第3話 一人目②
一瞬のうちに景色が変わり宿に到着する。
『転移玉』
これは青色のガラス玉を目的地において、離れたところで赤玉を割れば青玉までワープできるというものだ。
欠点は一回しか使えないことと、青玉はこの世に2つ以上存在できないことだ。
というか二つ以上つくったら行先が指定できなくなって大変なことになる。
それに青玉は家に置かず旅先の宿に置くようにしている。
家で誰かが移動させたり捨てたりしたら多分死んじゃうから、俺。
今回はそれが功を奏したみたいでよかった。
「あ、あ、あの・・・」
「ああいい、無理にしゃべらなくて。とりあえずこれを飲んでくれるかな?」
そういってエルフの少女に
王様に見せるように持ってきた貴重な回復薬ではあるが仕方がない。
「わ、かりました・・・」
彼女が恐る恐るその瓶を口に運ぶ。
(頼むから割ったりするなよ貴重なんだから・・・)
そんな俺の思いを知ってか知らずか彼女は丁寧に飲みほす。
そして突然目を開いたかと思えば・・・
「きゃぁあああああああああああ」
大絶叫が響いた。
思わず耳をふさぐがこれはもうどうしようもない。
「がんばれ、何とか耐えてくれ!!」
絶叫しながら暴れる彼女をなんとか抑えこんで支える。
「ど、どうしたんですか!?」
「あっちょっと待って!!」
宿の人が不審に思い部屋の前まで来てためらいなくドアを開ける。
しまった、出てくときカギ閉めるの忘れてた・・・!
「一体何が・・・・ってそういう事ですか。エルフで楽しむのもいいですがもう少し周りに気を使って・・・」
「ち、ちがう!!!」
「失礼しまーす」
「ちょっ!!」
「がぁああああああああああ」
「痛ててっ! 頑張って!!」
確かにこの構図、奴隷を調教しているようにしか見えない。
ていうかやっぱり大人にとってエルフはそういう存在なのか・・・。
宿の人が出て行って少しした後、ようやく少女が落ち着いてすやすやと寝息を立てて眠りに落ちた。
俺はというともうぼろぼろだ。肉体的にも精神的にも。
取りあえず先に眠りに落ちた少女をベッドに寝かせたあと、シャワーを浴びて部屋においてある机と椅子で寝ることにした。
******
次の日、先に目が覚めたのは俺だった。
そもそも今まで研究に没頭してたから睡眠時間なんて無いようなものだったしそういう体になってしまっている。
軽く伸びをした後未だなお、すやすやと眠る少女のもとへと近づいてきその髪に触れてみる。
「本当にきれいな髪だ。・・・人間とほとんど変わらないのにどうしてこんなことに。なんで・・・」
どうやらその声で起こしてしまったらしい。
軽く寝返りを打って俺の方を向いた後、徐々に目が開いていく。
「ここは・・・?」
「よかった目覚めた?」
ようやく意識が戻ったようで目がカッと開く。
そのあと、驚いた猫のように飛び上がり俺の前に座りあろうことか土下座までしている。
「も、申し訳ございません! ご主人様よりも遅く起きてしまったわたしをどうかお許しください!!!」
え?
「申し訳ありません、ですのでどうかお仕置きだけは・・・!」
完全にこの子前の主人と勘違いしてるな。
それに前の主人どんな扱いをしていたんだこの子に。
未知の病気で苦しんでいたであろうこの子になにをしていたんだろう。
「大丈夫、俺は君の味方だよ。ほら、傷も病気も治ってるでしょ」
「え・・・・?」
信じられないと言った顔で自分の腕を、足を見渡す彼女。
その綺麗な肌にはもう傷一つついていない。
もちろん病魔も消え去っている。
「なお・・・ってる?」
「ああ、だからもう何も怖くないよ」
そのままぽろぽろと涙を流し始めてしまった彼女。
ちょっと照れ臭くなった俺はそのまま泣き止むまで待つことにした。
*****
「本当にありがとうございます。これからは何なりと私にお申し付けください」
ようやく泣き終わった彼女はスッと立ち上がり俺の目をじっと見つめる。
銀色の髪はぼさぼさになっており服は一体いつから同じものを着ているのかわからない。
そのおかげで彼女の良いスタイルが目立っているといっても過言ではないが。
「あの・・・どうしたのですか先ほどから見つめて」
「い、いやなんでもないヨ!」
動転して声が裏返ってしまった。
「べつにご主人様が望めば私の体なんて・・・」
「いい、それ以上言わなくていい!! と、とりあえず今日は君の服を買いに行くよ!! その髪もなんとかしないとだし」
「かしこまりました」
「そのためにもまず君にも名前がなくちゃね。君はなんていう名前なの?」
「・・・私はあの戦争で死んだも同然です。それからのことは思い出したくもありません。今日、ご主人様のおかげで私は生まれ変わったのですからご主人様がお好きなようにお呼びください」
