第14話 正真正銘の幕開け
「お兄ちゃん誰?」
人間で言うとまだ6歳くらいにしか見えない幼女がアイナの元からとてとて歩いてくる。
普通にかわいい。
「も、申し訳ありませんフィセル様・・・つ、つい・・・」
彼女を連れてきたアイナが申し訳なさそうな顔で謝る。
シズクは無表情だ。
「いや別にいいよ。本来の目的の方は達成できた?」
俺のもとにいる少女の頭をなでながら俺は尋ねる。
その髪はこの子が経験してきた苦労を物語っておりぼさぼさだ。
こんなに小さいのに・・・。
「はい、無事に入手することができました」
そういってアイナが二本の刀を俺に見せる。
一本は金色の刀。そしてもう一本は黒色の刀だ。
「これは・・・?」
「これは私が住んでいた里に祀られていた刀です。私たち双子が騎士団に入ることになったとき里の長が私たちに一本ずつ託してくれたのですが人間と魔物から襲撃を受けてとらえられる前に二本とも隠しておいたのです。悪用される可能性がありましたから」
「それで無事回収できたってことか」
「はい、ありがとうございます」
「いや二人とも無事でよかった。それにこんな小さな子供も救えたならなおさらだ。この子に両親については詳しく聞いてる?」
「いえ、詳しくは・・・。ですがもう家族のだれもいないそうです」
「そうか・・・。ねぇ君、自分の名前はわかる?」
「・・・ルリ」
「ルリか、いい名前だ。君の両親、パパとママはどこにいるかわかる?」
「・・・パパはまものにころされた、ママは・・・ママは連れてかれちゃった」
さっきまでニコニコしていたのに急に眼に涙を浮かべて泣き出す少女。
無理もない、こんなに幼いのにもう両親がいないなんてあまりにかわいそうだ。
「それでもう生き絶え絶えで道端に倒れていたところをご主人様の回復薬を使って治した。おそらく母親と別れてから2週間ほどじゃねえか?」
「そうか、ありがとうシズク。・・・連れ去られたのならまだ生きている可能性があるな。どこにいるかはわからないけど」
「そ、それならここで過ごさせていただければいつかは会えるかもしれませんね!」
「そうだね、でも決めるのはルリだ。・・・ねぇルリ、君はどうしたい? ここで僕たちと暮らしてればもしかしたらお母さんに会える日が来るかもしれない」
「ほ、本当!?」
「ああ。断定はできないけど。だからよかったらここで暮らさないか? 多分元エルフの国には思い入れがあると思うけど、こっちのほうが安全だ」
「うん、こっちに住む!!」
「よーし、じゃあ今日からルリも俺らの一員だ!」
ルリの体をつかんで高い高いをしてあげる。
彼女は嬉しそうに笑っていた。
「ただ、おれは幼いエルフをどう扱えばわからないから・・・アイナ、君に頼んでいいかい」
「も、もちろんです!!! ありがとうございます!!!」
「私からも礼を言う。私としても一度助けたものを拒絶するのは心苦しいからな。だが・・・これ以上はあまりエルフを無計画に集めることは危険かもしれない」
「それはそうだね・・・。多分人間の方はエルフの場所がある程度わかってる気がしてならない」
「たくさんの同志を救いたいのはやまやまだがこのまま増え続ければ助けられる命も助けられない。ご主人が魔法を開発できなければエルフは滅亡してしまう。偶然助けられた身である私がこんなことを言うのは罰当たりが過ぎることだが・・・」
「いや、みんな薄々感じていたことだ。もちろんこれから先目の前で苦しんでいるエルフがいたらもちろん助けるけど、その先の事は考えておいたほうがいいかもね」
「・・・我々はご主人に従うだけだ」
「よし、辛気臭い話は終わろう。アイナ、これからルリの事をよろしくね。どうせなら剣術とかも教えてあげたら? シズクも何か役に立つことがあれば教えてあげてほしい」
「わかりました! ルリちゃん、これから頑張ろうね」
「うん!」
こんな小さな子さえも苦しい思いをするなんてやっぱりこの国は間違ってる。
俺と、この仲間たちで絶対変えて見せる。
「ところでルリって人間で言うと何歳くらいに相当するんだろう?」
「そうですね・・・多分人間の6歳くらいじゃないでしょうか。まだ30年は経ってないと思います」
「あれ、俺のほうが年下じゃん!?」
こうして俺と6人のエルフの共同生活が始まった。
*****
だがルリが増えたからと言って何か特別変わったということはなかった。
しいて言うのならアイナとたまの仕事が増えたくらいでそれ以外は今まで通りだ。
俺は今まで通り自室にこもって魔法の研究に没頭し、王都に言ったりするときの護衛をバンとアイナに、それ以外の情報の調達及び魔法開発の補佐はシズクがやるようになった。
また身の回りの大体の事はヴェルがやり、食事関連はダニングがすべてを請け負った。
ルリは・・・、まぁ場を和ますという面ではピカ一だった。
そんなこんなでそれぞれが役割を受け持ち、共同生活はかなりうまく回り始めていた。
というのも研究に没頭している俺をヴェルやシズクが引っ張り出して無理やりダニングの美味しい食事をとらせてくれたし、街中を歩いていても二人の護衛のおかげで心強かった。
正直な話王都に俺より弱い人なんてそうそういないだろうから。
つまるところエルフを雇うことで俺の生活水準は飛躍的に上がったと言えた。
だが7人も一つ屋根の下で生活するとなるともちろん問題も発生するわけで。
今夕飯を食べておえた俺の目の前で起こっているのもその一つと言える。
「おい、ヴェル!! お前私の下着とアイナの下着間違えて入れただろ! サイズが違うったらありゃしねぇ!」
「あら、ごめんなさい。悪気はありませんよ」
「見りゃわかんだろ、こんなのアイナしかつけねえだろ!!」
「確かに」
「ちょ、ちょ、ちょ!! 確かにって何ですかヴェルさん!? というか失礼ですよシズクさん!!」
「ごめんなさい、冗談が過ぎました」
「いや、良いんですけどなんか、心が・・・。シズクさんは覚えておいてくださいね・・・」
「私も冗談だよ、そうかっかすんなって」
「まぁ、今回は許しますけど・・・」
「アイナ、そのセリフ何回目だと思っているんだい?」
「兄さんまで!?」
話す内容は違えど毎回こんな感じだ。
見てる分には楽しいんだが、たまにこちらまで飛び火することがあるから他人事ではない。
ただこうしてみていると、本当に人間とエルフに違いはないんだな。
まるで高等学校に通っていたときみたいだ。
いつかエルフと人間がこうやって対等に接することは出来るのかな。
「できると思いますよ」
「・・・ちょっと待ってヴェル、俺まだ何も言っていないんだけど」
気付いたら真横にいたヴェルに話しかけられる。
まじでいつ移動したのかわからなかった。
そしてナチュラルに心を読んでくれるな、恥ずかしいから。
「いえ、人間とエルフが共存出来たらな・・。と思っているような顔だったので」
「どんな顔だよ・・・」
「達観してる俺かっこいい? みたいな感じですかね」
「いや、ひどくないその言い方!?」
「冗談です。申し訳ありません」
気付けばうちのエルフはこんな感じだ。
毎回何言っても言いくるめられて負けるけど、俺が自由に接していいって言ったからこれでいい。
「ふー、頑張りますか」
「ええ、どこまでも御供いたします」
まだアイナとシズクが言いあっているが二人ともどこか楽しんでいるように見える。
騒がしい夜も嫌いじゃない。
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