第4話  双子のエルフ①

 ヴェルを宿まで送った後、ポケットから通話式魔法具を取り出してある人に連絡をとる。


『これはこれはフィセル様、どうかされましたか?』

「あ、ゲルグさんですか? 昨日ぶりです。あの、今日ってこの後空いてます? ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

『空いてますとも。それにフィセル様のようでしたらたとえ空いていなくてもよっぽどのことがなければ空けますので』

「ありがとうございます。では、○○通りの××っていう店で16:00はどうですか?」

『はい、大丈夫です。それでは』

「よろしくお願いします」


 相手が通話を切ったことを確認してこちらも電源を切る。

 本当に丁寧な人だ。俺のほうが一回りも若造なのにここまで丁寧に相手してくれるとは。

 まぁそれもこれも完全回復薬フルポーションのおかげなんだろうけど・・・。


 今は15:30。今から歩いていけばちょうどいい時間だ。

 俺は待ち合わせ場所に指定した先ほどの喫茶店むけてゆっくりと歩き始めた。

 昨日とは違って地面を踏みしめながら。



 *****


「昨日ぶりですな、フィセル様。今日はどういったご用件で? ・・・もしかして昨日のエルフについてですかな?」

「まぁそれも含めて話があるんです」

「そうですか。その、申し上げにくいのですが、やっぱりエルフの返金というのは・・・」


「あ、いえ。彼女は僕の完全回復薬フルポーションで回復しました。今ではもうピンピンしてます」

「は? え、あ、あのエルフがですか!?」

「はい。傷も病も全て治りました」


「・・・し、しんじられない。そうか、だから国王は・・・」

 そういってぶつぶつと聞こえないような声で何かをつぶやいている。


「お、おーい、ゲルグさん?」


「はっ! も、申し訳ございません。そうか、だからあなたはあの手負いのエルフを買っていったのですね」


「そうですね。、まさかあそこまでの傷と病のエルフに効くとは自分でもびっくりですけど。・・・これを商売の宣伝に使ってくれてもいいですよ」


 そういって通話式魔法具の写真を見せる。

 この魔法具は最新モデルで写真を撮ることができるのだ。

 容量はかなり少ないが。

 一枚目が昨日宿に帰ってすぐにとったもの、そして2枚目がさっき喫茶店で撮ったものだ。


「こ、これは・・・・・。どうやらあなたと契約出来たのは幸運の極みだったのかもしれませんね。それで? これを報告しに来ただけではないでしょう。私に何をご所望ですか?」


「その、ここ数日にでもやってるエルフの競売ってありますか? 昨日そんなこんなで結局護衛を雇えてなくて」


「ふふ、そうやって『買う』という表現を避けるの私は好きですよ。そうですね・・・今日で、しかも護衛ができる位に腕が立つエルフですか。ちょっと席を外しますね」


 机の上においてあった通話式魔法具をつかんでゲルグさんは誰かに電話を掛けに行ってしまった。

 その間俺は注文しておいたコーヒーを飲み干して店員さんにお代わりを注文した。


「遅くなりましたフィセル様。腕が立つものがいるかはどうかわかりませんがとりあえず今日、午後9時から昨日の場所で競売が行われるそうです。なんでも昨日国軍が遠征から帰ってきてその戦利品が多く出品されるそうなので行く価値はあるかと」


「昨日の場所ですか? ありがとうございます行ってみます」


「申し訳ありませんがわたくし今日はこの後用事がありますので、私の部下を案内役でつけさせてもらいます。時間も時間ですし、一緒に私の家に言ってくつろいでから部下と一緒に向かうとよろしいかと」


