第11話 エルフの年齢
全員の首輪の解除が終わった後、俺は自分の書斎に戻り部屋の片づけをすることにした。
なんせシズクの呪いを解いたあとのまんまだからそこら中に紙やインクが散乱している。
ヴェル曰く
「どれが大事でどれが捨てていいのかわからなかったためそのままにしてあります。片付けるのであれば手伝いますのでお声掛けを」
らしいがこれくらいは俺がやろう。
そう思ってごみ袋を取りに一旦部屋から出た時だった。
「ご主人様? 片付けるなら手伝うと言いましたよね?」
扉を開けてすぐ目の前にニッコリ笑顔の有能メイドがいた。
心なしかちょっと怖い。
「え、い、いや、これくらいは・・・」
「手伝います」
「・・・」
「手伝います」
「わかった・・・よろしく頼む」
こうしてヴェルの圧に負け、二人で掃除をすることになった。
******
「ところでヴェルって今何歳ぐらいなんだ?」
二人で俺の部屋を掃除している最中にふと疑問に思っていたことを聞いてみることにした。
エルフの寿命は人よりも長いとは聞いていたが、実際彼らがどれくらい生きているのか聞いたことはなかったからだ。
ただ言った後に「これってエルフにしちゃいけない質問か?」と思い焦ったが、どうやら大丈夫だったみたいだ。
うん、この顔は大丈夫な顔だ。なんだかだんだんわかってきたぞ。
「そうですね・・・『何歳』という概念は基本的にありませんが私は生まれてから大体200年ほどたってますね」
「え? い、今なんて言った? 200年!?」
「そ、そんな驚くことではないと思いますよ。それで13年前にエルフの国が滅んで人間に売られ気づいたら未知の病にかかっていた次第です」
「ほえー、俺なんてまだ25歳だぞ、生まれて25年しか経ってないよ!? あれ、でもダニングがじゃあ一番年上ってことかな? 見た目的に」
「そうとは言い切れません。そもそもエルフの成人は100歳なのですがそこまでは人間と同じように成長します。ですがそこから900歳になるまで自分がこうなりたいと思った姿に成長するのです。一回老いてしまえばそこから若返ることはありませんが。で、900歳を過ぎるとそこから人間のように老いていく感じになりますね」
「つまり100年経てばそこから人によっては見た目が変わらなくなるのか。たしかに年齢っていう概念がよくわからなくなるな」
「はい。ですのであまり考えたことはありません。おそらくですが人間の20歳がエルフの100歳に相当しますね。単純計算で5年で1歳年を取ることになりますかね、人間の常識に持ち込むと。一応生まれて100年まではエルフも数えるのですがそれを超えると気にしなくなります」
なるほど、エルフは成長するのも遅いのか。人間に比べてだけど。
多分エルフにとってはそれが普通だし、だからこそ人間から見たら不思議に思える。
種族の差ってすごいな・・・
「じゃあどのエルフも、もっとダンディになりたいって願えばそうなるってこと?」
「まあそうですね。というよりもそう願わなければ老いないと言ったほうが正しい気もしますが。まあそのエルフの能力も首輪のせいで押さえつけられてたのでみんな若いままだったんですけどね」
「まじか・・・ちょっとほかのエルフにも聞いてみるか」
「そのほうがいいと思います。ここは私が片付けておきますのでご主人様はどうぞご自由になさってください」
「いや、いいよ。掃除が終わったら行く」
「そうですか。あ、それでは最後に忠告をしておきます」
「忠告?」
「エルフの寿命が長いことはわかっていただけたと思いますがその分子供が生まれにくいんです。じゃないと今頃この世界はエルフだらけになってますもんね」
「確かにそうだな。寿命が人の約10倍ってことだし同じだけ繁殖力があれば人口も10倍になるもんな」
「ですので人間たちには性欲処理として重宝されたというのはありますが・・・、まあそんなことは置いといて。エルフは子供ができにくいけど寿命は長いっていうのはご理解いただけてますよね」
「うん、まあ」
「ですがエルフにも人間と同じように結婚という概念があります。そして基本的に一度結婚した
「人間よりも何倍も長い付き合いになるはずなのに、離婚、すなわち相手を嫌になることがほとんどないと」
