第12話 傷

「いやあ、ひどい目にあった。何あの剣? トレーニング用? 授業で使ってた剣があそこまで重かった記憶ないんだけど? まさか、これが老化現象・・・」


「いえ、普通の剣です。確かに人間の物よりは重いかもしれませんがまさか持ち上げられないほどとは・・・。振れないとかならまだしも・・・」


「なんか、ごめん」


「いえ、これから一緒に頑張りましょう!! ご主人様と一緒に体を動かしたいです!!」


 キラキラした笑顔で可愛く言うアイナ。

 金髪を背中まで伸ばし、碧色の目を輝かせる超絶美少女。

 ついこの前まで目のあたりは包帯でぐるぐる巻きだったのにいまではもうこの目を見るだけで心が奪われてしまいそうになる。


 女性組3人の中では一番起伏に乏しいがそのほうが動きやすいだろうから理にかなっているのかもしれないな。


「いま何か失礼なこと考えてませんでした?」

「い、いやそんなことないよ!!」

「本当ですかー?」


「それにしてもこの剣を持てないとなると、王都で子供用の剣の類を購入したほうが良いかもしれません」


 アイナの横で真顔で知れっと俺の事をディスったのは、彼女の双子の兄のバン。

 双子なだけあって髪の色、目の色はアイナと同じでそりゃもう超イケメンだ。

 おまけに俺よりも背が高い。

 というかいまの男性陣で俺だけダントツで低い。


「子供用の剣か・・・。け、検討しとくよ」

「あ、いえ、別に主様が子供並みの力というわけではなくもし何かあったときに危険ですので・・・!」


「フォローありがとう・・・。よし俺はこれからバン達と週に何度か体を動かすことにするよ。そのほうが長生きできそうだし」

「そうですね、そうしましょう」

「ぜひぜひ!!」


 嬉しそうな顔でほほ笑むバンと、後ろでぴょんぴょん跳ねているアイナ。

 どっちも絵になりすぎて困る。今度街でスケッチブックと絵の具買ってこようかな。


「それで今日は一体何の用で? 何かわけがあってここに来たのですよね?」


 そうそう、本来の目的を忘れかけていた。


「バン達って生まれてからどれくらい経つんだ? 双子なら誕生日は同じだろ?」


「生まれてからですか・・・? 兄さん、どれくらいですかね?」


「うーん、おおよそですが400年近く経っているかと」



 え? あの30代にしか見えないダニングよりも年上なの?


 ******


 双子のいる運動場を後にして最後のエルフがいる部屋へと向かう。

 ヴェルには「エルフに年齢という概念はない」と言われて納得しきっていなかったが確かにそう言った理由が分かってきた気がする。

 見た目的には普通に逆だもの、うん。


 そんなもやもやした感じのままシズクの部屋の前に立ちノックするが返事がない。


「シズク? いないのか?」


 返事はなかったがドアのカギは開いている。

 入るかどうか迷った末に少しだけドアを開けて中を見ると、耳に何かを付けてベッドの上に座るシズクの後ろ姿が見えた。

 どうやら何も聞こえていないみたいだ。

 右手は何かのダイヤルを微調整するようにゆっくり丁寧に動かしている。


 このまま帰ってもよかったが何をしているのか気になって部屋の中に入ってシズクの方へ近づいてくと急に何か触っていた手を止めてバッとこちらを振り返る。


 その顔は最初に俺の事を拒絶していた顔とも、今日起きた時に横ではにかんでいた顔ともちがう初めて見る顔だった。

 シズクのもう一つの顔、諜報員エージェントとしての顔だ。


 黒髪のショートカットでほかの二人が可愛い系だとしたらおそらく美人系に分類されるようなきれいな顔立ち、そして女性陣の中で一番女性らしさの主張が強いその体。

 最初は威嚇されまくってたからよくは見ていなかったけど、こうしてちゃんと見ると本当に美人だ。


 さっき「エルフなのに黒髪って珍しいね」といったところ

「そのほうが夜目立たないから染めた」

 と返ってきた時は驚いたが。

 本来は何色だったんだろう。



「ああ、ご主人か。どうしたんだ?」


「集中してるとこごめん。シズク、何してるんだ?」


「いやちょっと聞きたいことがあってね。勝手に部屋に入ったのは申し訳ない」


「とんでもない。もともと私の部屋なんて普通は存在しないものだからな。いつでも入ってきてくれていい。たとえ着替え中でも何でも」


「そ、そうか。ところで今は何をやってたんだ?」


「さっきまでちょっと王都にいっていてね。まぁ盗聴器を仕込んできたんだ」


 先ほど首輪を解除した際にシズクから

『ご主人は有名な商人とつながっているって聞いたんだが、もしできるのなら用意してほしいものがある』


 と言われたからゲルグさんに魔法具でシズクの言うとおり注文して取りに行ったところまでは知っていたがまさかそんなことをしていたとは。


「じゃ、じゃあ一人で王都を歩き回っていたのか!? 大丈夫だったか?」


「むしろ複数でいるほうが危険だからな私みたいな奴は。それに盗聴器をただ買ったわけじゃなくてちゃんと一からオリジナルで作ってるから足はつかないと思う。もしバレてもここは絶対特定されないし。今つながってるのは商店街の数か所と冒険者ギルドで流石に王城は諦めた」


「そうか、ありがとう。・・・無理はしなくていいからな」


「もちろん。それにこれは自分のためでもあるから。自分のスキルが鈍らないようにするため。それで? ご主人は何か私に用があったんじゃないのか?」


「あ、ああ」


 シズクに今日の今までの出来事、そしてシズクの年齢を知りたいと伝えると、


「年齢? 生まれてからか、そうだな・・・200年とかそこらじゃないか? あまり詳しくは覚えていない」


 とのこと。大体ヴェルと同い年ってことか。


 これによってこの屋敷において全員の年齢が判明した。

 年上順に並べると、

 バン&アイナ、ダニング、ヴェル&シズク、俺、そしてたま。


 俺とエルフとの間にはすさまじい壁があるがもう考えないことにした。

 エルフの寿命の概念を人間に持ち込むともう意味が分からなくなる。

 ただのバグだ。

 エルフの中でも最年少であるシズクとヴェルでさえ、俺の10倍は生きていると思うともう何が何だか分からなくなるし。


「用ってのはそれだけか?」

「あ、あぁごめん呼び止めて」

「・・・なら私もご主人にお願いがあるんだが」


「お願い? できることなら何でもするけど」


「私を・・・犯してほしい」

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