。
だが初めて2週間ほどたつがまだ習慣にはなっていない。
それでも体は昔よりも若返った気がする。
寝つきもいいし、お腹も減るしで正直いいことしかない。
でも眠い。
今すぐにでもUターンしてベッドに戻りたい。
そんな体に鞭打ちがんばって着替えて部屋の外に出る。
俺以外のエルフはもう起きているようで各々自由に過ごしていた。
ダニングは朝食の準備、シズクとルリはリビングで朝ご飯の待機。
ヴェルは洗濯を始めておりバンとアイナはすでに体を動かしているようだ。
階段から降りてリビングを通りみんなにおはようを言ったのち外に出ると、洗濯物を干している最中のヴェルと遭遇した。
この小屋は王都からかなり離れている森の中に位置しているため、いろいろと不便だと思うかもしれないが意外とそうでもない。
今の彼女のように洗濯は水魔法でできるし、料理はさらに火魔法を。
明かりは火魔法や光魔法を使えばいいし、食材の保存も氷魔法でどうにでもなる。
こういった基礎的な魔法を人間は高等学校までで習うし、エルフも自在に使いこなせる。幼いルリはまだ怪しいが。
だから普通に生活ができるのだ。
めんどくさいのは買い出しくらいである。
「おはようございます、ご主人様。まだちゃんと続いているのですね」
「なんとかね。君も朝からご苦労様」
「いえ、私にできるのはこれぐらいですので。頑張ってください」
「うん」
湿った洗濯物をロープにつるしながら話す彼女に後押しされて少し離れた裏庭もとい運動場へと向かう。
何回見ても彼女の手際は良い。
「おはようございます主。今日も頑張りましょう」
「フィセル様もだんだん動きがよくなってきています! 頑張りましょう!」
「うん、よろしく」
運動場に先にいた双子のエルフと挨拶をして柔軟運動を始める。
こうして今日も一日が始まる。
*******
「なんでこんなの思いつくんだよ・・・。いまだに構造が分からねえし」
朝の鍛錬を終え朝食を取り終わった後自室にこもり、昼食を食べたり近くを散歩したりと自由気ままに過ごす。
そんな中でも最近はシズクに回復薬の作り方を伝授し始めたところだ。
中々手こずっているが。
「だからこれとこれを・・・今、今色が変わったでしょ!? このタイミングで・・・」
「いや分かんねえよ!? 色変わった? 同じじゃねえか!!」
「変わったよ!! ほらさっきまで青色だったのが今は青色に緑が少し入ってるでしょ?」
「無理無理無理!! え、ご主人は心の目かなんかで見てんのか!?」
「でもこれはまだわかりやすいほうだよ? 完全回復薬に関しては俺でもまだ理解しきれてないし」
「・・・」
静まり返る部屋。
シズクの今の顔は「ドン引き」という言葉がぴったりだ。
「だ、大丈夫! 一緒に頑張ろう、まだ先は長いし!!」
「でもご主人はいつ死ぬかわかんねえほど貧弱だし不安だ。死ぬまでに覚えられるかどうか」
「言い返せないけど・・・。やるしかないだろ」
「・・・おう」
こうして日はどんどん沈んでいきやがて夜になる。
この後はひと段落着いたら俺らは晩ご飯を食べて、お風呂に入ってまた自由に過ごすという感じだ。
違和感を覚えるかもしれないが、実はこの小屋には風呂がある。
というのも、俺が昔森の中に小屋を建ててもらっているときに建設業者の人が偶々近くに温泉を掘り当てたのだ。
だから建設中だった小屋を解体してまで近くに移動してもう一度建て直したという経緯がある。
要は俺の小屋には天然の温泉がついているのだ。
もはや小屋というべきかどうか悩みどころだ。
部屋はリビングと厨房以外に小さいけど計5個あるし。
それもこれも建築業者の話に乗せられたというのが大きいけど、まさか役に立つ日が来るとは思わなかった。
確かあの時業者には「友人さまがいらっしゃった時に部屋がたくさんあれば便利ですよ」と言われて部屋を多くした気がするが一度もその状況にはならなかったな。
というかこの家に来た人なんかほぼいないんじゃないか?
そもそも友人と呼べる人が何人いるんだ?
あれ、目頭が熱く…
そんなことは置いといてだ、こうして俺の家には風呂があるから自由に入れる。
だけどこれだけ人数がいれば、誰かが入っているのに間違えて入ってしまうということが多発していた。
同性同士であれば何ら問題はないのだがまぁそう上手くはいかないもので、俺が入っているのにシズクやアイナが入ってきてしまう、またその逆が何回かあったのだ。
シズクはそのまま入ってくるし、アイナには桶を投げられて頭に直撃したりともう散々だった。
アイナに関しては先に入っているところに俺が入ってしまったから悪いのは俺だけど。
だからいつかは仕切りを付けて男女で分けたいところだ。
なんて考えながら部屋を出て風呂へと向かう。
向かう途中にちゃんと女性陣が今入っていないことを確認したから問題はない。
脱衣所で服を脱いで風呂へと向かう。
風呂は湯気をあげており、今すぐにでも飛び込みたい気持ちを抑えて先に近くにおいてある魔法具でお湯を出しながら体と髪を洗う。
今朝運動場で転んで出来た傷にお湯がしみるがもう慣れつつある。
こうして一通り洗い終わった俺が風呂へと向かおうとしたところ、突然ドアが開いた。
色々なことが頭を駆け巡り、焦る俺。隠す急所。開けられたドアによって曇っていた湯気が晴れてクリアになる視界。
そこにいたのは、二人の男であった。
「・・・よかったダニングとバンか。ちょっと焦ったよ」
「焦った? がっかりしたの間違いじゃないのか」
「やめてくれよ、この前アイナに桶をぶつけられたばっかで怖いんだよ」
「アイナとそんなことがあったんですね。いえ、主が入浴していると聞いて一緒に入ろうかなと思いまして」
「あんまりご主人と俺らのタイミングが合うことはないからな」
「そういうことだったのね。よしじゃあ男三人で語り合おうか」
「裸でな」
「悪くありませんね」
こうして男三人、仲良く裸で語り合うのだった。
真っ赤にのぼせた俺がバンに担がれて運ばれることになったのは伏せておこう。
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