第10話 幕開け

 目覚めたのはシズクの呪いを解いてからさらに3日後が経った後の昼だった。

 つまり俺はあれから丸3日間寝ていたことになる。


「えーっと、その、シズクさん? これは一体何を・・・」

「何とはなんだ? 私はご主人を温めていただけだ」

「俺のことを嫌いだったはずじゃ? こんなに近づいたら・・」

「あの頃のことはもう忘れてくれ。今はもう心も体もご主人に服従している」


「なるほど・・・。そうではないかと思っていましたが、やはりご主人様はシズク様に乱暴をしたのですね? 密室で、二人きりでしたし」


「ちょ、ち、違う! そんなことしてない!! ていうかヴェル起きてたんだおはよう!!」


 どうやらさっきの俺の大声でみんな起きてしまったようだ。

 俺の右にはシズクが、そしてベッドの周りにはヴェル、バン、アイナがいる。

 そしてどことなくいい匂いが漂ってきているからおそらくダニングは厨房で料理をしているのだろう。楽しみだ。


「おはようございます。いや、先日までご主人様を毛嫌いしていたシズク様が急にしおらしくなったことについて私とバン様、そしてアイナ様で話し合った結果、ご主人様が手を出して調教をしたという・・・」


「だしてない!! ち、治療しただけだ!!」

「あんなに激しく服を脱がせたのにか」

「シズクは静かにしてて!! あと早く服着て!!」

「あれだけ私の裸を見たのにまだ慣れていないのか。かわいいやつだな。ほーれほれ、好きなだけ見るがいい」

「口を閉じろぉおおお!!」


「ご主人様、我らエルフは体を好きなようにされても文句は言いません。ですがこの心は! 簡単に奪えるものではありません。もう私は奪われているので大丈夫ですけど」


「ちょっとまって、そっち方向で話を進めるのやめて。アイナがびっくりしてるから。あとバンその顔やめて悲しくなるから、違うからね」


「わ、わわ、私もそれくらいなら・・・」


「確かに下の事情は俺には何もできません。も、もちろん主がそれ目的でエルフを買っていたとしても俺は何も言いませんよ。俺にバレないようにやってほしいとは思いますけど」


「あ、やっぱりそれ目的で私の事買ったのか。いいぞ私はいつでも」


「お前ら俺の話を聞いてくれぇえええええ!! ダニング! ダニングー!! 俺を助けてくれぇ、冤罪の容疑にかけられてる!! 」


「・・・何やってんだあの人は。ズズッ。うん、うまい」


 起きたばっかりの俺の叫び声は家の中に虚しく響いた。


 *******


 ダニングの料理が完成したのを合図に今この家に居る5人のエルフ、そして一匹の猫と俺がリビングに集まって食事を開始する。

 今日の献立はビーフシチューとパンだ。


「えー、とりあえず今の状況を整理する。食べながらでいいから聞いてくれ」


「それは先ほどの裁判の弁解ですか?」


「え、さっきの裁判だったの? っていうか一回俺の話を聞いてくれ!」


「申し訳ありません、少々出過ぎた真似を」


「よし、じゃあまずは自己紹介・・・はもういいか、確か俺が眠っているうちに済ませたんだろ、ヴェル?」


「はい。こちらで出来たことは全て終わらせてあります。使われていない部屋を掃除したところ1階に3部屋、2階に2部屋空きがありましたので一応すぐにでも使えるようにしておきました。ご主人がお好きなようにお使いください。あとお風呂の湯舟の方は何年も使われていないようでしたので掃除しておきましたし、周りの土地を整備して畑や軽く体が動かせる場も作っておきました」


「す、すごいな・・・。仕事が早い」


「そこでなんですけど、私たちに一人一つ部屋をというわけではありませんがせめてどこで普段過ごせばいいかは指定していただければ・・・」


「確かにそうだね。じゃあ2階の二部屋はバンとダニング、1階はヴェルとアイナとシズクが使ってくれ。俺はあの書斎でいいから」


「そ、それはいけません!! 奴隷の身である私たちに・・・」


「アイナ、落ち着いて。・・・よし、じゃあまずはこれからの事を話そう。今から俺たち6人はここで一緒に暮らすことになる。俺はこの家で完全回復薬の増産と改良、そして昨日言った魔法の開発をしていく。これに当たって家のことは出来ないから料理はダニング、その他のいろいろはヴェルに任せる」


「かしこまりました」

「わかった」


「それで、多分これから先俺はいろいろなところに狙われると思う。目的は完全回復薬の盗難だったり、お金だったり、もしくは何らかで俺の計画がばれた時に軍の人に攻撃されるとか。そして俺は非常に弱い。びっくりするほど弱い。だから街に行くときの護衛やこの家の騎士をアイナとバンにまかせる」


「了解です」

「わかりました」


「で、さいごにシズクは王都と元エルフの国の視察とかの諜報活動をまかせる。ここに籠ってたら外の状況が一切入ってこなくなっちゃうからね。ただ、ここから王都はドラゴンに乗っても一時間かかるからシズクはもしかしたら王都に滞在することが多くなるかもしれないけど・・・」


「まて、ご主人はこの首輪を取れるのだな?」


 シズクが自分の首につけられている首輪をコンコンと指でつつく。


「まあそうだね」


「じゃあ大丈夫だ。首輪がなければ私は転移魔法を使えるからすぐに行き来ができる。一日往復を一回が限界で私しか転移できないがな」


「・・・まじで? じゃ、じゃあ頼むよ。一応これを用意してたんだけどな」


 ポケットから赤色のガラス玉と青色のガラス玉を取り出してシズクに赤色だけ渡す。


「これはなんだ?」

「一応持ってて。もしなんかあったときにそのガラス玉を割れば俺のところまでワープできるから」

「ご主人はそんなものも作っていたのだな。わかった、ありがたく頂戴しておく」


「これから先君たちは危険な目に合うかもしれないけれど何よりも大事なのはその命だ。だからこれだけは忘れないでくれ。1に命、2に命令、そして3に俺だ。あ、あとこれから先自分たちの事を奴隷っていうのも禁止する。なんか嫌だ」


「えっ、でもそんな・・・」


「わかりました。私たちがどうするかは別として、取りあえず胸にはしまっておきます」


「そうですね。どうするかは別として」


「なんか含みのある言い方だな、ヴェル、バン」


「いえいえ、そんなことはないですよ」


「まぁいざ大変な状況に陥ったら優先順位が前後する可能性はありますが、平常時はその考えを胸にしておきますね」


「・・・まあいいや。これからよろしく頼むよ、みんな。」


「「「「「はい」」」」」


「よし、じゃあまず首輪を取るから座ったまま楽にしてて・・・・」


 こうして俺と5人のエルフの共同生活が幕を開けたのであった。



 だがこの数日後にもう一人エルフが増えることを俺はまだ知らない。

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