「そうか・・・じゃあ、うーん、ヴェルなんてどうだ?」
「かしこまりました。ご主人さまの名前は何というのですか?」
「フィセルだ。これからよろしく」
*******
そのごヴェルの髪を街の美容室で切ってもらって服屋で適当にいくつか買った。
美容室で服屋でもヴェルは
「ご主人様のお好きなように」
っていうもんだから俺は
「店員さん、似合うようにお願いします」
としか言えなかった。
しょうがないじゃないか、彼女いない歴=年齢なんだから。
服屋で服を選び終わったあとは日用雑貨品をそろえたりいろいろしてるともう昼過ぎになっており小腹がすいてきたころになっていた。
「ヴェル、お腹すいた?」
「いえ。ただご主人様がすいているのなら御供します」
美容室では髪を肩ぐらいできれいにそろえてもらって、服屋では店員さんにいいようにマネキンにされていたヴェルがキリッとした顔で答える。
その後「グゥー」と漫画のような音を鳴らさなければ満点だったが。
いや、こっちのほうが可愛さもあって満点かもしれない。
「こ、これはその・・・」
「あはははは。こうやって歩き回るのもひさしぶりだろうし一回休もうか。あそこにちょうどいい喫茶店があるし」
まだ顔を赤らめてわたわたしているヴェルの手を引っ張って強引に中に入る。
まるで昨日俺が路地裏でゲルグさんに引っ張られたときのように。
こうして俺らは少し遅めのランチを食べることにした。
******
「あの・・・いいんですか? 本当に食べて」
店に入ってからも「私は大丈夫です」といってきかない彼女に仕方なく俺は命令という形でご飯を食べさせることにした。
「うんいいよ、どんどん食べて」
「い、いただきます・・・」
そういってようやく頼んだサンドイッチを口に運ぶ。
一口かじった後の嬉しそうな顔は多分生涯忘れることはないと思う。
俺も頼んだパスタを食べつつ一息ついたところで彼女にいろいろ聞いてみることにした。
「食べながらでいいんだけどさ、ちょっといろいろ聞きたいことがあるんだけど」
「なんでしょう?」
そういって食べる手を止めてこちらを見据えるヴェル。
いや、食べてていいんだよ?
「今日一緒に街を歩いたけど・・・やっぱ俺とヴェルみたいな人とエルフの関係って珍しいの?」
そう、服屋に行くにしろ美容室に行くにしろ今こうやって喫茶店で食事するにしろまず最初店員さんは「え? この娘に?」といった顔をする。
そして今日街を歩いてみてわかったけれど、男のエルフは護衛として後ろについていることが多いけど女のエルフと一緒に歩いている人はいなかった。
それどころか護衛は顔をマスクで覆っていて男か女かよくわからないことのほうが多かったけど。
だからこそ俺は今日変な目で見られ続けた。
今も周りの客に変な目で見られている、
「そう、ですね。基本的にエルフは大金を出して買うものですから何人も買うわけにはいきませんし。言いたくはないですけど普通は女性のエルフを性欲処理のためだけに貴族が買っていることが多いです」
「やっぱりそうなのか・・・」
「男のエルフはどっちかっていうと力仕事を低賃金でやらされることが多いです。護衛できるほどの能力をもつエルフを買うとなるとそれはそれで値が張りますし」
ここにきて学園生活はわき目もふらず勉強して、卒業してからは家にこもり続けていたツケが回ってきた。
俺は社会的知識が抜け落ちているみたいだ。
「だからこそ・・・その、私がこういうのも変ですがなんでこのような待遇を受けているのかわからないのです。髪はまだわかります。汚い者に手を出したくないでしょうから。ただ服を買ってもらってこうしてご飯まで食べさせてもらって・・・な、なにが目的なのですか?」
「目的もくそもない。ただ救える命があったから救っただけだよ。たしかに俺のこの接し方はこの国において異端なのかもしれない。でも俺は変えるつもりはないよ」
どうやらエルフたち自身がもうあきらめて受け止めているようだ。
この国の在り方を、自分たちの立場を。
なら俺も従うことにしよう、俺なりのやり方で。
「それ食べたらヴェルは先に宿に帰ってくれ。あーでもちょっと不安だからついていくけど」
「え? わ、私は逃げませんよ?」
「いや、そういう心配じゃない。その、途中で誘拐とかにあったら・・・やじゃん」
「・・・・本当にフィセル様はお優しいのですね。ということはフィセル様はこの後どこかに行くのですか?」
「うん。本来の目的を達成しに行ってくる」
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