「いいんですか? ならお言葉に甘えて」


 こうして俺は2日連続でエルフたちが売られている競売へと向かうことになった。



 ******


「案内はここまでです。帰り道はどうなさいますか? 念のため私はここで待っていますが」


「あー、いえ大丈夫です。今ので覚えましたし」


「そうですか。ですがお困りになりましたらすぐにこの番号に連絡くださいすぐに駆け付けますので。万が一にでもフィセル様を傷つけるわけにはいきませんし」


「ありがとうございます」


 そうゲルグさんの部下らしき人と別れて昨日のお化けみたいな人の前に行く。

 そして今日も番号の書いてある札を彼(彼女)から受け取る。


「今日は178か・・・昨日よりも随分と多いみたいだな」


 確かに昨日はあの会場の割には人が少なかった気もする。

 それでも十分多く感じたが。


「俺はエルフ全員を救えるわけじゃない。でも、自己満足だけれど『俺にしか救えない人たち』は俺が救いたい。そうすれば寿命の長い彼らが変えていけるかもしれないから」


 そう呟いて俺は今日もまた競売場に足を踏み入れる。


 *******


「じゃあ次はこのエルフ! 今日一番の目玉! まだエルフの国が健在だったころに騎士団の副長を務めていたエルフです! 値段はもちろん高いですよ、1000万から!!!」


 そしてまた目の前でエルフが売られていく。

 昨日はあそこまで勇気を出してかうと言えたのに今日は中々でない。


 それはこの会場の雰囲気にも影響しているであろう。

 昨日とは人数も、熱気も大違いだ。


「2000万出ました! さぁ次は!?」


 どんどん跳ね上がっていく値段。

 そしてそれに比例してヒートアップしていく客たち。


「いませんね!? それでは56番さん、2500万円で落札!!」


 やはり嫌だ、この雰囲気。

 まだ若い俺にはわからない。命の価値、そしてこの社会のルール。

 昨日エルフにお金を払って、勝手にわかった気になっていたが体は正直なようだ。


「もう抜け出そうかな・・・」

 と思ったときだった。



「じゃあ次!! 次はちょっと特殊で何でもエルフの癖にこちらに指示してきました。なんでも兄妹一緒に買ってほしいとのことです。どうやらこの兄妹は向こうの国では有名な双子の騎士でかなりの実力者だったみたいですが戦争で目をつぶされて騎士として使い物にならない欠陥品ですがどうでしょうか!?」


 司会者の声に反応して舞台の中央に目をやる。

 そこには目に包帯をぐるぐる巻きにして、二人で震えながら抱き合っている双子のエルフの姿があった。

 抱き合っている、というよりも兄のエルフが妹を守っている感じだ。


「二体なんて買ってられるかよ!」

「妹だけなら700万で買ってもいいぞ」

「800!!」

「じゃあ兄は400万」

「800!!」


 一人が声を出したのをはじめとして客がどんどん値段を釣り上げていく。

 個々の値段でだ。


「だってよ。残念だがお前らは別々で売らせてもらう」


 司会者の男がエルフにそう伝えた。ように見えた。

 そしてその証拠に二人が一斉に嘆願し始めた。


「いやだ・・・頼む、どうか頼む!! これ以上俺から何も奪わないでくれ!!! 俺は、どうなってもいいから・・・」

「お願いですお願いです。私はどうなってもいいので兄は解放してください・・・!」


「解放? わかってねえなお嬢ちゃん。お前らはもう売り物なんだよ!! それに口出す権利も自由もねえ!! それにお前ら目ぇ潰れてんだろ? そのままじゃ生きれねえお前らにチャンスがあるだけいいと思え。・・・えー、やはり別々に売ることにします。まずは妹の方から、500万円から・・・」


「やめろ、やめてくれ!!! アイナ、アイナ!! 頼む!!」

「兄さん・・・」


 昨日と同じ感じだ。

 さっきまで言うかどうか迷っていた言葉が、むしろ勝手にこぼれないようにふさぐのが大変な、そんな感覚。


「178番、兄妹二人まとめて3000万」


「はっ? え?」


「だから一人ずつ1500万出します。ほかにあればどうぞ」


「え、えーほかにあるようなら1500万から・・。無いようなので178番様落札・・・。そ、それでは次に行きます」


 こうして俺は今日もエルフと契約をしたのだった。

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