「そうです。・・・エルフは男女問わず一度恋に落ちた人に対して異常な執着心を持つ種族なんです。普通は人間に恋に落ちるなんて絶対ない現象だったんですが、今のこの状況ですと何とも言えないというか・・・、人間とエルフがここまで密接な関係になることがまず無かったというか」
「シズクか・・・」
「それだけじゃありません。アイナ様も、そして私も。もしかしたら恋に落ちた、ではなくて心に決めた人、であればバン様やダニング様も例外ではありませんね」
「つまりは何が言いたいの?」
「エルフとの距離感について、お気を付けください。ご主人様が思っている以上に私たちはあなたに感謝していますし、尊敬もしています。そしてご主人様は普通に鈍感です」
「忠告ありがとう、気を付けるよ、あと最後の一言は余計だろ」
「ふふ、申し訳ありません」
そういってはにかむ彼女は本当にきれいだった。
すこしだけ、エルフをそういう風に扱う気持ちが分かったかもしれない
多分、俺がもっと社会に出ていて王国の黒い部分に関わり続けていたらおれも間違いなくほかの金持ちと同じ末路をたどっていたに違いない。
金で好きなようにエルフを買って好きなように扱う、そんな者に。
「引きこもり生活に感謝する時がくるとはな・・・」
そのあとはたわいもない話をしながらヴェルとの掃除を終えた。
*****
掃除が終わった後は当初の予定通りみんなの年齢を聞いて回ることにした。
晩御飯の席で一斉に聞いてもよかったけどなんかそれは気が引けたからだ。
「まずはダニングかな」
そう思っていい匂いが立ち込める厨房へと歩いていく。
この匂い、さては今日は肉だな?
「お疲れダニング、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
そう話しかけたのは目の前の高身長でがっしりとした男性エルフ。
茶髪の短髪で目は黒く、とがった耳以外は30代前半の一般人男性と変わらない風貌だ。
「どうしたんだ?」
「いや、ダニングって生まれてからどのくらい経った?」
「そうだな・・・大体300年ってところか。急にどうしたんだ?」
「いや、みんなの実年齢が気になって」
「で、俺が一番老けているから気になったと」
「まあ身もふたもないけどそんな感じ。ああでもエルフの見た目についてはヴェルから聞いてるから大丈夫だよ」
「そうか。ああ、あと今日の飯も19時でいいのか?」
「うん、これからもその時間で頼むよ」
「わかった。何かあればまた言ってくれ」
なるほど、やっぱりヴェルよりかは年上なのか。
やばい、ちょっと楽しくなってきたかも。
そうだな、次はあの双子のところに行ってみるか。
******
家の外に出てヴェルが整備したという広場の方に足を運んでみるとそこには二人のエルフがいた。
目にもとまらぬ速さで剣を打ちあう二人の姿は俺の鈍い動体視力ではほとんどとらえることができないから、「うわぁすげー」って言葉しか出てこなかったけど。
しばらくぼーっと二人の打ち合いを見ているとアイナのほうが俺に気づいたようで剣の打ち合いをやめて俺のほうへ近づいてくる。
二人とも額に汗を滲ませているが気持ちよさそうな顔をしているのがちょっとうらやましい。
「どうしたのですかご主人様? ここに来るなんて珍しいですね」
「いや、ちょっと気になることがあって聞きに来たんだけど・・それにしてもすごいね。全然目で追えなかったよ」
「主を守るために我々も実践感覚を取り戻していかないといけませんからね。どうです? 主も盗賊くらいからなら自分の身を守れるくらいに動けたほうが今後動きやすくなるとは思うのですが」
確かに、その発想はなかった。
俺がある程度強くなればこの二人の負担はかなり減るよな。
「そうだな、俺もちょっとやってみるか! バン、俺に教えてくれないか」
「もちろんです。まずこの剣を持ってください」
そういってバンに片手で渡された剣を俺は、
両手で持てなかった。
ゴンッという音とともに地面にめり込む剣先。
そこから俺がどんだけ頑張っても剣は微動だにしなかった。
「ちょちょちょっ、お、重すぎんだけど! ふぎぎっ! 剣先が、剣先が上がらん!!」
「「え?」」
「ちょ、助けてくれ!!」
そんな風に苦しむ俺を、二人のエルフは「やべえ、どうしよう」とでも言いたげな目で見ていた。
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